unten と oben

福音館書店の矢川澄子著『ハイジ』を読んでいると、どうにもわからないことがある。
バルベルは「下のプレッティガウに住んでいた」と書かれているが、川の上流下流で言えば、プレッティガウはマイエンフェルトの上流に当たり、方位で言うと、南もしくは南東に当たる。
(アルムおじさんの)おかみさんは「下のビュンデンの人」と言っているのだが、マイエンフェルトはグラウビュンデン州の中では一番ライン川の下流に当たり、
方位で言えば北のはずれである。
マイエンフェルトの北、ライン川の下流はもう別の州、ザンクトガレンであり、そこにはバード・ラガーツやメールスなどがある。
「こども(ハイジ)は上のプフェファース村のウルゼルばあさんにお金で預かってもらい」とあるが、プフェファース村は、
デルフリ村もしくはマイエンフェルトから見れば、ライン川をはさんで対岸にあって、どちらが標高が上とか下でもなく、上流でも下流でもなく、
方位で言えば西にあたる。
上とか下とかが良くわからん。

[ドイツ語原文](http://www.gutenberg.org/cache/epub/7500/pg7500.html)を読むと、
上というのは oben、下というのは unten、となっている。
oben は上流とか標高の高いところ、unten は下流とか標高の低いところ、という意味もあるが、oben が北、unten が南を意味することもあるらしい。

> unten im Prättigau gewohnt

> der alten Ursel oben im Pfäfferserdorf

などなど。
思うに、『ハイジ』の著者のシュピリはずっとチューリッヒに住んでいて、子供の頃にマイエンフェルトに過ごしたことがあるという。
チューリッヒとマイエンフェルトはごく近い。100km弱しか離れてない(東京から前橋、宇都宮、水戸、小田原くらい。しかも1858年には鉄道が開通しているからすぐだ)から、たびたび訪れたのに違いないが、さほど地理を詳細に把握していたわけではないのかもしれない。
だから、上とか下というのも、単に印象で書いただけなのかもしれん。

特にドムレシュクのことを「下のビュンデン」などというから、ライン川下流の方の、もっと開けたところかと勘違いしていた。
実際にはマイエンフェルトよりさらに山奥の狭苦しい渓谷地帯だというわけである。
やれやれ。

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