えっと、あまり口出しするつもりはないのだけど、いろんなところですでに書いていることを要約すると、継体天皇とか天武天皇とか天智天皇の頃の皇統というのは、あまりに古すぎて、今の男系・女系の議論には絡めるべきではないと思う。古くて不確実すぎて参考にならない。天武天皇以後の議論をすべきだと思う。
で、藤原氏は天皇家の外祖父になることができたから、権力を握ったのだけど、もし天皇家が女系でもよいとなれば、女性天皇の夫が藤原氏でその子供がすぐに天皇に即位できることになる。藤原氏でもなくてもいいんだが、すごい野心家の男がいて、勝手に天皇を内親王に譲位させて自分がその天皇と結婚して、数ヶ月後には子供が生まれて、ただちにその子供に譲位させれば、あっという間に天皇家を乗っ取ってしまうことができる。
ところが、天皇が男系であれば、平清盛みたいに自分の娘を入内させて、息子が生まれたら譲位させて、とかいう面倒な手順を踏まなくてはならず、清盛が死んだときにはまだ天皇は幼少で、結局平氏一門による権力の継承はできなかった。
同じことは、天皇家と徳川家の関係にもいえる。つまり、天皇家と武家の関係、言い換えると王家と庶民の関係は、男系によって守られてきたのであり、守られたというよりは、一定の距離を保ちつつ進展してきたのであって、もし女系でもよいとなれば、皇統というものはもっと混乱しただろう。南北朝ですらあんなに混乱したのだから、万世一系とか悠長に構えている場合ではない。
頼朝と北条氏の関係を見てもわかるように外戚が力を持ちすぎるのは良くない。中国の歴史でもそう。天皇家が今日まで存続していた大きな理由は男系だったからかもしれない。
それでまあ今は女性天皇と野心のある男性が結婚して権力を握るなんてことはできようもないから、女系でもいいんじゃないのかという議論ならまだわかるが、男系というものの歴史的な意味というのをわかった上での議論ならまだ良いが、天武天皇と天智天皇がどうのこうのとか言ってるレベルではとても議論が尽くされたとは思えない。
それから、王家と王家の婚姻というのもかなり問題があって、東アジアには天皇家以外今は王家はなくなってしまったが、欧州にはまだたくさんいる。王国はなくなっても王家は存続している。欧州の王家が女系もありというのは、スペイン継承戦争とかなんとかかんとか見るとよい。それなりにリスクがある。イギリス王の継承順位とかみるととてつもなくたいへんなことになっていて、オーストリアのハプスブルク家の子孫がイギリス王に返り咲いてもおかしくない。そういう可能性まで含めて議論しているのか。まったくあり得ない話ではないが、イギリス王子が天皇家の内親王と結婚して、その内親王が即位すれば、イギリス王家にも天皇家の継承順位が回ってくるのである。
現在のイギリス王室はウィンザー朝だが、天皇が日本国の君主だとして(欧州的な表現をすれば、日本という国の相続権を持つとして)、ウィンザー家がイングランド王と天皇を兼ねれば、日本とイギリスは同君連合、もしくは日本は大英帝国の一邦(オーストラリアやニュージーランドがイギリス王を国家元首とするように)、になってしまう、可能性もある。男系であればそういう問題は回避される。というか、王位継承順位に男子優先というのはイギリス王家にもあるので、単純に欧州は女系もありね、とは言えない。
現時点では議論が不十分だ。
戦後の混乱期に皇籍離脱した宮家を復活させることで男系が維持できるのであれば、この問題はもう少し未来に持ち越して「継続審議」とするべきではないかと思う。