ますらを

和歌語句検索がおもしろい。

「ますらを」で検索すると一番古いので金葉集。つまり万葉集はともかく古今集辺りでは「ますらを」は一切歌に詠まれなかったということだ。

雨降れば小田のますらをいとまあれや苗代水を空にまかせて

勝命法師という人の歌。新古今集。苗代に水を引く農夫が、雨がふったので、その手間がいらず、ひまなのだろうか、というのんきな歌。

ますらをは同じふもとをかへしつつ春の山田に老いにけるかな

俊成の歌なのでだいたい新古今時代。同じ山のふもとを耕しつつ農夫は春の山田に年老いていくのだなあ。これまたのんきな農夫の歌。新古今時代は「ますらを」とは「農夫」「山人」「狩人」などを意味していたようだ。

ますらをもほととぎすをや待ちつらむ鳴くひとこゑに早苗とるなり

藻壁門院但馬(知らん人)。農夫もほととぎすの声を待っていたのだろうか、一声鳴いてから早苗をとった。これまたのんきな話だわな。

ますらをの海人くりかへし春の日にわかめかるとや浦つたひする

「ますらをのあま」で漁師。まあ「あま」だけでも大差ない。

ますらをも月漏れとてや小山田の庵はまばらに囲ひおくらむ

誰の歌かよくわからん。農夫も月の光が漏れるようにと小山田の庵はすきまだらけに作るのだろうか。ふーむ。どうも、「ますらを」「しづのを」「やまがつ」「あま」などは同じような意味だったようだな。農業や狩猟、漁労などの第一次産業に携わる男たち。万葉時代とはかなり違う使われかたのようだ。


追記20260927

「ますらを」は万葉集の時代からある。

語源は「増す」「勝る」「益々」などと同じ。「ら」がついて、勝った有様を言うのだろう。他より秀で優れ勝った、立派な男、「丈夫」という意味。

ますらたけを(勝ら武男)、ますらがみ(勝ら神)と言う言い方もあった。

しかしながらおそらく「古今集」辺りで歌語から外れた。「丈夫」という概念が少なくとも宮中から失われたのだろう。しかし言葉自体は残っていて、源俊頼の時代になって、農夫が農作業するようすを叙景として詠むようになり、「ますらを」が歌語として復活した、というような経緯であっただろう。和歌語句検索にひっかかりにくいのもそのためだ。