釈教歌

弘法大師

> 今ははや 後世の勤めも せざりけり 阿吽の二字の あるにまかせて

誠拙

> 心とは 心も知らぬ 心なり 知らぬ心を 知りてこそ知れ

かへし
熊谷直好

> いかにして 汲み知るものぞ 水茎の 流れの外の 法の心は

俊成

> 雪のうちに 仏のみ名を となふれば 聞く人もみな 罪ぞ消えぬる

法然

> 口にある 南無阿弥陀仏の 味はひを 自力の人は 食ひ知らぬなり

法然

> ありがたや 障りのおほき 女人をば 弥陀ひとりこそ たすけましませ

法然

> 阿弥陀仏と 十声唱へて まどろまむ 長き眠りに なりもこそすれ

法然

> 極楽も かくやあるらむ あらたのし とくまゐらばや 南無阿弥陀仏

讃岐国小松荘に流罪となりて
法然

> 千歳ふる こまつがもとを すみかにて 無量寿仏の 迎へをぞまつ

定家

> あともなく むなしき空に たなびけど 雲のかたちは ひとつならぬを

相模

> 極楽に 向かふ心は へだてなき 西の門より 行かむとぞ思ふ

赤染衛門

> うらやまし いかなる人か 我が覚めぬ 夢まぼろしの 世をそむくらむ

赤染衛門

> 春ごとに 桜咲くやと 待つよりは 仏に散らす 花をこそ見め

赤染衛門

> つらぬける 玉のひかりを 頼むとも 暗くまどはむ 道ぞかなしき

一休

> 門松は 冥土の旅の一里塚 めでたくもあり めでたくもなし

一休

> 作りおく 罪の須弥ほど あるなれば 閻魔の帳に 付けどころなし

一休

> 嘘をつき 地獄に落つる ものならば 無き事作る 釈迦いかがせん

一休

> すぐなるも ゆがめる川も 川は川 仏も下駄も 同じ木の切れ

一休

> たぞにたぞ たぞたぞにたぞ たぞにたぞ たぞにたぞとて 何もなきかな

ある山伏「仏法はいずこにありや」と問ふ。一休「胸三寸にあり」と答へしが、「しからば、拝見いたさん」と懐刀を手に詰め寄られしとき詠める
一休

> としごとに さくや吉野の さくら花 樹をわりてみよ 花のありかを

海老の絵に詠める
沢庵

> いかばかり えびを取り食ふ 報いあらば つひには老いの 腰やかがまん

布袋絵の賛に
沢庵

> この袋 あけてみたれば 何もなし 何もないこそ 何もありけれ

沢庵

> 過去もなく 未来もなしと 言ふ人の いづくより来て この世には住む

石井元政

> いたづらに 身をばやぶらで 法のため 我が黒髪を 捨てしうれしさ

石井元政

> この世には 心にかかる 雲もなし 富士の高根も 飽くまでも見つ

古寺
源正守

> 白雲の かかるやいくへ ちりの世を へだてて遠き 山の古寺

為春法師

> 道遠く わくればやがて ちりの世も 松にへだたる 峯の古寺

四天王寺
永悦

> 難波江や 古き御のりを 葦原に 弘め初めにし 寺ぞこの寺

宣長

> かくばかり 飽かぬ桜の にほふ世に 命惜しまぬ 人もありけり

宣長

> 桜には 心もとめで 後の世の 花のうてなを 思ふおろかさ

宣長

> 世は清く すてたるひとも 捨てかねて 見るは桜の 花にぞありける

宣長

> ひたすらに たれ憂きものと 歎くらむ 春は桜の 花も見る世を

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