山の井の 浅くもあらぬ 冬なれや 汲み上ぐる水の やがて凍りぬ
寄る波に 消えぬ雪かと 見えつるは 入江の葦の 穂綿なりけり
うつせみの 世に誇れとや ほととぎす 我に初音を まづ洩らしけむ
野ぎつねの あたらすみかと なりにけり よしありげなる 峰の古寺
山鳩の 雨呼ぶ声に 誘はれて 庭に折々 散る椿かな
今はしも 人つらかれと 思ふかな 末とげがたき 仲と思へば
ともしびに 寄りて身を焼く 夏虫の あな蒸し暑き 夜半にもあるかな
何しかも 床の別れの つらからむ 見しは夢なる あかつきの空
いとどしく つらかりぬべき 別れ路を あはぬ今より しのばるるかな
影映す 鏡は置きて 新玉の 今年は心 磨き変へてむ
空をのみ 眺めつるかな 思ふ人 天下り来む ものならなくに
あやにくの 雨にもあるか 隅田川 月と花との あたら盛りを
降る雨に 濡るとも花を 見に行かむ 晴れなばやがて 散りもこそすれ
夏の夜は 短きものと 知りながら 見果てぬ夢ぞ はかなかりける
打ちなびく 柳を見れば のどかなる おぼろ月夜も 風はありけり
大方の 花は散りにし 夏山に 春を残せる 鶯の声
思ふこと 少し洩らさむ 友もがな 浮かれてみたき おぼろ月夜に
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