> 281 おもふどち まとゐせるよの からにしき たたまくをしき ものにざりける
> 282 人はいさ 我はなき名の をしければ むかしもいまも しらずとをいはむ
> 283 わが身から うき名のかはと ながれつつ 人のためさへ かなしかるらむ
> 284 あまぐもの よそにも人の なりゆくか さすがにめには 見ゆるものから
異本歌、いづくにか世をばいとはむ世中に老をいとはぬ人しなければ
> 285 いづくにか 世をばいとはむ 心こそ 野にも山にも まどふべらなれ
> 286 月夜には こぬ人またる かきくもり あめもふらなむ わびつつもねむ
> 287 おそくいづる 月にもあるかな 足引の 山のあなたも をしむべらなり
> 288 露だにも なからましかば 秋の夜を たれとおきゐて 人をまたまし
> 289 ながれても なほ世の中を みよしのの 滝の白玉 いかでひろはむ
> 290 いまはとて かれなむ人を いかがせむ あかずちりぬる 花とこそ見め
> 291 ひかりなき たにには春も よそなれば さきてとくちる もの思ひもなし
> 292 色見えで うつろふ物は 世のなかの 人の心の 花にぞ有りける
> 293 あまのすむ さとのしるべに あらなくに うら見むとのみ 人のいふらむ
> 294 いろもなき 心を人に そめしかば うつろはむとは おもはざりしを
> 295 ふる里は みしごともあらず をののえの くちしところぞ こひしかりける
> 296 ありそ海の はまのまさごと たのめしは わするることの かずにぞ有りける
> 297 すみよしの きしのひめ松 ひとならば いく代かへしと とはましものを
> 298 ゆきかへり ちどりなくなり はまゆふの 心へだてて おもふものかは
> 299 すみよしと あまはいふとも ながゐすな 人わすれぐさ おふといふなり
> 300 おもひつつ ぬればや人の 見えつらむ 夢としりせば さめざらましを
> 301 もののふの やそうぢ川の あじろぎに ただよふなみの ゆくへしらずも
> 302 わすらるる 身を宇治ばしの 中たえて こなたかなたに 人もかよはず
> 303 いまぞしる くるしきものと 人またむ さとをばかれず とふべかりけり
> 304 わすれ草 なにをかたねと おもひしを つれなき人の 心なりけり
> 305 おほあらきの もりのしたくさ おいぬれば こまもすさめず かる人もなし
> 306 あきの田の いねといふとも かけなくに ををしとなどか 人のいふらむ
> 307 うつせみの よにしもすまじ 霞たつ みやまのかげに 夜はつくしてむ
> 308 いそのかみ ふる野の道も こひしきを しみづくみには まづもかへらむ
> 309 神無月 しぐれふりおける ならのはの なにおふみやの ふることぞこれ
> 310 またばなほ よりつかねども 玉のをの たえてたえては くるしかりけり
> 311 ながれくる たきのしら玉 よわからし ぬけどみだれて おつる白玉
> 312 世の中に たえていつはり なかりせば たのみぬべくも 見ゆるたまづさ
> 313 たがために ひきてさらせる いとなれば 夜をへてみれど しる人もなき
> 314 いまさらに とふべき人も おもほえず やへむぐらして かどさせりいはむ
> 315 わくらばに とふ人あらば すまのうらに もしほたれつつ わぶとこたへよ
> 316 我が宿は みわのやまもと 恋しくは とぶらひきませ すぎたてるかど
> 317 うれしきを なににつつまむ から衣 たもとゆたかに たたましものを
> 318 秋くれば 野にも山にも ひとくだつ たつとぬるとや 人の恋しき
> 319 わがせこめ きませりけりな うくやどの 草もなびけり 露もおちたり
> 320 おくしもに ねさへかれにし 玉かづら いつくらむとか われはたのまむ
> 321 山のはに いさよふ月を とどめおきて いくよみばかは あく時のあらむ
> 322 我がやどの 一むらすすき かりかはむ きみがてなれの こまもこぬかな
> 323 あさなけに 世のうきことを しのぶとて ながめしままに としをへにける
> 324 あはれてふ ことにしるしは なけれども いはではえこそ あらぬものなれ
> 325 世の中は うけくにあきの おく山の この葉にふれる 雪やけなまし
> 326 あさぢふの をののしのはら しのぶとも 人しるらめや いふひとなしに
> 327 やまびこの おとづれじとぞ 今は思ふ われかひとかと たどらるる世に
> 328 わびはつる ときさへものの かなしきは いづれをしのぶ 心なるらむ
> 329 みはすてつ こころをだにも はふらさじ つひにはいかが なるとしるべく
> 330 伊勢のうみの あまのたくなは うちはへて くるしとのみや おもひわたらむ
> 331 かくしつつ よをやつくさむ 高砂の をのへにたてる まつならなくに
> 332 おもふとも こふともあはむ ものなれや ゆふてもたゆく とくるしたひも
> 333 あはれてふ ことのはごとに おく露は むかしをこふる なみだなりけり
> 334 思ひやる こころやゆきて 人しれず きみがしたひも ときわたるらむ
> 335 ありはてぬ いのちまつまの ほどばかり うきことしげく おもはずもがな
> 336 あひ見ぬも うきもわが身の から衣 思ひしらずも とくるひもかな
> 337 われしなば なげけまつ虫 うつ蝉の 世にへしときの ともとしのばむ
> 338 おもひいづる ときはの山の いはつつじ いはねばこそあれ こひしきものを
> 339 わすられむ ときしのべとぞ 浜ち鳥 ゆくへもしらぬ あとをとどむる
> 340 みちしらば つみにもゆかむ すみの江の きしにおふといふ 恋わすれ草
> 341 ほのぼのと あかしのうらの 朝ぎりに 島がくれゆく 船をしぞ思ふ
> 342 いはのうへに たてる小松の 名ををしみ ことにはいはず こひこそわたれ
> 343 あふさかの あらしのかぜの さむければ ゆくへもしらず わびつつぞゆく
> 344 あはれてふ ことこそうけれ 世の中に おもひはなれぬ ほだしなりけり
> 345 足引の 山のあなたに いへもがな 世のうきときの かくれがにせむ
> 346 こひこひて まくらさだめむ かたもなし いかにねし夜か 夢にみえけむ
> 347 みやこ人 いかがととはば やまたかみ はれぬ思ひに わぶとこたへよ
> 348 つつめども 袖にたまらぬ 白玉は 人を見ぬ目の なみだなりけり
> 349 ぬしやたれ とへどしら玉 いはなくに さらばなべてや あはれとおもはむ
> 350 こひしきも こころよりある ことなれば われよりほかに つらき人なし
> 351 あまのかる もにすむ虫の われからと ねをこそなかめ よをばうらみじ
> 352 ちはやぶる かものやしろの ゆふだすき ととひもきみを かけぬひぞなき
> 353 いまこそあれ われもむかしは をとこ山 さかゆくときも ありこしものを
> 354 ひさしくも なりにけるかな 住の江の 松はちとせの ものにぞ有りける
> 355 かぜのうへに ありかさだめぬ ちりのみは ゆくへもしらず なりぬべらなり
> 356 こひせじと みたらし川に せしみそぎ 神はうけずも なりにけるかな
> 357 若菜つむ かすがの野べは なになれや 吉のの山に まだゆきのふる
> 358 みわの山 いかにまちみむ としふとも たづぬる人も あらじと思へば
> 359 いく代へし いそべの松ぞ むかしより 立ちよるなみや かずをしるらむ
> 360 しら玉か なにぞと人の とひしより 露とこたへて きえなましものを
> 361 ながれては いもせのやまの なかにおつる よし野の滝の よしや世の中