月別アーカイブ: 2016年9月

タルコフスキーのソラリス

原作では中程に出てくる「バートン報告」が冒頭に持ってこられているのがきわめて興味深い。 先に、「バートン報告」こそが「ソラリス」の核であり、その前後は付け足した、などと書いたのだけど、 タルコフスキーはそれに気付いていたか、 或いはレムから直接聞いたのかもしれない。 その「ソラリス」のキモであるバートン報告を省略することなく、むしろフィーチャーしようとしたのは良い。 が、こんな台詞棒読みの謎シーンにしてしまっては、まったく生きてこない。 前振りになっていない上に邪魔ですらある。 レムの原作を読んだことがある人、特にまじめに読んだことがあるひとは、 おやっと思って、そして腹を立てると思う。 主人公クリス・ケルヴィンはリトアニア人のドナタス・バニオニスが演じる。 クリスの妻のハリー役はナタリア・ボンダルチュク。 彼女がソラリスをタルコフスキーに紹介したという。 スナウト役はエストニア人のユーリー・ヤルヴェト。 クリスの父ニック役はウクライナ人のニコライ・グリニコ。 この他、後半でクリスの夢の中に若い頃の彼の母親が出てくる。この女性の意味もよくわからない。 そしてこの夢を見た後、ハリーは置き手紙をしていなくなる。 冒頭はクリスの父ニックの家。叔母のアンナがいる。 車でバートンとその息子が到着する。 この家には少女と馬と犬がいる。 この少女はアンナの娘(クリスの姪)であるらしい。 クリスは… 続きを読む »

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廃仏毀釈

明治政府が発令した神仏習合の禁止は、廃仏毀釈運動にまでエスカレートした。 神道にもある程度の多様性があり、仏教との相性もさまざまだった。 神道の中でも例えば伊勢神宮のようなご神体とか神域、 物忌みをしなくてはならない斎宮などと関係が深いところは仏教と相容れない。 同じように斎宮がいる上賀茂神社もそうである。 神道がその純粋性、純潔性を保ち得たのはこの「物忌み」「穢れ」という神道固有のタブーのおかげだった。 タブーを否定することで世界宗教となった仏教と、 タブーを中核とする土着宗教である神道は、最終的に決裂した。 皇室行事の中核にもこの「物忌み」「穢れ」があって、故に、その中心部まで仏教の影響が及ぶことはなかったのである。 神道から見れば仏教は「穢れ」そのものであるからだ。 神道の本質は「穢れを忌む」ことであるという原点に立ち戻れば、 神仏分離という原則が当然発動する。 この信仰は千年を経ても風化しなかった。 天皇は神官であって仏弟子になることは許されないが、 上皇になってしまえば出家することができる。 同じように、伊勢神宮には仏教は侵入できないが、 神宮寺というものが伊勢神宮を取り巻くことなった。 ここまでは仏教が入ってきてもよい。ここから先はダメという線引きがなされるようになった。 天皇がいなければこのようなぎりぎりの基準が模索され、議論されることもなかったに違いない。 平安時代… 続きを読む »

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重訂日本外史全 頼襄子成著 久保天随訂 東京博文館蔵版 明治43年

* [卷之一 源氏前記 平氏](http://nipponkaishi.blogspot.jp/2012/08/blog-post.html) * [卷之二 源氏正記 源氏上](http://nipponkaishi.blogspot.jp/2012/08/blog-post_30.html) * [卷之三 源氏正記 源氏下](http://nipponkaishi.blogspot.jp/2012/09/blog-post.html) * [卷之四 源氏後記 北條氏](http://nipponkaishi.blogspot.jp/2012/09/blog-post_9.html) * [卷之五 新田氏前記 楠氏](http://nipponkaishi.blogspot.jp/2012/09/blog-post_24.html) * [卷之六 新田氏正記 新田氏](http://nipponkaishi.blogspot.jp/2012/10/blog-post.html) * [卷之七 足利氏正記 足利氏上](http://nipponkaishi.blogspot.jp/2012/10/blog-post_10.html) * [卷之八 足利氏正記 足利氏中](http://nipponkaishi.blogspot.jp/2012/10/blog-post_17.html… 続きを読む »

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ハリウッド映画やアメリカドラマでは、よく夫婦が離婚する。 離婚した状態で物語が始まる。 或いは別居中である。 仕事はできるが夫としては頼りない男が主人公で、 ヒロインは別れた妻で、 子供は妻に取られてて、 困難を克服して夫婦はふたたび仲直りする。というストーリーになっているのがすごく多い。 ナンデヤネン。 一方で、主人公が軍人の場合には(退役軍人をのぞく)、彼は理想的な男であり、良き夫であり、 妻とも子とも仲が良い。 しかし軍人なので家を離れがちであり、 しばしば愛する妻に電話した後に死んだりする。 この扱われようの違いはなんだとおかしくなる。 アメリカでは、軍人は頼りない夫であってはならない。 そんなストーリーはタブーなのだ。

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ソラリス

自分で小説を書くようになると、むかし読んだ小説が違って見えてくる。 『ソラリス』を読み解くのはなかなか厄介だ。 まず原作のスタニスワフ・レムという人がややこしい。 『ソラリス』を読んだだけではよくわからん人だ。 それをアンドレイ・タルコフスキーというソビエトの監督が映画化した。 これまたよくわからん映画だし、映画版『ソラリス』を見ただけではタルコフスキーという人はわからない。 さらに『ソラリス』をよくわからなくしているのはハリウッド版の『ソラリス』なのだが、 ハリウッドという存在をある程度知っていれば、このような脚色になるのは理解できるし、 その知識に基づいてリバースエンジニアリングすれば元の『ソラリス』をある程度「復元」することも可能だ。 [タルコフスキー『惑星ソラリス』:悪しき現実逃避映画](http://cruel.org/other/esquiresolaris.html)。 山形浩生もまたそのややこしさに目くらましされているように思う。 もしかすると彼は東宝が配給した日本語吹き替え版を見たのかもしれない。 この日本配給版は、冒頭で説明的なナレーションをかぶせたり、 意味深な前振りをざっくり省略したりしている。 この前振りはラストと呼応しているわけだが、 前振り抜きでラストだけ見させられると、どうしても山形浩生のように、 > タルコフスキーは最後の最後でそこから逃げる。 と… 続きを読む »

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じっくりやるしかない。

まあ、そんなに売れない。 しかたないことだ。しばらく放置しよう。 無料キャンペーンも考えたが、たぶん効果は無い。 ダウンロードされても積んどかれて終わりだ。 多少なりともレビューを書いてもらわなきゃ意味がないのだが、たぶん書かれないだろう。 たとえば「マリナ」だけ常時無料というのは少しやってみたいのだが、アマゾンが公式に認めていることではないし、 私としてはやらないでおきたい。 kdp も最初の頃は珍しがってレビューを書いてくれる人がいたが、 今じゃ電子書籍が多すぎていちいち見てレビューしてくれない。 今の時代に評価されることはないのは覚悟している。 しかしそのうち別の時代がくるかもしれない。 世の中はいまだにおそろしく保守的だ。 団塊の世代も、若者も、いまだに新聞とテレビに思想を支配されている。 特に「一部伏せ字」なんてのが売れてるのを見ると世の中はまだこれからずっと暗黒時代が続くのだろうと思わざるを得ない。未来に闇しか見えない。 実はまだちょこちょこ書き足している。 何年か後に、思い出して、最新版をダウンロードしなおしてもらえるとうれしい。

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ほぼ完成した。

自分ながら、 どのくらい需要があるかまったく読めない作品になった。 普通、読者というものは、探偵・刑事物、江戸下町情緒もの、アキバ系電脳もの、 それぞれのジャンルに分かれている。 これらのてんでばらばらなものを一つにまとめてしまった。 どっちにしろだらだら加筆修正するのだが、もすこし待ってもらい、 twitter で告知するくらいのタイミングで読み始めてもらいたいと思う。 アキバ系としてはそれほど珍しいものではないだろう。 江戸下町的なものはいくらでもある。 探偵・刑事物としてはかなり異質なものだと思う。 女捜査官ものとしてはわざと読者に肩すかしをくわせている。 著者としてはこれらを組み合わせて今までにない作品を作った気でいる。 電脳都市が江戸の下町の真ん中に存在していることを多くの人は忘却している。 そこにわざと警視庁の女捜査官を送り込む。 そのトリッキーさを楽しんでもらいたいのだ。 文章には、非常に凝ったつもりだ。 文章をそれなりに書いてきて自分なりに練ってきた書き方なんで、五年前の自分には絶対書けない。 どんどんネタばらしすると工藤と山下の恋愛感情の機微も(機微なんで、はっきりとは書いてない)、自分的には割と凝ったつもりだ。 もしここがツボにはまらないとこの小説はつまらないだけだと思う。 舞台はごく見慣れた町並み、 登場人物はすべてごく普通の人、つまらない人、中途半端な人とし… 続きを読む »

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潜入捜査官マリナ

最初は「潜入捜査官エリカ」というタイトルで主人公は梅ヶ谷エリカという名だったのだが、 いろいろググってると、2010年に「悪貨」という小説が出てて、 主人公が花園エリカ。 それが2014年には黒木メイサがエリカ役でドラマ化されている。 どうも潜入捜査官でぐぐるとエリカという名前が良く出るなと思ってたら、これが元ネタだったらしい。 そしてたぶん無意識に私もどこかでそれを見てて、 意図的に真似たのではないが、なんとなく雰囲気でエリカにしてしまっていた。 まこれはまずいので他の名前を考えて、「潜入」捜査官だから、海のイメージを重ねて、 三崎マリナという名前にした。 表紙の絵を変えたりしてるので読むのはまだ待ってください。 新人賞に応募しようかどうか迷っていた。 ツイッターでアンケートとった際もKDPですぐ出すよりはまずどこかに応募したほうが良いという意見が多かった。 しかしまあいろいろ考えた結果さっさとKDPで出すことにした。 どちらかといえば Kindle Unlimited 用に書いた。 100枚ほどの長さだが、最後まで飽きずに読ませれば私の勝ちだ(笑)。 ミステリーは食わず嫌いというか、今度書いてみて、案外こういう探偵物、刑事物も面白いなと思ったのだが、私という書き手に広く興味をもってもらい、 少しでも自分の得意フィールドの歴史小説に読者を誘導するために書いた。 それが今回の当初の… 続きを読む »

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食卓の賢人たち

アマゾンで買った電気時計とかリモコンとかが続けて不良品で、 返品、交換することになった。 誰かが出品してるんじゃなくてアマゾン直営。 なんかもう自分がクレーマーか何かになった気分になるし。 届いた品が動かないと精神的に消耗する。 たぶんこういうのって店頭販売で不良品が多くてそういうの家電量販店とか秋葉のショップなんかからまとめて安値でアマゾンが買い取ってるんじゃないかな。 そういうのを返品・交換込みでネットで裁いている。 割と簡単に返品が効くんで、アマゾンとしてもそういう商売でいいんだって割り切ってやってんじゃないのかな。 まあねえ。 普通に量販店で手に入りにくいものを安値で買ってるわけだしリスクはあるわね。 高額な国産メーカー品だと返品理由も割と細かく書かされるみたいだが、 そうでないのはかなり適当だよね。 どうせパチモン買うなら一番安いやつにしといたほうが精神的ダメージは少ないかもね。 250円の得体の知れないリモコンとか絶対わかっててやってるよね。 まあ秋葉のジャンク屋みたいなもんだよな、この手のは。 そういやこないだタイムセールで買ったボクサータイプのパンツにもひどい目にあった。 遊びと割り切って買えばいいんだけどさ。 「食卓の賢人たち」は良書だ。 古代ギリシャっぽいフレーバーを文章にふりかけるのに重宝する。 こういうなんということのない、日常の食生活の空気感というのがね、… 続きを読む »

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イソクラテス弁論集

この解説がいきなり「カイロネイアの敗報」から始まっているのだが、 私は暫くこの文章をイソクラテスが書いたのかと思って読んでしまったのが、 なんだかおかしい。 あきらかにおかしい。 読み返してみたら解説が始まっていたのだけど、 イソクラテスがデモステネスを褒めるはずがない。 > デモステネスの演説がもつ決断の力強い表現は、都市国家が最後に放った閃光であり、ギリシャの弁論術の最高の達成である。 などというはずがない。 イソクラテスはデモステネスに対して真逆の評価をしていたのに違いないのである。 私に言わせればデモステネスはただのバカだ。 カイロネイアの戦いが終わって酒に酔ったフィリッポス2世がデモステネスの決議文を韻文にして吟じたなどというのは、これも誰が言ったかわからない俗説だし(フィリッポスはデモステネスを嫌っていたが、そこまでするとは思えない)、 イソクラテスがカイロネイアの敗報を聞いて断食して死んだというのも後世の俗説である(イソクラテスがそんな馬鹿なことをするはずがない。イソクラテスの死とカイロネイアの戦いがどちらが先かは不明)。 むろんそういう俗説もあると参考までに取り上げるのはかまわないが、 いきなり解説の冒頭にもってくるとはどういうことか。 ミスリーディングだろ? この、「イソクラテス弁論集」という極めてマイナーな本を読もうという人は、 ソクラテス、プラトン、アリストテ… 続きを読む »

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