新撰和歌 巻第四 恋・雑 荓百六十首 (1/2)

> 202 しのぶれば くるしきものを 人しれず 思ふてふこと たれにかたらむ

古今519。題知らず、読み人知らず。

> 203 人しれず おもふこころは 春がすみ たちいでてきみが めにも見えなむ

古今999 「寛平御時歌たてまつりけるついてにたてまつりける」
藤原勝臣

> 204 久かたの あまつそらにも あらなくに 人はよそにぞ おもふべらなる

古今751。題しらず、在原元方。「あらなくに」→「すまなくに」

> 205 たれをかも しるひとにせむ たかさごの まつもむかしの ともならなくに

古今909。題しらず、藤原興風

> 206 おとにのみ きくのしらつゆ 夜はおきて ひるはおもひに けぬべきものを

古今470。題しらず、素性、「けぬべきものを」→「あへずけぬべし」

> 207 わがうへに つゆぞおくなる あまのがは とわたるふねの かいのしづくに

古今863。題しらず、読み人しらず。「かいのしづくに」→「かいのしづくか」

> 208 よし野がは いはなみたかく 行くみづの はやくぞ人を おもひそめてし

古今471。題知らず、貫之。

> 209 世のなかに ふりぬるものは 津のくにの ながらのはしと 我となりけり

古今890。題知らず、読み人知らず。

> 210 足引の 山したみづの うづもれて たぎつこころを せきぞかねつる

古今491。題知らず、読み人知らず。

> 211 ぬきみだす 人こそあるらし したひもの またくもあるか そでのせばきに

古今923。「布引の滝の本にて人人あつまりて歌よみける時によめる」業平。
「ぬきみだす」→「ぬきみだる」、「したひもの」→「しらたまの」、「またくもあるか」→「まなくもちるか」。
古今和歌六帖1711、「またくもあるか」→「まなくもふるか」、または3192「ぬきみだす」→「ぬきとむる」。
業平集59、古今と同じ。
伊勢物語87、「・・・そこなる人にみな滝の歌よます。かの衛府の督まづよむ。わが世をばけふかあすかと待つかひのなみだの滝といづれ高けむ。あるじ次によむ。ぬき乱る人こそあるらし白玉のまなくも散るか袖のせばきに、とよめりければ、かたへの人笑ふことにやありけむ、この歌にめでてやみにけり。」

> 212 ほととぎす なくやさ月の あやめぐさ あやめもしらぬ こひもするかな

古今469。題知らず、読み人知らず。

> 213 たがみそぎ ゆふつけ鳥か から衣 たつたのやまに おりはへてなく

古今995。題知らず、読み人知らず。

> 214 津の国の むろのはやわせ ひてずとも つなをばやはく ものとしるべく

古今和歌六帖2606「きのくにの むろのはやわせ いでずとも しめをばはへよ もるとしるがね」

わかりにくい。「ひでず」は「ひいでず(秀で、穂出の転)」、早稲田に穂が出る前にしめ縄を張ってしまおう、見張っているとわかるように、の意味か。

> 215 なにはがた しほみちくれば あまごろも たみののしまに たづなきわたる

古今913。題知らず、読み人知らず。「しほみちくれば」→「しほみちくらし」。

「雨衣」は「田蓑」にかかる。田蓑の島は淀川河口付近にあった島。

赤人「若の浦に 潮満ち来れば 潟をなみ 葦辺をさして たづ鳴き渡る」の変形か?

> 216 夕されば くものはたてに 物ぞ思ふ あまつそらなる 人をこふとて

古今484。題知らず、読み人知らず。

> 217 あまつ風 雲のかよひぢ ふきとぢよ 乙女のすがた しばしとどめむ

> 218 たちかへり あはれとぞ思ふ よそにても 人にこころを おきつ白波

> 219 こきちらし たきのしら玉 ひろひおきて 世のうきときの なみだにぞかる

> 220 川の瀬に なびくたまもの みがくれて 人にしられぬ こひもするかな

> 221 いくばくも あらじうき身を なぞもかく あまのかるもに おもひみだるる

> 222 すみの江の なみにはあらねど よとともに こころをきみが よせわたるかな

> 223 わたのはら よせくるなみの たちかへり 見まくもほしき たまつしまかな

> 224 あさきせぞ なみはたつらむ よしの河 ふかきこころを 君はしらずや

> 225 わたつうみの かざしにさせる しろたへの なみもてゆへる あはぢしまかな

> 226 こころがへ するものにもが かたこひは くるしきものと 人にしらせむ

> 227 みな人は こころごころに あるものを おしひたすらに ぬるるそでかな

> 228 みちのくの あさかのぬまの はなかつみ かつ見る人を こひやわたらむ

> 229 かつ見れど うとましきかな 月かげの いたらぬさとの あらじと思へば

> 230 我が恋は むなしきとこに みちぬらし おもひやれども ゆくかたもなし

> 231 ふたつなき ものとおもひしを みなそこに やまのはならで いづる月かげ

> 232 なぬかゆく はまのまさごと わが恋と いづれまされり おきつしら波

> 233 われ見ても ひさしくなりぬ すみよしの きしの姫松 いくよへぬらむ

> 234 わたつうみの そこのこころは しらねども 人を見るめは からむとぞ思ふ

> 235 おもひきや ひなのわかれに おとろへて あまのはまゆふ いさりせむとは

> 236 つれなきを いまはこひじと おもへども こころよわくも おつるなみだか

> 237 世の中の うきもつらきも つげなくに まづしるものは なみだなりけり

> 238 わがこひを しのびかねては あしひきの 山たちばなの いろに出でぬべし

> 239 いろなしと 人や見るらむ むかしより ふかきこころに そめてしものを

> 240 おきもせず ねもせで夜を あかしては はるのものとて ながめくらしつ

> 241 なよたけの よのうきうへに 初しもの おきゐてものを おもふころかな

> 242 あはれてふ ことだになくは なにをかも こひのみだれの つかねをにせむ

> 243 世の中は むかしよりやは うかりけむ わが身ひとつの ためになれるか

> 244 わがこひは 人しるらめや しきたへの まくらばかりぞ しらばしるらむ

> 245 たまぼこの みちにはつねに まどはなむ 人をとふとも われとおもはむ

> 246 こひしきに いのちをかふる ものならば しにはやすくぞ あるべかりける

> 247 わびぬれば 身をうきくさの ねをたえて さそふ水あらば いなむとぞ思ふ

> 248 こむ夜にも はやなりぬらむ めのまへに つれなき人を むかしとおもはむ

> 249 しかりとて そむかれなくに 今年あれば まづなげかるる あはれ世の中

> 250 あしがもの さわぐいりえの しらなみの しらずや人を かくこひむとは

> 251 わたつうみの おきつしほあひに うかぶあわの きえぬものから よるかたもなし

> 252 そこひなき ふちやはさわぐ 山川の あさきせにこそ うはなみはたて

> 253 山ざとは ものさびしかる ことこそあれ 世のうきよりは すみよかりけり

『和漢朗詠集』にも出る。古今944 山里は物の憀慄(わびし)き事こそあれ世のうきよりはすみよかりけり。

> 254 木のまより かげのみ見ゆる 月くさの うつし心は そめてしものを

> 255 かりのくる みねのあさ霧 はれずのみ 思ひつきせぬ 世のなかのうさ

> 256 ゆふされば やどにふすぶる かやり火の いつまでわが身 したもえにせむ

> 257 わがこころ なぐさめかねつ さらしなや をばすて山に てる月を見て

> 258 君といへば 見まれまずまれ ふじのねの めづらしげなく もゆる我がこひ

> 259 風ふけば おきつしら波 たつた山 夜半にや君が ひとりゆくらむ

> 260 あやなくて またなきなみの たつた川 わたらでやまむ ものならなくに

> 261 あまの川 雲のみをにて はやければ ひかりとどめず 月ぞながるる

> 262 つなでひく ひびきのなだの なのりその なのりそめても あはでやまめや

> 263 みやこにて ひびききこゆる からことは なみのをすげて かぜぞひきける

> 264 逢ふことの なぎさにしきる なみなれば うらみてのみぞ 立ちかへりける

> 265 あかずして 月のかくるる やま里は あなたおもてぞ こひしかりける

> 266 人しれぬ おもひのみこそ わびしけれ わがなげきをば われのみぞしる

> 267 あかなくに まだきも月の かくるるか 山のはにげて いれずもあらなむ

> 268 いそのかみ ふるともあめに さはらめや あはむといもに いひてしものを

> 269 おもふより いかにせよとか あきかぜに なびくあさぢの いろことになる

> 270 あなこひし いまも見てしか 山がつの かきほにおふる やまとなでしこ

> 271 あれにけり あはれいくよの やどなれや すみけむ人の おとづれもせず

> 272 むらどりの たちにしわが名 今さらに ことなしぶとも しるしあらめや

> 273 あしたづの たてる河辺を ふくかぜに よせてかへらぬ なみかとぞ見る

> 274 人しれず やみなましかば わびつつも なき名ぞとだに いはましものを

> 275 いにしへの 野なかのしみづ ぬるければ もとのこころを しる人ぞくむ

> 276 人しれず ものをおもへば 秋の田の いなばのそよと いふ人もなし

> 277 なにはがた おのがたもとを かりそめの あまとぞわれは なりぬべらなる

> 278 それをだに おもふこととて 我が宿を 見きとないひそ 人のきかくに

> 279 ここにして わがよはへなむ すがはらや ふしみの里の あれまくもをし

> 280 しほみてば いりぬるいその くさなれや 見る日すくなく こふらくおほし

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