亦不知其所終 田中久三 aka 田中紀峰のサイト。

明治39年 (53才)

波風もしづまりはてて四方の海に年のほぎごといひかはしつつ

北支那の山のとりでをもる人も年のはじめの御酒やくむらむ

おく霜のとけはじめたるませ垣にふた葉の小草あらはれにけり

新しき年のうたげにうれしくもかはらぬ人のつどひけるかな

軍人みなひきあげてひとごゝろのどかなる世の春立ちにけり

のぼりきて窓をあくれば鶯もたかきにうつる声きこゆなり

まつりごと暇ある日にたちいでゝはじめて梅の花を見るかな

梅の花ちる頃よりぞおほかたの春の匂は深くなりぬる

白波のよせてはかへるまさごぢにいつ若草の生ひいでにけむ

老人のなぐさめ草におくりてむ庭の蕨はすくなけれども

さかりなる花の梢に匂へどもふくれば寒し春のよの月

いはほきる音もしめりて春雨のふる日しづけき白川の里

友をおひともにおはれて若駒のおもしろげにも遊ぶのべかな

浜殿の宴のまうけはやくせよあしたゆふべに花のさきそふ

浜殿の庭のさくらの木のまより沖ゆく舟を見るもめづらし

庭ざくらいまかちるらむぬばたまの夜ふかく風のふきたちにけり

市びともいとまいとまにあそぶらむ日比谷の園の花のさかりに

桜花かをるばかりの春風はふかぬ日よりものどけかりけり

ながゝらぬ花のさかりのうれしくも月の夜ごろにあひにけるかな

いまよりは桜山とや名づけてむ向ひの高嶺花さかりなりけり

垣根にはうゑぬ宿かなうちわたすたかねの花を庭木にはして

のどかなる春をぞいはふ浜殿の花のうたげに人をつどへて

さかりのみなにかはいはむ桜花ふゝむも散るもにるものぞなき

あすもまた人に見せむと思ひしをこの夕風にちる桜かな

はまどのゝ庭のいけ水あさしほのみちたるうへにちる桜かな

咲きつゞく花より花にあくがれて蝶も夢みるひまやなからむ

春の日の長きさかりをさかりにて藤の花さく紫のには

とほからぬ旅にいでゝも見てしがな鶯なきてさくらちるころ

親も子もうちつどひてやいくさ人ことしは家の花を見るらむ

たけのこの竹になりたる庭にまだ春をのこして鶯のなく

朝ぼらけ森のしげみをふく風に楢の若葉のひるがへるみゆ

おひいでてほどやなからむ竹の子のかしらにいまだ土のかかれる

魚のとぶかげのみみえて浜殿の池水くらくさみだれぞふる

空蝉のからもこぼれてかしは木の森の夕風ふきたちにけり

武蔵野の昔おぼえてはなすすき広尾の原にしげりあひたる

みづえさす樫の下みち露ちりて夏なほ寒き朝かぜぞふく

きゝしらぬ人もありけりほとゝぎす都になくはたまさかにして

早苗とるこゑぞ賑ふたゝかひにいでにし民も里にかへりて

去年の実の残るかたへに橘のことしの花もさき匂ひけり

さみだれの雨の久しさいつはあれど今年に似たる年なかりけり

川岸のあしはらなびき吹く風にとばぬ蛍のかげうごくなり

しきしまのやまと撫子もゝ草の花にまさりていつくしきかな

傾きてさけるを見ればてらす日のかげやまばゆき姫百合の花

風わたる山下水にたゞよひてすゞしくみゆる浮草の花

はたゝがみ光きらめく夕立に蔀おりせといひさわぐなり

かゞやきし入日のかげもきえはてゝふじの裾野に夕立のふる

わが庭の大木のかげは風すゞし山にひとしと人のいふまで

さしかはる杉のわか葉に山里の垣あたらしく見ゆるころかな

かざぐるまかけぬ日もなし秋くれど西日のあつさ堪へがたくして

いづくをかわけてきつらむかへりみる野みちはすべて薄なりけり

わがためにあつめしならむ旅やかた都にきかぬ虫の音ぞする

都だに身にしむものを北支那の山の秋風さむくなるらし

いなごとぶかげのみ見えて露しげき浅茅が原はゆく人もなし

あしひきの山さやかにもうちはれてすみたる空に秋風ぞふく

ながつきの在明の月の影さえて紅葉のうへにみゆるはつ霜

雲ならばひまもる影もまたましを霧にこもれる秋の夜の月

あかざりし花野の月よ旅やかたいでゝふたゝび見まほしきかな

水のうへに薄き日かげはさしながらまだはれやらぬうぢの川霧

ふたゝびの宴をやせむ菊の花ひかずふれどもなほさかりなり

たゞ一木色づきたるは初時雨そめこゝろみし梢なるらむ

山のはにぬれて見ゆるは村時雨いまそめあげし紅葉なるらむ

山田もるしづを思へばかばかりの秋の夜寒をなにかいとはむ

秋のよの月毛の駒にむちうちて花野のかぎりわけみてしがな

えびかづら色づきそめぬ山梨の里の秋かぜ寒くなるらし

あとたえしこともさま/゛\きゝてけり秋の長夜のむかしがたりに

いさましく語りかはしていくさ人かへる船路に月やみるらむ

国のためうせにし人を思ふかなくれゆく秋のそらをながめて

わが庭の老い木のかげの高ければはなるる月のおそくもあるかな

荒れし世をおもひいでつついくさびと占めしみなとの月やみるらむ

家にゐてくらすはをしとおもふまではれわたりける秋のそらかな

かねたたきなく声すなりわが閨の枕時計の下にかくれて

夕づくひかげろひはてゝ風寒くふきたつ庭にちるこのはかな

なか/\に風のたえたるよはにこそおつるこのはの音はきこゆれ

湊江に夜ふけていりし船人のこゑしづまりて千鳥なくなり

北支那にとゞまる人を思ふかなよもの山辺の雪を見るにも

ふりつもる雪のひろ野にたゞひとつ見ゆるいほりの寒げなるかな

都路にかけわたしたるはりがねの千すぢに雪のふりかかりけり

つかさびといかにいとなくすぐすらむことしげかりし年のおはりは

しづがすむ藁屋あやふくみゆるまでふりつもりたるけさの雪かな

いさみたつ駒に鞍おきてふりつもる雪のなかみちわけみてしがな

ふけゆけばさえこそまされ榊葉のこゑにも霜のおくこゝちして

いくさ人かへるむかへてつねよりも賑ひまさる年のくれかな

みじかしと思ふ心に冬の日はなか/\ものゝはかどりにけり

波風のふきあれぬ日ぞなかりけるあたゝかなりと聞きし海べも

雪はみなしづれし枝にまばらにもさけるが寒しひゝらぎの花

ひさかたの空はへだてもなかりけりつちなる国はさかひあれども

朝ゆふにむかひなれたる久方の空ははるけきものとしもなし

にひばりの小田もひとむらみゆるかな小松たかがや茂る野ずゑに

園のうちを畑になしてもみつるかなしづが営むさまをしらむと

ひろくなり狭くなりつゝ神代よりたえせぬものは敷島の道

近きよりゆかむとしてはなか/\に遠くぞまよふ世の中のみち

こゝろざす方を定めて皆人の世にたつ道にまどはざらなむ

小山田の畔のほそ道細けれどゆづりあひてぞしづは通へる

わたつみの波のそこなるかくれ岩あらはるゝまで汐のおちたる

さきにゆく人ちひさくもみゆるかなこの川橋の長さしられて

つはものゝ渡しゝ橋やもこるらむありなれ川のひろきながれに

ちはやぶる神の心にかなふべくさめてしがな葦原のくに

とほつおやの定めましつる山城のたひらの都とはにあらすな

うつせみの代々木の里はしづかにて都のほかのこゝちこそすれ

すみし世にかはらぬものは昔より老いたりと見し松ばかりにて

故郷のふるき柱によりそひてすみし昔をおもひいでつゝ

ひとりしていくらの小田をまもるらむしづが仮庵のかずぞすくなき

さしなみのとなりにかよふ道ならむ籬の竹のひまのみゆるは

さしなみのとなりのひとをたのみにてひとりや老が庵にすむらむ

はるかなるものと思ひしふじのねをのきばにあふぐ静岡のさと

国民のむかふる見れば遠くこし旅のつかれも忘られにけり

いとまなきなりはひやめて国民のわが馬車いで迎ふらむ

草まくら旅のやどりのせばければ車のおとを枕にぞ聞く

たねなくて茂りもゆくか世の中の人のこゝろのものわすれぐさ

万代をしめたる庭の松かげにいくたび家はつくりかへけむ

かくばかりひろき林をいかなればひとつ木にのみ鳥のとまれる

餌をまきていざあさらせむわが庭にけふも小鳥のなれて遊べる

かぎりなき天つみそらはあしたづの翅をのぶるところなりけり

いたゞきに朝日をうけて久方のくもゐはるかに鶴なき渡る

あしたづのやどりとなれる老松はいくらのひなかおほしたてけむ

癖なきはえがたかりけり牧場よりすゝめし駒のかずはあれども

いく薬もとめむよりも常に身のやしなひ草をつめよとぞおもふ

外国の昔がたりもきゝてけりときあきらめし書をよませて

石上ふるごとぶみをひもときて聖の御代のあとを見るかな

をさなくも選びけるかなとる筆の力はわれにあるべきものを

思ふことつらねかねてはつく/゛\とふでのさきのみうちまもるかな

梓弓ひきしぼりても放つ矢の的を貫く音のをゝしさ

ゆみやもて神のをさめしわが国にうまれしをのこ心ゆるぶな

いさゝかのきずなき玉もともすればちりに光を失ひにけり

靖国のやしろにいつくかゞみこそやまと心のひかりなりけれ

いさをたてし人をつどへて盃をさづけむ時になりにけるかな

国のため命をすてしますらをの姿をつねにかゝげてぞみる

戦ひしときをぞ思ふしらなみのかへりし船をみるにつけても

沖遠くみえし小島はくれはてゝいさり火あかき波のうへかな

ふきまよふ風にまぎれて東とも西ともわかぬかねのおとかな

松かげの石のともし火ともさせてよるしづかなる庭を見るかな

わが身よにたつかひありてちよろづの民の心をやすめてしがな

よものうみなみしづかなる時にだになほ思ふことある世なりけり

川舟のくだるはやすき世なりとて棹に心をゆるさゞらなむ

老の坂こえたる人はなか/\につかふる道にたゆまざりけり

同じこと問ひかへしつゝをさな子があそぶうちにやもの学ぶらむ

ものをだにまだいはぬ子も万代とよばへばやがて手をあげにけり

年々にひらけゆく世のをしへ草身のほど/\に摘ませてしがな

いかならむときにあふとも人はみな誠の道をふめとをしへよ

うちつれて園生にあそぶうなゐ子は学ぶとなしにもの学ぶらむ

朝夕にまもり育つるをしへ子はうみの子のごとかなしかるらむ

つくろはむことまだしらぬうなゐ子のもとの心のうせずもあらなむ

世の人にまさる力はあらずとも心にはづることなからなむ

しづかなる心のおくにこえぬべき千年の山はありとこそきけ

しづかにも夢のさめたるあさぼらけむなしき空をうちあふぐかな

つはものはかちわりして時のまに早瀬に橋をかけてけるかな

つはもののわたしし橋やのこるらむ鴨緑江のひろきながれに

磯崎のなみまにうかぶはなれ島鵜のゐるほかに人影もなし

うつせみの代々木の里はしづかにて都のほかのここちこそすれ

市中をゆくたびごとに石ばしらたてる家居のおほくなりぬる

汽車の中にねどこある世はゆふべよりたびにいでたつ人もありけり

たちいでむ時きにけらし旅やかた車ひき入るおときこゆなり

草枕たびのやかたのせばければ民のゆききをちかくこそ見れ

木かげより青海原のみゆるかなこの峠にてしばしいこはむ

やまざとのかきねをめぐるほそながれ木の葉の下におとのきこゆる

ともしびのかげめづらしく数そひぬ山べのさとや祭なるらむ

山松のあらしのおとにさめにけり都の人にあふとみしゆめ

縄すだれのきばにかけて老い人がこころぼそげに山田もるみゆ

あしびきの山田ふきこす秋風にゆるぎやすらむ小田のふせいほ

よろこびのうたげするこそ嬉しけれもゝの司をうちつどへつゝ

にひばりはひろくなれども山田もるいほのけぶりはまばらなりけり

かちいくさかねてしめしてわがふねに宿りしたかは神のつかひか

たたかひにたちにし駒もことなくてあるじとともにかへりきぬらむ

まれ人をなぐさめむとてけぶりぐさみづからとりてすすめけるかな

ひとりゐてひと日こころのなぐさむはしづかに歌をよむ日なりけり

たたかひにおもでおひたる人ならむ老いせずながら杖にすがれり

数あまたかけし時計のことごとくくるはぬ音のここちよきかな

国のためかばねをすてしますらをのすがたをつねにかかげてぞみる

まがひなきこのうつしゑのいにしへのみよにあらばとおもはるるかな

はるかにも思ひこそやれつくりえて船おろしする海のけしきを

ひきあげしいくさびとをやなぐさむるけふも花火のおとさかりなり

遠めがねいざ手にとりて沖べよりいりくるふねのふなじるしみむ

海ごしの山もさやかにみゆるかなもろこしかけてはれし日ならむ

わすれつつありしことをも暁のねざめしづかにおもひいでつつ

老いのさかこえたる人はなかなかにつかふる道にたゆまざりけり

きのふまでをさなしとのみ思ひつる人ははやくも親になりけり

詞をもききしるばかり外つ国の人のまじらひしげくなりけり

あまたたびいくさにかちしつはものをこの青山にみるぞうれしき

戦ひにかちてかへりしつはものの勇ましくこそたちならびけれ

外つ国にかばねさらししますらをの魂も都にけふかへるらし

仇波をくだきしふねをことごとく横浜沖にみるがいさまし

ひきあげしみいくさびとをつどへつつものがたりする世となりにけり

わがかどに今か入るらむいくさびとかへさ迎ふる声とよむなり

あまざかるひなのはてまでわらはべが学びの窓の数そはりけり

国のため世にしあらばと思ふ人おほく昔になりにけるかな

いさをたてしいくさの人をみるにまづ帰らずなりし身を思ふかな

富士の嶺にむかふうてなをあけて見む空かぎりなく晴れわたりけり

したしみを結びてみれば白雲のよそなる人もこころへだてず

しばらくの眠のうちにいかにして遠きむかしを夢にみつらむ

諌めてし人のことばもおもひいでぬかきのこしたる書をひらきて

暁の露にぬれたる玉串をいまさゝぐらむ神のみまへに

さくすゞの五十鈴のみやの神風のふきそはる世ぞうれしかりける

日の本の国の光のそひゆくも神の御稜威によりてなりけり

国民のうへやすかれと思ふにもいのるは神のまもりなりけり

かみかぜの伊勢の宮居を拝みての後こそきかめ朝まつりごと

をぐるまのめぐるまに/\響くなりわが国民のよろこびのこゑ

いくさ人身をかへりみず進みけむあとこそ見ゆれぬきし砦に

目に見えぬ人の心のよろこびも声によりてぞ聞きしられける

国の為いのちをすてしますらをのたま祭るべき時ちかづきぬ

いさみたつ駒をつらねて軍人かへりこむ日もちかづきにけり

軍人ちかくつどへて海山のものがたりきくときは来にけり

かちどきをあげてかへれる軍人まぢかく見るがうれしかりけり

たひらかに世はなりぬとて敷島の大和心よ撓まざらなむ

いかにぞと思ひやるかな戦のをはりしのちのたみのなりはひ

国のためたゝれずなりし民草に恵の露をかけなもらしそ

ますらをも涙をのみて国のためたふれし人のうへをかたりつ

波風はしづまりはてゝよもの海にてりこそわたれ天つ日のかげ

むらぎもの心たゆまず進みなばさがしき山も越えざらめやは

うたはせてきくぞたのしき国民の言の葉ひろくめしあつめつゝ

いつくしとめづるあまりに撫子の庭のをしへをおろそかにすな

年をへてすたれしこともおこさばや聖の御代のあとをたづねて

歳月は射る矢のごとしものはみなすみやかにこそなすべかりけれ

みちのべにわれを迎ふるくにたみのたゞしきすがた見るぞうれしき

さかづきを人にとらせて豊年のしるしにつもる雪をみるかな

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