亦不知其所終 田中久三 aka 田中紀峰のサイト。

明治42年 (56才)

臣どもがほぎごとうくる朝には雪ふりつみて年たちにけり

のる駒をならしがてらにこの春はとほきあたりの花をたづねむ

わがいほのをかべのさくら近けれどかげふみてみる春ぞすくなき

窓の戸をふたたびあけて見つるかなやみの夜桜いかがにほふと

春もややなかばになるを青森のあがたの吹雪はげしとぞ聞く

しらかしの瑞枝(みづえ)なびけてふく風のまだそでさむき朝戸出のには

闇もまたおもしろきかなともしびを木ごとにかけてすずみする夜は

やりみづの上のたかどのせばけれどことしも夏のゐどころにせむ

枝ひろくさしおほひたるくすの木の木陰にけふは暑さ避けばや

家にても暑きこの夜につはものはたむろに立ちて夜をあかすらむ

あはれをばまだもよほさぬ秋の夜の月はいまこそをかしかりけれ

きりはれし月夜にみればわがをかのすすきはなべてほにいでにけり

八千草にこころのとまる秋の野をひと日あゆみて見るよしもがな

八束穂のたりほの小田をみるばかりこころたのしきことなかりけり

をさなくてありしころより秋の夜の月のかげにはあそびなれにき

みかぐらの庭燎(にはび)のあともきえはてて広前しろく雪ふりにけり

さかづきをはやくとらせよ降り積もるゆきふみわけて人のまゐきむ

ゆきのなかゆくつはものは北支那の山のさむさやおもひいづらむ

樺太の島もる人やいかならむ都もゆきのふりしきるなり

高殿にのぼりてみれば富士のねの雪うちはれてこがらしのふく

あまざかるひなの長路のしもどけにこまも車も行きなやみつつ

かぎりなくしづけきものはただひとりゆめのさめたるあかつきの空

武蔵なるものかとかつはおもふかな相模の山の近くみえつつ

はれぬ日のおほきぞ惜しきわがそのに富士見のうてなつくりたれども

ただならずゆるぎいでたり船は今とほつあふみの灘やすぐらむ

つはものがならすいくさのわざ見むとことしも旅にいでむとぞおもふ

たび寝して聞きにけるかなこのさとに名だたる人の昔がたりも

たびねする山の松風おとたかみつかれたる身もねられざりけり

いなづまをひきしほかげもみゆるかなあがたの里も年にひらけて

ふねにしてきのふわたりし海原を山の上よりかへりみるかな

あかつきを待たでいでけりとまりぶね武庫の山べも見てゆかましを

これもまたわが馬屋にやひかせまし駒のあしなみただならず見ゆ

をさなごが手にもあまれるふでとりてものかくさまのいつくしきかな

きのふまでかた言いひしをさなごが文よむまでにいつなりにけむ

まつりごといでて聞く身となりしより文よむひまはなくなりにけり

をさなごが読むこゑきけば昔わがならひし文をおもひいでつつ

知る人に問ひてをおかむをさなくておぼえざりつるむかしがたりを

さまざまのことにあひにし世の中をおもへば夢のここちこそすれ

老い人がをしへおかれしふるごとは年ふるままに身にぞしみける

おもかげもみえずなりけりいにしへの人のことばは耳にのこれど

おもはずも夜をふかしけり国のためたふれし人のものがたりして

とあらばやかくあらばやとあかつきの寝覚めしづかに世をおもふかな

老いぬれど国の力とならむ人すくよかにこそあらまほしけれ

新しき年のほぎごときゝながら花とちりくる雪をみるかな

ちはやぶる神路の山をいづる日の光のどけく春たちにけり

鶯のこづたふこゑもしづかにて花のはやしにはるさめぞふる

ともし火の花さへ霞むこゝちして夜深きまどに春雨ぞふる

おきいでゝまづ見る花の下枝よりこてふも夢をさましてぞとぶ

さく花の影うごくなり浜殿のにはの池水しほやさすらむ

老人はおのが垣根の花を見て世には心もちらさゞるらむ

世の人にめでらるゝまを時としてかぜをもまたず花のちるらむ

あかずして庭にたかする篝火のうへともいはずちる桜かな

わが園の花のうたげにつどふ人とし/゛\おほくなるぞうれしき

春もやゝなかばになるを青森のあがたのふゞきはげしとぞきく

松の花ちりたる庭につゆみえてこさめ涼しくふるあしたかな

生垣のかなめの若葉あさつゆにぬれたる色は花におとらず

村雨の露をふくみて花うばら匂ふかきねに朝風ぞふく

ほとゝぎす雲のよそなる一声はをちかた人や聞き定むらむ

しづかにも聞きさだめよとほとゝぎす夜深き空に鳴きわたるらむ

めづらしといでゝ仰がぬ人もなしさみだれはれてのぼる朝日を

しづがやのさまをうつして宮人がうゑて見せけり夕顔のはな

おばしまの下ゆく水の音すみてすゞしき風のふくゆふべかな

ちりひぢのかゝる草葉にやどれども露の光はくもらざりけり

ひとりして静かにきけば聞くまゝにしげくなりゆくむしの声かな

ところせきふせごの内に鳴くむしはえらばれたるや恨なるらむ

秋の夜の長きを何にかこつらむなすべき事の多くある世に

あきごとにむかふ心ぞかはりける月はむかしのひかりなれども

おほくらの入江のはちすかれはてゝさざなみひろくてる月夜かな

漁火のうすくなりぬとおもふまに波間はなるゝ月のかげかな

わが心いたらぬくまのなくもがなこのよをてらす月のごとくに

この秋は内外の宮にてる月のかげいかばかりさやけかるらむ

千代ふべききくのまがきにおりたちて宴する日は物思ひもなし

もみぢばの赤き心を靖国の神のみたまもめでゝみるらむ

月みればまづこそ思へ旅寐して近くむかひし山のけしきを

菊のはな机のうへにさしてみむそのふに遊ぶいとまなければ

この秋はいかなる野べに旅寐していくさならしのわざをみるべき

綿の実もやゝゑみそめて畑中のくぬぎの林色づきにけり

おほねほすしづが垣根の夕日影にはかにきえて時雨ふるなり

さしわたる日影にとくる朝霜のしづくと共にちる紅葉かな

ふきさそふ風のゆくへをゆくへにて思はぬ方にちるもみぢかな

山松のこのまに見ゆるかれ枝やうつくしかりし紅葉なるらむ

晴れて後見むと思ひし白雪ををしくも雨のふりけたむとす

とし/゛\に雪をかさねて老松のみさを高くもなりまさりけり

盃をはやくとらせよふりつもる雪ふみわけて人のまゐきぬ

わらはべがつくりあげたる雪の山高き功を誰と定めむ

桐火桶かきなでながら思ふかなすきま多かるしづがふせやを

神ならぬ人の心もすむものは神楽のこゑをきく夜なりけり

暑しともかついふばかりのどけきは小春のころの日和なりけり

ひとしめりあらばといはぬ人ぞなき冬のひよりに物のかわきて

あぜみちは霜くづれして小山田にたつ人かげも見えぬ頃かな

霜をふむたづがねすなり九重の松ばら白く月さゆる夜に

さしのぼる朝日のごとくさわやかにもたまほしきは心なりけり

あつまると見れば離るゝ大ぞらの雲にも似たるひと心かな

旅にいでゝまづうれしきは都にて見なれぬ山にむかふなりけり

しづかなるあしたに見ればわたの原渚にのみぞ波はよせける

国民もつねに心をあらはなむもみもすそ川の清き流れに

よきをとりあしきをすてゝ外国におとらぬ国となすよしもがな

ふりにきと人はいへどもはやくよりすめる家こそすみよかりけれ

花紅葉うゑわたしたるなり所常にすまぬが惜しくもあるかな

橿原のとほつみおやの宮柱たてそめしより国はうごかず

海くぬが軍のてぶりみるがうちに旅の日数はかさなりにけり

せばしとも思はざりけり県人こゝろづくしの旅のやどりは

船にして昨日わたりし海原を山の上よりかヘりみるかな

おのづからたてるいはほを垣根にて庭おもしろき山のした庵

田に畑に処ゆづりてしづがすむいほりちひさく見えわたるかな

このわたり海士がとまやゝ近からむ真砂の上にわかめほしたり

あらし吹く世にも動くな人ごゝろいはほに根ざす松のごとくに

ちよへたる峯のたか松人ならばつめるいさをも多からましを

大空を心のまゝにとぶ鳥もやどるねぐらは忘れざるらむ

うちうれて遊ぶあしたづ庭にしてすだちし雛やいづれなるらむ

呉竹のよゝのすがたをかきのこす書こそ国の宝なりけれ

幼子がものかく跡をみてもしれ習へばならふしるしある世を

をさな子が手にもあまれる筆とりてものかくさまのいつくしきかな

おのが身のまもり刀は天にますみおやの神のみたまなりけり

世の中にひとりたつまでをさめえし業こそ人のたからなりけれ

あまの子が漕ぐや小舟の軽ければかヘりて波もしづめざるらむ

沈むかとみれば浮びぬ波あらき磯こぎめぐる海士の釣舟

やき太刀のとつくに人にはぢぬまで大和心をみがきそへなむ

ひろき世にたつべき人は数ならぬことに心をくだかざらなむ

かたしとて思ひたゆまばなにごともなることあらじ人のよの中

戦のかちにほこりてむらぎもの心ゆるぶなわがいくさびと

ふむことのなどかたからむ早くより神のひらきし敷島の道

野末まで種をまかなむ教草いまだしげらぬ方もこそあれ

すゝみゆく世におくれなばかひあらじ文の林はわけつくすとも

ひらくれば開くるまゝにいにしへにかはるおもひもある世なりけり

ものわすれするを常なる老人も昔がたりはたがへざりけり

いつはりの世をまだしらぬ幼子が心や清きかぎりなるらむ

たゞしくも生ひしげらせよ教草をとこをみなの道を別ちて

呉竹のなほき心をためずしてふしある人におほしたてなむ

ことなしとゆるぶ心はなか/\に仇あるよりもあやふかりけり

ともすれば思はぬ方にうつるかなこゝろすべきは心なりけり

樺太にうつりし民も年を経て今はすみうく思はざるらむ

世わたりの道のつとめに怠るな心にかなふあそびありとも

たまだれの内外の臣をつどへつゝうたげする日ぞ楽しかりける

なりはひをたのしむ民のよろこびはやがてもおのがよろこびにして

まじはりをむすぶ国々よろこびをいひかはす世ぞ嬉しかりける

かみつよのあとにならひて敷島の道をぞ祝ふ年のはじめに

かみぢ山松の梢にかゝりけり天つみそらの雲のしらゆふ

神風のいせの宮居のみや柱たてあらためむ年はきにけり

いつくしみあまねかりせばもろこしの野にふす虎もなつかざらめや

身にあまるおも荷なりとも国の為人のためにはいとはざらなむ

おのが身はかへりみずして人のため尽くすぞひとの務めなりける

鬼神もなかするものは世の中の人のこゝろのまことなりけり

新高の山のふもとの民草も茂りまさるときくぞ嬉しき

天をうらみ人をとがむることもあらじわがあやまちを思ひかへさば

いたづらに時を移してことしあればあわたゞしくもたちさわぐかな

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