「何これ?」彼女はプッと吹き出した。 「インターンに行ったときの体験を元に、ちょっと書いてみたんです。」 「インターンで。どこ行ったの?」 「よくある商事会社ですよ。」 「大手?」 「いや。株式上場なんかしてない、その辺の会社です。」 「その会社にそのまま就職する?」 「どうかなあ。」 「ということはこの斎藤ってのがあなたね?」 「そう、そして、俺たちインターンの教育係がその岸川っていう男。内川は、俺と同じときに、俺とは違う大学からインターンに来てた女子大生で。」 「実在のモデルがいる?」 「そう。」 「その子はあなたの彼女?」 「いやあ。ただの妄想ですよ。」 「どのくらいのつきあい?」 「夏休みの一ヶ月ほど、インターンで顔を合わせただけです。」 「でも二人で抜け出してどこかに飲みに行ったりした?」 「いえいえ。全部妄想ですってば。」 「ラインの交換くらいしたんでしょ。」 「してませんよ。俺ラインやりませんし。」 「私もラインはやらないわ。」 「嫌いですか。」 「うん。」 「俺もメールかディスコードくらいしかやらない。」 「ディスコードって?」 「まあ、ラインみたいなもんですね。」女子がディスコードを知らなくても仕方ない。 「その女の子とはそれっきりなの?」 「そうですね。インターン終わった後は。」 「どうして。」 「どうしてといわれても、」もう彼氏いたし、と言おうと思ったがやめておいた。俺は彼女がひっつめ髪で外回りのリクルートスーツを着ている姿しか知らない。 「怖いわ。」 「何が?」 「あなた、私のこともきっとモデルにするでしょ。」 「小説のモデルにできるほどまだあなたのことを知りませんし。」 「そうよね。」 「あなた自身、小説を書いたりしないんですか。」 「あたし?どうかなあ。できるかな。」 「無理しなくても良いですよ。でも、もし明子さんが書いたら読ませてほしいな。」 彼女の名前が明子さんということまでは聞けた。 しかも彼女はこの店のただのバイトではなく、実はあのおばあさんの娘であることが判明した。 彼女は不思議なナリをしていた。工事現場の作業員が着るようなダブダブのスボンを履いていた。それ以外は男の俺にはなんとも言えないよくわからない服を着ていた。 「山田君?」 「はい?」 「山田君って山田タカオ?」 「違いますよ。ユキオです。」 「三島由紀夫ね。」鳩山由紀夫と言われなくてよかった。 「いや、山田ユキオです。」 俺は彼女からこの店のメールアドレスを教えてもらった。 彼女の親はメールを読まないらしいので、この店のメールアドレスということは彼女のアドレスだってことになる。 そして俺は、とりあえず一冊本を買って、今日のところはまだこの店に客として来たというテイにしておいた。

第7話終わり 第1話に戻る