> 今ははや 後世の勤めも せざりけり 阿吽の二字の あるにまかせて
> 心とは 心も知らぬ 心なり 知らぬ心を 知りてこそ知れ
> いかにして 汲み知るものぞ 水茎の 流れの外の 法の心は
> 雪のうちに 仏のみ名を となふれば 聞く人もみな 罪ぞ消えぬる
> 口にある 南無阿弥陀仏の 味はひを 自力の人は 食ひ知らぬなり
> ありがたや 障りのおほき 女人をば 弥陀ひとりこそ たすけましませ
> 阿弥陀仏と 十声唱へて まどろまむ 長き眠りに なりもこそすれ
> 極楽も かくやあるらむ あらたのし とくまゐらばや 南無阿弥陀仏
> 千歳ふる こまつがもとを すみかにて 無量寿仏の 迎へをぞまつ
> あともなく むなしき空に たなびけど 雲のかたちは ひとつならぬを
> 極楽に 向かふ心は へだてなき 西の門より 行かむとぞ思ふ
> うらやまし いかなる人か 我が覚めぬ 夢まぼろしの 世をそむくらむ
> 春ごとに 桜咲くやと 待つよりは 仏に散らす 花をこそ見め
> つらぬける 玉のひかりを 頼むとも 暗くまどはむ 道ぞかなしき
> 門松は 冥土の旅の一里塚 めでたくもあり めでたくもなし
> 作りおく 罪の須弥ほど あるなれば 閻魔の帳に 付けどころなし
> 嘘をつき 地獄に落つる ものならば 無き事作る 釈迦いかがせん
> すぐなるも ゆがめる川も 川は川 仏も下駄も 同じ木の切れ
> たぞにたぞ たぞたぞにたぞ たぞにたぞ たぞにたぞとて 何もなきかな
> としごとに さくや吉野の さくら花 樹をわりてみよ 花のありかを
> いかばかり えびを取り食ふ 報いあらば つひには老いの 腰やかがまん
> この袋 あけてみたれば 何もなし 何もないこそ 何もありけれ
> 過去もなく 未来もなしと 言ふ人の いづくより来て この世には住む
> いたづらに 身をばやぶらで 法のため 我が黒髪を 捨てしうれしさ
> この世には 心にかかる 雲もなし 富士の高根も 飽くまでも見つ
> 白雲の かかるやいくへ ちりの世を へだてて遠き 山の古寺
> 道遠く わくればやがて ちりの世も 松にへだたる 峯の古寺
> 難波江や 古き御のりを 葦原に 弘め初めにし 寺ぞこの寺
> かくばかり 飽かぬ桜の にほふ世に 命惜しまぬ 人もありけり
> 桜には 心もとめで 後の世の 花のうてなを 思ふおろかさ
> 世は清く すてたるひとも 捨てかねて 見るは桜の 花にぞありける
> ひたすらに たれ憂きものと 歎くらむ 春は桜の 花も見る世を