沢庵

日曜日の浅草は観光客が多すぎてほんとうに苦痛だ。駅の改札を通れないで立ち往生する人、道の真ん中に固まってどっちへ行こうか思案している人、スマホを見ながらだらだら歩く人。こちらも観光気分で何かまだ見落としているものでもないかなと物色する気分の時は良いが(実際浅草というところはそんな簡単に見尽くせるところではない)、普段道を歩く時と同じ感覚で歩くととにかく精神衛生に悪いから近寄らないほかない。

上野のヨドバシで品物を取り置きしてもらい、散歩がてら上野まで歩く(40分くらいか)。ここらをくまなく散歩して回れるのも数年限りだから、せっせと見て回ろう。途中下谷神社に寄る。正岡子規の碑が立っていた。

寄席はねて上野の鐘の長夜かな

下谷神社が寄席発祥の地であるという。上野の寄席とは鈴本演芸場のことだろうか。寛永寺の鐘であろうか。暮れ六つの鐘であったろう。長夜は秋の季語なので、早く日が暮れてしまい、これから長い夜が始まる、というような意味合いであったか。それとも当時すでに西洋式に18:00に暮れ六つを打っていただろうか。

上野の博物館は異様に混んでいる。特に西洋美術館がいつもとんでもなく混んでいて建物の外まで行列しているがあれはショップに並んでいるのかもしれない。今はミロ展の最中で、こないだはモネ展だったが、とにかくモネだかミロだかのグッズをどうしても買わねば気が済まない人がたくさんいるらしい。とりあえず上野の博物館群は人の多さにあきれて素通りした。

天海僧正毛髪塔というものがあった。この天海というやつが家康をたぶらかしておかしな宗教にはまらせたのだ。

上野松坂屋地下食品売り場で沢庵を買った。それから吉池でカマスの一夜干しとかメザシのようなものを買った。吉池は地上部分はユニクロ化してしまったが地価の食品売り場はすばらしい。浅草のいかなるスーパーよりも吉池のほうが良い。御徒町に来たら吉池に寄って晩御飯の支度をするべきだ(これからの季節、保冷剤は持参したほうが良いかも)。

沢庵は難しい。宮崎県産の沢庵は好きだ。野崎漬物、道本食品のは安心して買える。しかし九州の沢庵はどうも甘味が気になる。甘味料を入れないかもっと減らすわけにはいかないのだろうか。と思って和歌山産や山形産の沢庵を買ってみたのだが、山形のやつ「田舎たくあん」は販売者が山形の晩菊本舗三奥屋だが、製造所はキムラ漬物宮崎工業株式会社で、キムラ漬物は愛知県の会社である。甘味は強くない。おいしい沢庵なのでこれは良しとする。和歌山の沢庵は甘くはないがすっぱい。漬物が乳酸発酵してすっぱいのはよくあることなんだが、私はすっぱい沢庵が食べたいわけではないのである。熱海の七尾たくあんも甘くはないが、かなりすっぱく、しかも固い。もしかするとそういう沢庵が本格派なのかもしれないのだが、私が食べたいのはそういう沢庵ではないのである。

なんというのかな。私が食べたい沢庵というのは、色も白っぽくて、塩分もそんな高くはなく、しゃりしゃりした浅漬けのような歯ごたえではなく、きちんと漬かっていて、しかしながらあまり筋っぽくもなく固くもなく、砂糖など甘味料はいっさい使ってないものが食べたい。食塩とぬかと大根だけで作られたものが(もし現代にそんなものがあるなら)食べてみたい。どこかにそんな沢庵は無いものか。燻製にしたいぶりがっこは好きではない。壺漬けもべったら漬けも好きではない。

沢庵というのは沢庵和尚が発明したのだろうか。となると江戸初期、家光の時代だ。当時の沢庵とはどんな味だったのだろうか。沢庵に適した白首大根を大量に生産しているのは宮崎や鹿児島くらいらしい。つまり、消費者に近い関東などでは生食用の青首大根を、消費地から遠い九州南部などではあまり一般的ではない漬物用の品種をもっぱら栽培している(かつ南国なので育ちやすい、火山灰の砂地で育ちやすい?)、ということではないか。となるとその他の地域の漬物屋でも大根は宮崎産を使ったり、全国展開するような大きな漬物屋は宮崎に工場を作ったりするのかもしれない。

沢庵にこだわりのある人というのはごく一部で、老若男女、特に子どもが食べるのには柔らかくて甘い沢庵が好まれるのだろう。私も子どものころはそうした沢庵を食べていたのかもしれないが。スーパーに売られている量産品はみんなそんなやつだ。

伊勢沢庵は名高いけれども東京ではほとんど売られていないようだ。沢庵は結局、百貨店の食品売り場などをしらみつぶしに探してみるしかなさそうだ。

6月6日になってイオン(まいばすけっと?)が外米を売り始めたらさっそく買うつもりだ。実に待ち遠しい。

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