山の井の 浅くもあらぬ 冬なれや 汲み上ぐる水の やがて凍りぬ
寄る波に 消えぬ雪かと 見えつるは 入江の葦の 穂綿なりけり
うつせみの 世に誇れとや ほととぎす 我に初音を まづ洩らしけむ
野ぎつねの あたらすみかと なりにけり よしありげなる 峰の古寺
山鳩の 雨呼ぶ声に 誘はれて 庭に折々 散る椿かな
今はしも 人つらかれと 思ふかな 末とげがたき 仲と思へば
ともしびに 寄りて身を焼く 夏虫の あな蒸し暑き 夜半にもあるかな
何しかも 床の別れの つらからむ 見しは夢なる あかつきの空
いとどしく つらかりぬべき 別れ路を あはぬ今より しのばるるかな
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