冬歌

秋成

染めも果てず 散りも始めぬ 山かげに はやくも冬の けしき立ちたり

木枯らし

頓阿

山はみな 昨日のままの 秋の色を 残さじと吹く 木枯らしの風

時雨

躬恒

初時雨 降り初めしより 菊の花 濃かりし色ぞ また添はりける
頓阿

> 初時雨 降り初めしより 神無月 雲もあらしも 変はる空かな

頓阿

> 神無月 晴るればやがて しぐれきて 庭は落ち葉の 乾く間もなし

時雨
宗尊親王

> 時は今 冬になりぬと しぐるめり 遠き山辺に 雲のかかれる

宗尊親王

> 秋の色を 木にも草にも 染め果てて 竹の葉そよぎ 降るしぐれかな

田安宗武

> 人皆は 秋を惜しめり その心 空に通ひて しぐれけむかも

秋成

> 世のことは 聞こえぬ冬の 山里に けふもしぐれの おとづれぞする

蘆庵しぐれのやどりしてそのあした傘もたせこされしにいひやる
秋成

> むら時雨 布留にとなれる 笠の山 かさでぞ君を とどめましもの

奈良に遊びし時
秋成

> 春日野の 時雨の後の けふなれや 山はみながら 紅葉しにけり

光厳院

> 起きてみねど 霜深からし 人のこゑの 寒してふ聞くも 寒き朝明け

頓阿

> 散りぬれば 染めてもかひの なきものを 積もる木の葉に 霜の置くらむ

西行

> 年のうちは とふ人さらに あらじかし 雪も山ぢも 深ききすみかを

景樹

> 照る月の かげのちりくる ここちして 夜行く袖に たまる雪かな

島津斉彬

> 夕がらす ねぐらにまどふ 声すなり 積もるや深き 木々のしら雪

よみ人しらず

> 冬来れば 梅に雪こそ 降りかかれ いづれの枝をか 花とは折らむ

よみ人しらず

> あらし吹く 山下風に 降る雪は とく梅の花 咲くかとぞ見る

秋成

> 寒き夜を 明かしかねてぞ けさ見れば 生駒が岳に 雪の積もれる

秋成

> ふる里は いかに降り積む けふならむ 奈良のあすかの 寺のはつ雪

宗尊親王

> まだ咲かぬ 冬木の梅の 花の枝に かつ色見えて 積もる白雪

鈴木重視

> ふるままに なかなか松の 雪うすし 重きがうへは やがてこぼれて

蘆庵

> あともなき 朱雀大路の ふるき世を 思ひ出でつつ 雪やわくらむ

堀親昌

> 浦風や 芦の八重葺き ふる雪に なほ冬籠もる 難波江の里

田中久三

> たまぼこの みちのく蝦夷は いかならむ えこそ積もらね わが里の雪

田中久三

> うれしやと おもへばやがて やみにける たのむかひなき わが宿の雪

良寛

> 飯乞ふと 里にも出でず なりにけり きのふもけふも 雪の降れれば

年の果てに鏡を見て
良寛

> 白雪を よそにのみ見て 過ぐせしが まさに我が身に 積もりぬるかも

良寛

> 白雪は 降ればかつけぬ しかはあれど かしらに降れば 消えずぞありける

秋成

> ふるさとの 難波江いかに 寒からむ 鴨の河原に 雪のふれれば

宣長

> 人待ちし 心も消えて 山里は 道もなきほど つもるしら雪

宣長

> 都にも けふは積もらむ 山里は 軒端をかけて 埋む白雪

宣長

> 春としも またしら雪の 消えやらで 冬もはてなき 武蔵野の原


景樹

> ときはにて 宿に立てれど 枇杷の木は 花咲く頃の あはれなるかな

貞成親王

> 冬の日も ものを思へば 暮れがたみ 春より長き ここちこそすれ

岡本宗好

> 冬は来ぬ 軒の山柿 くれなゐに 染めて残れる 色ぞさびしき

枯野
真淵

> 筑波嶺の 緑ばかりは 武蔵野の 草のはつかに 見ゆる冬かな

秋成

> 更級や 姨捨山の 風さえて 田ごとに氷る 冬の夜の月

良寛

> 柴の戸の 冬の夕べの 寂しさを 浮き世の人の いかで知るべき

宣長

> 問はるべき 道絶えはてし 白雪に 春のみをまつ 山の下庵

良寛

> 我が宿は 越の白山 冬ごもり ゆききの人の あとかたもなし

良寛

> 夜を寒み 門田のくろに ゐる鴨の いねがてにする ころにぞありける

年の暮れには、いつも炭を切りて贈らるるに、詠みてかへせし歌
秋成

> うづみ火の すみつきがたき 都にも 思ひをおこす 人はありけり

返し
蘆庵

> 思ひやる かひこそなけれ 埋め火の すみつきてただ ひさにこそあれ

正徹

> 冬ごもり 住むうつほ木も 下折れて 雪野にしるき 熊ぞ出で行く

景樹

> ふじのねを 木の間このまに かへり見て 松のかげ踏む 浮島が原

宣長

> うつそみの 世のいとなみに いとまいりて なすべき事も ならぬうれたさ

宮川松堅

> 今もはや 春のいそぎと 知られけり 風もしぐれも しづごころなき

宣長

> 何くれと春のいそぎにまぎれては惜しむ間もなく年ぞ暮れゆく

田中久三

> やぶつばき 植ゑしまがきに 花咲きて 道にふりしく 里の夕ぐれ

田中久三

> 雪や降る 霰やふると 手をのべて 雨のしづくに 触るる頃かな

田中久三

> いにしへの 吉野の宮の 宮人の 歌を偲べば 寒さまされり

田中久三

> 春なれや 芽吹きにけりな 虫くひて 枯れ木とみえし 軒のいばらも

田中久三

> 軒ちかき 庭のいばらは 芽吹けども 冬の寒さに そだちかぬらし

田中久三

> 春来むと 待つにはあらねど をちこちの 家ゐの庭に 梅咲きそめぬ

田中久三

> しのばずの いけのはちすは 冬がれて 弁財天の おでんたべけり

田中久三

> あしびきの 山うどの芽を かじりつつ 桜の花を 待つここちする

秋成

> はふり子が 清むるあとに 木の葉散りて 神のみたらし 氷ゐにけり

秋成

> 年ごとに やらへど鬼の まうでくる 都は人の 住むべかりける

年の暮れ

西行

> 常よりも 心細くぞ 思ほゆる 旅の空にて 年の暮れぬる

西行

> おしなべて 同じ月日の 過ぎゆけば 都もかくや 年は暮れぬる

宣長

> なしてむと 思ひし事は ならずして 月は来経行く 年は来経行く

宣長

> 行く年の 別れはうれし 老いの身の 先立ちもせで とまる思へば

宣長

> 過ぎぬれば 長き春日も 秋の夜も みじかかりける 年の暮れかな

宣長

> ふる雪も あはれとぞ見る 年の暮れ 我が身も老いの 積もると思へば

宣長

> ふりゆくも 惜しからぬ身を 人まねに 今年暮れぬと 何歎くらむ

御製

> 市場には 年の暮れをば 惜しまずも ただ売り買ひの 声ぞ賑はふ

御製

> ゆたかなる 世の賑はひも 市人の 春をむかふる 年の暮れかも

御製

> きのふけふと 思ひし間にも 明け暮れて 今夜ばかりの 年の内かな

御製

> 嘆きつつ 今年もやがて 過ぐるなり いつまでかかる 身に暮らすらむ

御製

> 年の暮れ 惜しむ心の 梓弓 ひきとまるべき ものにしあらねど

御製

> 今はとて 何につけても 惜しまるる むべ一年の 暮れと思へば

御製

> 人ごころ 同じこよひの 年の暮れ その家々の さまは変はれど

景樹

> いたづらに 明かし暮らして 人並みの 年の暮れとも 思ひけるかな

景樹

> なれなれて 年の暮れとも おどろかぬ 老いの果てこそ あはれなりけれ

景樹

> 山里は 松に積もりし 初雪の 消えぬままにて 暮るる年かな

歳暮
宣長

> おどろきて 惜しむ心の はかなさよ 今日にはかなる 年の暮れかは

宣長

> ふりまさる 老いのしるしか こぞよりも 今年は惜しき 年の暮れかな

宣長

> いたづらに 月よ花よと 明け暮れて 暮れ行く年の ほどもはかなし

宣長

> いたづらに 暮らせる年は 積もれども なほ数ならぬ 身をいかにせむ

大田南畝

> 衣食住 餅酒油炭薪 何不足無き 年の暮かな

宣長

> かくばかり 住み良き山の 奥にだに 年は止まらで 暮れてゆくらむ

宣長

> 隠れ家は いつも心の 静かにて 年の暮れとも 思はれぬかな

宣長

> 世のわざに 心騒がぬ 隠れ家は 年の暮れとて いとなみもなし

宣長

> ふりまさる 老いのしるしか こぞよりも 今年は惜しき 年の暮れかな

宣長

> いたづらに 月よ花よと 明け暮れて 暮れ行く年の ほどもはかなし

宣長

> よそに聞く 年のおはりの いとなみに 人もとひ来ぬ 宿のさびしさ

宣長

> いたづらに 雪をもめでし 年の暮れ これぞ積もらば 老いとなるべき

光厳院

> 年暮ると 世はいそぎたつ 今夜しも のどかにものの あはれなるかな

真淵

思ひやれ 枯生のすすき うちなびき 友待ちがほの 雪の垣根を

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