> 浜千鳥 昔のあとを たづねても なほ道知らぬ 和歌の浦波
> まもれなほ よに住吉の 神ならば 此の敷島の 道のまことを
> 絶えせじな その神世より 人の世に うけてただしき 敷島の道
> 開きみる 文にぞしるき をさまれる 御代のかたみや 世々の古こと
> ひらけなほ 文の道こそ 古へに かへらん跡は 今はのこらめ
> ともかくも なさば成りなむ 心もて 此身ひとつを なげくおろかさ
> 散りうせぬ ためしときけば ふるき世に かへるを松の ことのはの道
> おほかたの 野辺のちぐさは 枯れぬとも 絶えせぬものは やまとことの葉
> 思ひたつ ことはたゆまじ ちりひぢも 積もれば山の かひもある世に
> 言霊の さきはふ道を いたづらに 遊びのわざと 人は言ふなり
> 年越して けふはとたゆむ ねぶりこそ まづをこたりの はじめなりけれ
> しづのをが うつや荒田の あらためて 作るにはあらず かへす道なり
> しきしまの 道の願ひよ まづかなへ 我が思ふことは あまたあれども
> ともすれば 人のうへのみ うらやみて 身をかへりみぬ 心おろかさ
> かかげぬる かひこそなけれ ともしびの もとより暗き 窓のまなびに
> 世にはなほ 立ちものぼらで 瓦屋の けぶりも下に くゆる身ぞ憂き
> 人はその 名をこそ惜しめ こと足らで わたる世なげく 身ぞおろかなる
> 言の葉の 移りも行くか 世々にふる 人の心や しぐれなるらむ
> 書読めば 昔の人は なかりけり みな今もある 我が友にして
> 書読めば 絶えて寂しき ことぞなき 人も問ひ来ず 酒も飲まねど
> 書読めば おほやけ腹も 立たれけり ひとり笑ひも またせられけり
> 書読まで なににつれづれ なぐさまむ 春雨の頃 秋の長き夜
> 朝夕に 物食ふほども かたはらに ひろげおきてぞ 書はよむべき
> おもしろき 書読むときは 寝ることも もの食ふことも げに忘れけり
> 読む書に 心移れば 世の中の 憂きもつらきも しばし忘れつ
> 読む書を しばし枕に 仮り寝して 憂しや覚えず あかつきの空
> をりをりに 遊ぶいとまは ある人の いとまなしとて 書よまぬかな
> 読まねども やまともろこし もろもろの 書を集めて おくも楽しみ
> 敷島の 道広き世の 初春や 言葉の花の ときは来にけり
> 何をかは あぜくらかへし 求むらむ 見聞きにみてる 言の葉の種
> いにしへは おほねはじかみ にらなすび ひるほし瓜も 歌にこそ詠め
> この国は 言葉の海の 大八島 いづくに寄るも 和歌の浦波
> 言ふことは みな心より 出でながら 心を言はむ 言の葉ぞなき
> 言の葉は 人の心の 声なれば 思ひをのぶる ほかなかりけり
> 世の塵に うづもれながら うづもれぬ 大和言葉の 道ぞ正しき
> いかならむ うひ山ぶみの あさごろも 浅きすそ野の しるべばかりも
> 思ふこと いはでかなはず それいへば やがても歌の すがたなりけり
> 身は疲る 道はた遠し いかにして 山のあなたの 花は見るべき
> 敷島の 歌のあらす田 荒れにけり あらすきかへせ 歌のあらす田
> 君なくば またや荒れなむ いにしへに すきかへしたる 歌の荒栖田
> 言の葉の 道の奥なる 安積山 影だに見ずて やみぬべきかな
> しらぬひの 筑紫島ねの 山の湯の 湧き捨つるまで 歌を詠まばや
> いにしへの 道を聞きても 唱へても 我が行ひに せずばかひなし
> はかなくも あすの命を たのむかな 今日も今日もと 学びをばせで
> 学問は あしたの潮の ひるまにも なみのよるこそ なほしづかなれ
> 菜の花の 咲けるをりには 思ひやれ 身を立て世をも 救ひし人を
> 何事も ならぬといふは なきものを ならぬといふは なさぬなりけり