一葉の歌

をちこちに 梅の花咲く さま見れば いづこも同じ 春風や吹く

春風は いかに吹きてか 梅の花 咲ける咲かざる 花のあるらむ

明日といはば 散りもやすらむ 庭桜 今日の盛りをとふ人もがな

くろづたひ 行く人多く なりにけり 山田の里に 梅咲きしより

楽しさに 里のわらべは とく起きて 若菜摘みにと出づる春日野

降る雨に 濡るとも花を 見に行かむ 晴れなばやがて 散りもこそすれ

咲きにほふ 花にも酔ひて 澄田河 うつし心の 人なかりけり

世の人の 心の色に 比ぶれば 花の盛りは 久しかりけり

ねぜり摘む 里のわらべの かげ絶えて 田河の末に 蛙鳴くなり

月待ちて いざ見に行かむ 角田河 こよひを花は 盛りなるらむ

散りて行く 花もさこそは つらからめ 我のみ惜しむ 風の音かは

散りぬとて 忘られなくに 山桜 青葉のかげの ながめられつつ

水の色も ひとつみどりに なりにけり 夏草茂る 野辺の細川

夏の夜は 短きものと 知りながら 見果てぬ夢ぞ はかなかりけり

夏衣 替へて干す日も なかりけり 降り続きたる 五月雨の頃

帰るべき しほこそなけれ 山桜 暮るればやがて 月の出でつつ

いとどしく 濡れてぞ色は まさりけり 春雨かかる 山桜花

昨日まで 固くふふみし 桜花 今朝降る雨に ほころびにけり

世の人の 宝とめづる 玉もなほ みがきてのちの 名にこそありけれ

世の中の 憂さもつらさも 忘れけり ただ一杯の これのなさけに(酒)

寒けれど 小簾開けてみむ 角田川 漕ぎ行く舟の 今朝の白雪

うつし絵に 見るここちして 箱根山 月こそのぼれ 湖の上に

不忍の 池のおも広く 見ゆるかな 上野の山に 月はのぼりて

風ばかり とふと思ひし 松の戸を こよひは雨も 叩きつるかな

吹き迷ふ 筑波根おろし なほさえて ふもとの野辺は 春としもなし

咲く梅も 月もひとつの 色ながら さすがに折れば まがはざりけり

我が庭は 萩も薄も あらなくに 秋なる風ぞ おどろかし行く

いざさらば 起き居て聞かむ 夜もすがら 寝られぬ閨の こほろぎの声

おもふどち 雪まろげせし いにしへを 火桶のもとに しのぶ今日かな

凍りけむ いささ小川の 細流れ 今朝は音なく なりにけるかな

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