亦不知其所終 田中久三 aka 田中紀峰のサイト。

明治43年 (57才)

新しき年のほぎごといはむとてあがたの人も出でてきにけり

交はれる国の使ひに出でし人いかなるさとに年むかふらむ

には石のぬれたるみればこのねぬる朝げのかすみ小雨なるらし

春ごとにおもひやれども花見にはゆくことかたしみよししの山

まつりごといでて聞く身にあらざればねぶりもさめじ春の朝は

ひろからぬ川の流れも里の子がおよぎどころとなりにけるかな

ふしたるをおこしながらに荻が花折らむとすればちりみだれけり

ひろ前のまさごぢきよく照らすらむかたそぎ高く月ののぼれる

えびかづらいろづきわたる山ざとの軒端の月夜さむくなりけり

煙なき舟にのりてもみてしがな青海ばらの秋の夜の月

旅やかた照らす月夜に見つるかな蕎麦の花さく畑のけしきを

たえだえにみどりのそらのあらはれぬ朝ぎりいまかはれむとすらむ

見にゆかむいとまなければ園守がまがきの菊を折りてきにけり

木の葉みなはらひつくしてあらがねの土ふきたつる木枯らしの風

玻璃のまどとぢしままにてみつるかな霜にさえたるにはの月かげ

さと神楽こなたかなたに聞こゆなりこころごころに神まつるらし

山風にふきたてられて谷底にしづみし雲もまたおこりけり

家ごとに石きる音は聞こゆれど雨しづかなり白川のさと

しづかにもひとり寝覚めしあかつきに思ふことみなおもひさだめむ

おきいでてけふなさばやとおもふことおもふがごとにならずやあるらむ

かぎりなき野辺の桑原小松ばらおなじところをゆくここちせり

外つ国の物うる家もおほくして都の市はにぎはひにけり

にぎはへる市のちまたをゆくほどは車もはやくすすめざらなむ

山城のみやこのすみかこひしきは澄みたる水のながれなりけり

にぎはへる市にいでぬとおもふまにまた菅原にかかる旅かな

近衛人こまひきいづる音すなり朝立ちすべき時や来ぬらむ

めづらしき山のけしきをまもりゐてやすらふ宿に時をうつしぬ

おもふことしげからざりしそのかみによみにし文はわすれざりけり

小夜ふかくこころしづめてつくづくとあすせむことをおもひさだめつ

うみこえてはるばるきつるまれびとにわが山水のけしきみせばや

きのふみし人のなくなる世の中はまことにゆめのここちこそすれ

わがくには神のすゑなり神まつる昔のてぶりわするなよゆめ

千万の民とともにもたのしむにますたのしみはあらじとぞおもふ

事なくてをさまる世にも民のためおもふこころはやすむ時なし

鯱鉾のかがやくみれば愛知がた名古屋の城こそちかくなりけれ

田に畑に雪ぞつもれる民の為ゆたかにと思ふ年の始に

新しき年のうたげのにはもせにつどへる人を見るがうれしさ

草も木も萌ゆるをみれば春風に動かぬものはなき世なりけり

しづのめをしるベにはして宮人も田中のあぜの若菜をぞつむ

しめやかにのきばの梅のかをりきて雨さむからずなれる春かな

若草も浦のなぎきにおひにけり波のうちあげしのりにまじりて

あさがらす鳴きたつこゑも静かにて春雨くらし松のした庵

春の夜の月はまどかになりぬるを惜しくも花のさかりすぎたる

一枝を折りてかへりぬ山桜ともなはざりしひとに見せむと

卯花にくらべて見れば夕月の光はくらし木がくれのには

たちばなの花をし見ればまきもくの珠城の宮ぞしのばれにける

さるかたにおもしろきかな山里の桐のはやしの花のさかりも

鳴く蝉の声ばかりしてひざかりは庭木のうへをとぶ鳥もなし

いづかたにこゝろざしてか日盛のやけたる道を蟻のゆくらむ

山かげの清水むすぶとみし夢はさめての後も涼しかりけり

山城のみやこの空にてる月をおもひぞいづる秋のよな/\

てる月にかゝらむばかり近づきぬはるかにみえし雲のひとむら

ひがひとる船もみえけりさゝ波の志賀のうらわの秋のよの月

海山をにはとみなせる高殿の窓にさし入る秋のよのつき

あた波をうちしりぞけしいくさ人南の島の月やみるらむ

菊の花人に見すべくなりぬるをまだ色うすし庭のもみぢ葉

水こえし里のしめりけかわくべく秋のみそらよ晴れつゞかなむ

をしねほすしづが垣根をみつゝゆく秋の旅路のこゝちよきかな

つく/゛\と月にむかひて思ふかな水にひたりし里のよさむを

御神楽の庭火のかゞり影ふけて広前しろく月のてりたる

波のうへにむれたつかげはみえながら沖の千鳥の声はきこえず

ゆふづゝのかげこそみゆれ雪の色はまだくれはてぬ山のかひより

波のうへに富士のね見えて呉竹のはやまの浦の雪はれにけり

おりたちてとくうちはらへ枝よわき小松のうへに雪のつもれる

かり人がいまひとよりときほふ野に木立ゆすりて嵐ふくなり

文机にかざれる玉の光まで寒くぞ見ゆる霜さゆる夜は

なにとなく人の心もさわぐかな空ふく風のしづまらぬまは

山かぜにふきたてられて谷底にしづみし雲もまたおこりけり

世の中のことまだ聞かぬあしたこそ人のこゝろはしづけかりけれ

暮れぬべくなりていよ/\惜しむかなことなくて過ぎし一日を

にひばりの畑も田のもゝおほけれどひなは荒野のなほひろくして

あまた度通ひなるれば遥かなる道も遠しと思はざりけり

いとまなき身も朝夕にいそしみぬ思ひいりたる道の為には

国民がこゝろ/゛\に進みゆく道にはさはるものなくもがな

ならび行く人にはよしやおくるともたゞしき道をふみなたがへそ

みがゝれて光そひゆく石をしも昔の人は見しらざりけむ

みなもとは清くすめるを濁江におちいる水のをしくもあるかな

近からぬ水のひゞきもきこえけりふけしづまれるよはの寝覚に

ちかづけば家もありけり波の上に浮ぶとみえし沖の小島も

おごそかにたもたざらめや神代よりうけつぎ来たるうらやすの国

したしみをよもに結びて旅衣かヘりこむ日をいまよりぞ待つ

草枕たびのやどりに着きて後うれしく雨はふりいでにけり

このゑ人こまひきいづる音すなり朝だちすべき時やきぬらむ

あすもとく軍ならしのさまみむと思へば夢のさめがちにして

旅寝するうまやにつきて待つものは都の今日のたよりなりけり

あけわたる湊の山も見るべきを夜深くとくか船のともづな

山みちはゆきあふひともなかりけりところ/゛\に家はみゆれど

しら雲のはれま稀なるおく山は老木ならぬも苔むしにけり

思ふことしげからざれしそのかみによみつる書は忘れざりけり

いそのかみふるごとぶみは万代もさかゆく国のたからなりけり

呉竹の世々につたへて仰ぐかな遠つ御祖のみことのりぶみ

みじかくてことの心のとほりたる人のふみこそ読みよかりけれ

きゝしるはいつの世ならむ敷島のやまと詞の高きしらべを

千年まで残らむ筆の跡なるを走りがきのみせられけるかな

あまてらす神のさづけしたからこそ動かぬ国のしづめなりけれ

人みなのえらびしうへにえらびたる玉にもきずのある世なりけり

宝ともいふべき玉はなくならむこまかに瑕をもとめいでなば

しら玉を光なしともおもふかな磨きたらざることを忘れて

世の中の人のかゞみとなる人のおほくいでなむわが日の本に

くつがへることもこそあれ小車の進むにのみはまかせざらなむ

ふなづくりたくみになりて波の底かよふ道をもひらきつるかな

軒ごとにかけつらねたるともしびはにぎはふ市の光なるらむ

をさめしる国のはてまでしらせばや民安かれと思ふこゝろを

おのが身はかへりみずしてともすれば人のうへのみいふ世なりけり

あかつきのねざめ/\に思ふかな国に尽しゝ人のいさをを

をちこちにわかれすみても国を思ふ人の心ぞひとつなりける

をさな子にひとしくなれる老人をいたはることをゆるかせにすな

おとろへしさまは見えねどおいびとのなみだもろくもなりまさりぬる

からくして歩みはじめし人の子のひとりたつ身のいつかなりなむ

ならびたつたけはひとしく見えながらこのかみは猶このかみにして

外国におとらぬものを造るまでたくみの業にはげめもろ人

あびきする親に力をそふるかな海士が子どもは幼けれども

海こえてはる/゛\来つる客人にわが山水のけしき見せばや

わがしれる野にも山にもしげらせよ神ながらなる道をしへぐさ

ひろき世にまじはりながらともすれば狭くなりゆく人ごゝろかな

たらちねの親のみまへにありとみし夢のをしくも覚めにけるかな

面影のなほこそのこれいにしへの人とかたりし夢はさめても

かきいれし昔の人の筆のあとのこれる書のなつかしきかな

いにしへは夢とすぐれどまことある臣のことばゝ耳にのこれり

わが為に心つくして老人がをしへしことは今もわすれず

わが国は神のすゑなり神祭る昔の手ぶり忘るなよゆめ

とこしへに国まもります天地の神の祭をおろそかにすな

あまてらす神の御光ありてこそわが日のもとはくもらざりけれ

万民こゝろあはせて守るなる国にたつ身ぞ嬉しかりける

ちよろづの民の心ををさむるもいつくしみこそ基なりけれ

まめやかにつかふる臣のあればこそわがまつりごとみだれざりけれ

千万の民と共にもたのしむにます楽はあらじとぞおもふ

さだめたる国のおきてはいにしへの聖の君のみこゑなりけり

さま/゛\の世のたのしみも言のはの道のうへにはたつものぞなき

ものごとに進まずとのみ思ふかな身のおこたりはかへりみずして

空蝉の世のことわざはしげくとも物学ぶまのなかるべしやは

きくたびにゆかしきものはまつりごと正しき国の姿なりけり

新高の山よりおくにいつの日かうつしうゝべきわがをしへぐさ

敷島のやまとしまねのをしへぐさ神代のたねの残るなりけり

思ふことなるにつけてもしのぶかなもとゐ定めし人のいさをを

みち/\につとめいそしむ国民の身をすくよかにあらせてしがな

ひと筋をふみて思へばちはやぶる神代の道もとほからぬかな

おもふこと思ひ定めて後にこそ人にはかくといふべかりけれ

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