亦不知其所終 田中久三 aka 田中紀峰のサイト。

バルシネとネアルコス

09.09.2017 · Posted in 歴史

こちらのブログを書いているということは執筆活動が一段落したということなんだけど、実はまだ修正しながらちょこちょこ書き足している。

ネアルコスはバルシネの娘(父はバルシネの最初の夫メントル)と結婚した。 この娘がなんという名であるかははっきりしていない。 作中ではアダという名前にしているのでとりあえずアダと呼んでおく。 ちなみに Ada というのは、DARPA が開発した言語の Ada と同じ。 Ada を Ada という女性が開発したのではない。 Ada という名は、世界で初めてのプログラマとされる Ada という女性にちなんだ名だという。 ちなみに女性が開発した言語としては COBOL が知られている。 グレース・ホッパーという人で、彼女もまた軍人だ。

話がそれたが、 アダとネアルコスはスーサの合同結婚式で他のカップルとまとめて結婚したことになっているのだが、必ずしもそうとはいえないと言う気がしてきた。 スーサよりずっと前にバルシネはアレクサンドロスの子ヘラクレスを身籠もった。 ヘラクレスという名はマケドニア王族には見られない名なのだが、明らかに、この名は彼がテュロスで生まれたことによる。 テュロスの神はギリシャ人にはヘラクレスと呼ばれていたからだ。 アレクサンドロスの正式な結婚式はスーサだけであり、ヘラクレスという名がマケドニア王族らしくなく、バルシネはアレクサンドロスよりずっと年上だったことなどから、バルシネは正式な妃ではなく側室であり、バルシネが生んだヘラクレスも庶子とみなされていた、といわれる。

だが、バルシネという人はかなり身分の高い人だったと思えてきた。 バルシネの妹にはアルトニスとアルタカマがいるが、この二人はバルシネほどは重視されていない(のちにアルトニスはエウメネスと、アルタカマはプトレマイオスと結婚したのだが)。 バルシネはメントルと結婚し、その後メムノンと結婚した。この二人の兄弟はアルタバゾスの艦隊を相続した。 バルシネの娘アダはネアルコスと結婚したが、 アルタバゾスの艦隊は、メントル、メムノンと相続され、その後アルタバゾスの子ファルナバゾスに相続され、 その後ネアルコスに相続されたのである。 つまり、バルシネもしくはバルシネの娘と結婚した者がアルタバゾスの正統な後継者とみなされているのである。

アルトニスやアルタカマではダメでバルシネの血筋でなくてはダメらしいのである。 それで、私としては、バルシネをハリカルナッソスの王女アルテミシア(ハリカルナッソス女王アダの娘)ということにした。 ペルシャの王族アルタバゾスが、ハリカルナッソス王女アルテミシアを正妻に迎えることは十分あり得ることで、 アルテミシアの娘であればこそ、バルシネの子はアルタバゾスの後継者にふさわしかったのではないか、ということになる。

ギリシャ、ローマ世界に見られる婿取り婚の伝統はもともとペルシャのものであったと思われる。 オクタウィアヌスがティベリウスを婿に取って以来、ローマ皇帝が婿取りする(皇女と結婚することが皇帝即位の条件となる。ローマ皇帝が女系継承される)ことは珍しくない。 女帝が再婚してその夫が皇帝になることもある(東ローマのことだが)。 カッサンドロスもフィリッポス二世の娘テッサロニケを娶って後にマケドニア王になった。 おそらくカッサンドロスとテッサロニケの結婚もスーサより前に決まっていたと思う。

フランク王国や神聖ローマ皇帝やその後の西欧の王室では、しかし婿取り婚は見られない。 それはフランク王国のサリ族の法典が、女子の相続を認めてないからだ。

それで、私としてはネアルコスの結婚は、スーサより前にネアルコスがアルタバゾスの後継者になったときすでに成立していたと思う。 また、エウメネスとアルトニスの出身地が極めて近いことも偶然ではないと思っているわけである。 少なくともエウメネスはスーサでいきなりアルトニスと会って結婚させられた可能性は低い。 プトレマイオスとアルタカマも子供の頃からの知り合いかもしれない。 その他の結婚相手も、たまたまスーサで無理矢理結婚させられたのではなくて、それまでに何か理由があって結婚したのではないかと思われるのだ。

バルシネがヘラクレスをどこで育てたかということは明らかではないのだが、 アルタバゾスのもともとの領地であるフリュギアではなくて、 バルシネの娘とネアルコスが結婚したことから、 ネアルコスの本拠地であるクレタであった可能性もあり、 また、メントルやメムノンの本拠地はハリカルナッソスもしくはロードス島であったから、 ヘラクレスはロードス島かハリカルナッソスで育ったのではないかと思われるし、 であれば、バルシネがアルテミシアの娘であると極めて都合が良いのである。

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