亦不知其所終 田中久三 aka 田中紀峰のサイト。

明治45年 (59才)

さしのぼる朝日のかげをあふぎみてくもらぬ年のはじめをぞしる

ひとりしてうちゑまるるは鴬のはつねききつるあしたなりけり

しづかなる所えたりとうぐひすもみやまがくれの花になくらむ

わがめづる梅を折らせつたれこめてありといふなる人に見せむと

あけがたの霞のうちにいつとなく消えゆく月の影のしづけさ

春雨の音ききながら文机の上にねぶりのもよほされつつ

しづかなる春の雨夜を歌ひとつよまでふかすがをしくもあるかな

春雨のしづかなる夜になりにけりすずりとりよせ歌やよままし

吹く風の枝をならさぬこの春は花のさかりぞひさしかりける

ゑみかはす花にむかひてしばらくはおもふことなき身となりにけり

にはの面の木のもとごとにたちよりてひとりしづかに花をみるかな

さく花にむかひくらしし春の日はよはひものぶるここちこそすれ

たかどのの窓てふ窓をあけさせて四方の桜のさかりをぞみる

まつりごとききおはりたるゆふべこそおのが花みる時にはありけれ

ひとしきりつどひし人も去にはててゆふべしづけき花の木のもと

かがり火をかげにたかせてしばらくの花のさかりを夜も見てまし

春ごとにおもひこそやれうゑおきしわがふるさとのにはざくら花

住みすてむものともしらで植ゑたりしには木のさくらたれかみるらむ

あかず見し山べのさくら春の日のくれてののちもおもかげにみゆ

さく花のかげにふたたび行きてみむまだ春の日はくれのこりけり

夕月のかげまさごぢにさしながら花の梢はくれのこりけり

風たたぬ今年の春もさくらばな散るべきときと散りてゆくらむ

あかずしてくれゆく春はあひおもふ友にわかるるここちこそすれ

天のはらみわたすかぎりはれにけりいづこに雲のきえしなるらむ

ひとむらと思ひし雲のいつのまにあまつみそらをおほひはてけむ

暮れぬ間になしはてばやとおもへばや夕べはもののはかどりにけり

花につけ雪につけてもあまた年くらおきなれし駒も老いたり

ものはみなゆめなりけりと思ふかなあとはかもなくすぎし世の中

こころからそこなふことのなくもがな親のかたみとおもふこの身を

若きよにおもひさだめしまごころは年をふれどもまよはざりけり

むらぎものこころのはれし朝かなさやかに富士の山もみえつつ

燕だにとはずなりぬる故郷のかやがのきばに春雨ぞふる

ありとある人をつどへて春ごとに花のうたげをひらきてしがな

荒駒をならしがてらに野辺とほく桜狩するますらをのとも

しづかにもそそぎし雨はうちはれてたわめる花に夕日さすなり

ふく風の音をきくにもおもふかなあすうたげせむ花はいかにと

九重の庭木のさくらさきにけり野山の春もさかりなるらむ

枝ながら風にゆらるゝ桜花ただよふ雲にかはらざりけり

司人ささぐるふみも読みはててゆふべしづかに花を見るかな

人ごとにをりて来つれば桜花さしたる瓶ぞおほくなりぬる

あがたよりいでこむ人をまちてのち花の宴の日をばさだめむ

うつろへばうつろふままになつかしと思ふは花のいろ香なりけり

乗る駒に小草はませてやすらへば鞍のうへ白く花ちるかかる

花瓶にさしてぞ人のすすめける鈴菜もいまだめづらしければ

燕とぶ山沢水にふぢなみの花ちりうきて夏はきにけり

みるたびに高くなりぬる若竹はいまぞ生ひたつさかりなるらむ

二声となかぬぞをしきほととぎすきかせまほしき人のおほきを

いかならむ山にかくれてほととぎすたまさかにのみ世にはいづらむ

小麦かる人やきくらむほととぎす野中の森をいづるひとこゑ

風ふけば露もおちくる松かげに月をみる夜ぞ涼しかりける

をりをりに庭の草木はうごけども涼しき風の窓に入りこぬ

山近くすみし都をなつかしとさらにぞ思ふ夏の来ぬれば

いはまより滝のおちくるこの庭は山ならねども涼しかりけり

田も畑もうるほふほどをかぎりにて晴れにし雨はうれしかりけり

すすむにはよし早くともあやふしと思ふ道には入らずもあらなむ

ともすればさまたげられて一筋にゆかれぬものは道にぞありける

人の世のただしき道をひらかなむ虎のすむてふのべのはてまで

ききしより遠しと思ふはゆくさきに心のいそぐ道にぞありける

あさしとて心ゆるすな雨ふればとみにあふるゝ山川のみづ

さまざまの舟のかよひて隅田川みづのうへさへ賑しきかな

なぎぬればかくもなぎけり島山もこゆべくみえし沖つしらなみ

まつりごとよこしまならぬ国にこそさかしき人も多くいでけれ

かりそめの事に心をうごかすな家の柱とたてらるる身は

百年を経たる人をも見つるかな車とゞむるところどころに

かなし子をたびにぞいだすあまざかるひなの手振をしらしめむとて

白雲の軒端にまよふ山里は雨ふらぬ日もうちしめるらむ

あしたづの舞子のはまの松原は千代をやしなふ処なりけり

村鳥のねぐらあらそふ夕暮は林のかげもさわがしきかな

ひなをさへおほしたてけり早くよりかひならしたる庭のあしたづ

親のゆくあとをしたひてひな鶴も庭のをしへやふみはじむらむ

朝づく日とよさかのぼる山松の梢をしめてたづぞ鳴くなる

人はみな野にいではてししづが屋にひとりのこりてには鳥のなく

鞭うつもいたましきまで早くよりならしし駒の老いにけるかな

ひもとかむ暇なき日のおほきかな読むべさ書はあまたあれども

糸竹のしらべたへなる声にこそ人の心もやはらぎにけれ

とつくにの人に見すべきしきしまの大和錦をおりいださなむ

はたつものつみいだすらむ里川につなぐ小舟のおほく見ゆるは

老の坂こえにけりとも見えぬかな真柴になひてくだるきこりは

よきたねをえらび選びて教草うゑひろめなむのにもやまにも

いかならむことある時もうつせみの人の心よゆたかならなむ

わがためにかきのこしたるひと巻の書こそ人のかたみなりけれ

雪ふれば駒にくらおき野に山に遊びし昔おもひいでつつ

いにしへの姿のままにあらためぬ神のやしろぞたふとかりける

いとまなき世にはたつともたらちねの親につかふる道な忘れそ

心からそこなふことのなくもがな親のかたみと思ふべき身を

敷島のやまと心をみがけ人いま世の中に事はなくとも

おのづからわが心さへやすからず鄰のくにのさわがしき世は

思はざることのおこりて世の中は心のやすむ時なかりけり

身をすてていさををたてし人の名は国のほまれと共にのこさむ

くに民の業にいそしむ世の中を見るにまされる楽しみはなし

あやまたむこともこそあれ世の中はあまりにものを思ひすぐさば

開くべき道はひらきてかみつ代の国のすがたを忘れざらなむ

くにを思ふ臣のまことは言のはのうへにあふれてきこえけるかな

しる人の世にあるほどに定めてむふるきにならふ宮のおきてを

敷島のやまと心をうるはしくうたひあぐべきことのはもがな

おもふこと思ふがままにいひてみむ歌のしらべになりもならずも

なすことのなくて終らば世に長きよはひをたもつかひやなからむ

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