「とある」と「かかる」

「或る」を「と或る」と書く表現がはやっていて、特に、
ラノベのタイトルに唐突に用いられるのがよく見受けられる。
なぜ「ある」と書けばよいところをわざわざ「とある」と書くのかという疑問がわいてくるのだが、
文法的に間違っているとも言い難い。
この違和感をどう説明すればよいか。

調べてみると、太平記に
「とある辻堂に宮を隠し置いて」というのが初出らしい。

も少し調べてみると、「とあれかくあれ」「とまれかくまれ」のような形はもっと古くて、
それが「ともかく」「とかく」のような形で定着する。
「ともかく」の「と」と「とある」の「と」は同じ由来なのだ。
そしてこのような「と」の使い方は万葉集の時代までさかのぼる。
つまりは由緒正しい古語なのである。

「とある日」は不確定の日であろう。
「かくある日」「かかる日」は特定の日であろう。
「とあれかくあれ」ならばそれら全部をひっくるめてすべての場合という意味になる。

「或る」はもともと漢文訓読に由来するという。
この「或る」が「とある」と混同されて広く使われるようになったのかもしれない。
そもそも「或」は「とある」と訓読すべきであったかもしれぬ。

「とある科学」とか「とある魔術」のような言い方が重宝されているのはなぜか。
新しいニュアンスが追加されているのは間違いない。

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