> 玉となり 天がけるとも 蓮の葉の 上に心は 結びとめけむ
> いかなれば 浅茅が原に 行く人の つゆなる我を 残しおくらむ
> 雨降れば みづに浮かべる うたかたの 久しからぬは 我が身なりけり
> 秋風に くだくる草の 葉を見てぞ 身の固からぬ ことは知らるる
> いつまでか こゑも聞こえむ やまびこの よろづにつけて ものぞかなしき
> 恋ひつつも 鳴くや四かへり ももちどり 霞へだてて 遠き昔を
> あま雲の 中にや君は まじりにし しぐるる空を 見ればかなしも
> むすびつと 見そむるほども あらなくに はかなく消えし 草の上の露
> なき魂の あるを恋しと 思ひせば 夢路にだにも 立ちかへらなむ
> いはけなく いかなるさまに たどりてか 死出の山路を ひとりこゆらむ
> 子を思ふ 道はいかなる 道なれば あるを見るにも なきが恋しき
> きのふまで 我が衣手に とりすがり 父よちちよと 言ひてしものを
> 今はとも 人を見果てぬ 悔しさは つひの我が身の 世にも忘れじ
> 泣く泣くも 別れしときを 別れにて 別るる親の 無きが悲しき
> 萩が花 見れば悲しな 去にし人 帰らぬ野辺に にほふと思えば
> あらきはる 新喪の秋は 立つ霧の 思ひ惑ひて 過ぐしだにせじ
> 今は世に なしと聞くこそ かなしけれ あるにもあはで 年は経ぬれど
> 秋風の 空に今はと 行く蛍 みるみるきゆる 世にもあるかな
> 世の中は あだなるものと 知りつつも かからむとしも 思ひきや君
> あたらしや 露にしをれし ふじばかま かぐはしき名は 世に残れども
> 親しきは 無きがあまたに なりぬれど 惜しとは君を 思ひけるかな
> よはひとて 人の祝ふは 憂きことの 数そふ年の 積もるなりけり
> しきしまの 道しるべせし 君とへば さがのの原の 苔の下露
> 親しきは なきがあまたに なりぬれど 惜しとは君を 思ひけるかな