「なんだこりゃ。」俺は電車の中でその巻物をあっという間に読み終わって、あっけにとられた。 それはなにかの短編小説らしかった。 家に帰ってからパソコンで検索してみるとそれが何かはすぐにわかった。 芥川龍之介の「素描三題 その二 裏畑」という話だった。 どうもこれはあの女の子の仕業らしい。俺にはそう思えてきた。 あの子は文学少女かなにかで、それで本屋の店員のバイトをしていて、自分が好きな芥川龍之介の小説を、 どんなふうなやり方でやったかは知らないがこういうふうに巻物に印刷して、 それを店に来た客や知り合いにタダで配っているんだろうと俺は想像した。 俺はまたあの子に会いに行きたくなった。 行きたくはなったけれども、俺たちはまだ見ず知らずの間柄で、たまたま店番と客として出会ったばかりで、あんまり馴れ馴れしくするのは気が引けた。 俺はしかしどうしても彼女ともう一度話をしておきたくなった。 向こうが俺になんの興味も示さなければそのまま帰ってくれば良い、でももしかしたら話し相手くらいにはなってくれるかもしれない。 ついでに俺が書いた小説を読んでもらおうかと思った。 気が合うかもしれないし、合わないかもしれないけど、もしかすると気に入ってくれるかもしれない。 もやもやくよくよ、うじうじ迷っているくらいなら行動したほうが良い。そうに決まってる。 世の中には感熱ロール紙というものが売ってありはするがそんなものに印刷するプリンターを俺は持ってないし買う気もなかった。 俺は画材屋で紙テープを買ってきて、それに手書きすることにした。 俺は無理に自分を励まして、彼女の店へ向かった。

第5話終わり 第6話に続く