亦不知其所終 田中久三 aka 田中紀峰のサイト。

明治19年まで他

明治2年 (16才)

千代よろづかはらぬはるのしるしとて海辺をつたふ風ぞのどけき

明治3年 (17才)

ふく風ものどかになりて朝日かげ神代ながらの春をしるかな

明治4年 (18才)

をさまれる世世のためしを都人ひなもろともにいはふ春かな

明治6年 (20才)

年たちていはふにいとど直なれとわが世の道をおもひけるかな

明治8年 (22才)

花ぐはしさくらもあれどこのやどの代代のこころをわれはとひけり

明治9年 (23才)

新しき年を迎へてふじのねの高きすがたを仰ぎみるかな

けふこゝにわが来て見れば園のうちの菊のかをりも心あるかな

明治10年 (24才)

くりかへしふみ見ざりせば天の下をさむる道もいかでしらまし

明治11年 (25才)まで

見わたせば朝日に匂ふふじのねの雪の光もあらたまりけり

新しき年のはじめにたちいでて日かずつくせる東路の空

むら鳥のあさりしあとは雪消えてした萌えいづる春の七くさ

白妙に咲きかさなれる梅の花見るもたのしき九重の庭

おぼろ夜の月の光にくれなゐの濃染めの梅のかをる庭かな

臣どもを梅のさかりにことよせて集むるけふはたのしかりけり

降る雨のはるるを待ちて臣どもを梅の林につどへけるかな

きのふけふ降る春雨に青柳の緑をそへよわれたのしまむ

見わたせば芝生かき分けてつくづくし庭もせきまでおひいでにけり

ときは木の松のこのまにあらはれて照らせる春の夕月のかげ

春雨のふる音聞けば咲く梅の花も散るやとしづごころなし

さきつづく庭の馬ばの桜花こころ勇みてわれはみるなり

咲けやさけ庭の桜のさかりをばみまほしとおもふ春のこのごろ

夕月の光につれて糸桜すがたをみせよたかどののまど

はるかにも向かひを見ればわたつみの小島の花もさかりなりけり

たかはらの駒を桜につなぎつつのどけき春の日かげをぞみる

池水の浮き藻がうへにあらはれてこの夕月に鳴く蛙かな

さきみちし藤の花ぶさ風ふけば芝生の上になびきてぞちる

しからむと空ながむれば明けがたの月の光もかすかなりけり

春の浦の潮干のときに来てみれば貝拾ひけり海人のをとめご

長き日もうちわすれつつ芝くさをふませて馳する駒のかずかず

臣どもと駒はせゆけば大庭の梅の匂ひをちらす春風

さきみてる梅の花びらのる駒の前輪にちるもおもしろきかな

朝まだきさわぐ市場にほととぎすひとこゑ鳴きてすぐるなりけり

夏深き夜半の蛍もなにとなく秋に近づくひかり見せつつ

人もわれもともにたのしむ夏の夜の更けゆく月のかげのすずしさ

はちすばの露にやどれる夕月の光すゞしき池のおもかな

山ざるの手にさへあはぬさるすべりわれはよぢてものぼりけるかな

朝な朝な庭のまがきの常夏の花のさかりを折りてたのしむ

白駒にうちまたがりてのりまはす道にて蝉のこゑを聞くなり

秋の風大海ばらにたちぬらしうちよする波の音のすずしさ

植ゑおきし庭の垣根の朝がほの花のさかりをたれか見るらむ

木がくれの庭の秋はぎ白妙のまさごのいろに花さきにけり

八千ぐさの花のさかりを来てみれば秋もはてなき武蔵野の原

野べ見れば秋風ふきて花すすき夕日ながらになびくさびしさ

入り日さす遠山もとのひとむらにうすくたなびく秋の夕霧

秋の夜のながくなるこそたのしけれ見る巻々の数をつくして

秋の夜の長きにつけて窓のうちに見る外つ国のふみのかずかず

はるかにも秋の田のもをながむればいろこき稲に夕日さすなり

さしのぼる空もさやけき夕月を芝生にいでてわれのみぞみる

吹きわたる天つ秋風こゑすみてよもにくもらぬ月のかげかな

夕ぐれの空にほのめく三日月の見るほどもなく西に入るなり

深き夜の雲ゐはるかに来る雁のちかづく声をひとり聞くなり

この秋もところどころにきくの花うゑてたのしむ九重のには

植ゑおきし都の菊はいかならむここの都もけふさかりなり

うゑおきし庭のかきねをけさみれば南の瓜の花のかずそふ

冬の夜の光もこほる月かげに松の葉しろくてりまさりける

この朝け雪に交りてふる雨のやむかとみればやむひまもなし

ももしきの芝生の植えにうすわたをしくかとみゆるけさの白雪

このあしたけふつむ雪をひづめにてふみ分けいさむ甲斐のくろこま

夕まぐれ降りくる雪に待つ人のはやくも訪へとおもふなりけり

冬さむくふる白雪もとよ年のしるしなりとぞいはふ諸人

玉くしげあけぬくれぬと思ひつつ恋ふる人こそ見まくほしけれ

松風の吹く音聞きてわがこころこひしき人を思ひ出でつつ

はげしくも吹きくる風の音すなり青海原に波やたつらむ

風吹けば波立つ鳥羽の朝なぎにかもめたちたつつばさのみみゆ

住みなれし花のみやこの初雪をことしは見むと思ふたのしさ

あづまにといそぐ船路の波の上にうれしく見ゆるふじの芝山

をぐるまのをす巻きあげてみわたせば朝日に匂ふ富士の白雪

宇都の山はげしき坂もいまよりは心もやすくとほるほら道

千町田のここにかしこに住む民の手わざをわれはあはれとぞおもふ

賀茂川のむかひをさして白鷺のひとりとびゆく夕ぐれの空

百千里みちをへだてて言の葉をとりかはすてふてれぐらふこれ

をちこちのくまものこさぬ遠眼鏡わがよの末もうつらましかば

をちこちにありしことごと残りなくかき集めても見するふみかな

都出でて草の枕の旅寝にも恋しき人をおもふなりけり

いにしへのふみ見るたびに思ふかなおのがをさむる国はいかにと

あかつきの鐘のひびきに夢さめてわがなすわざを思ふなりけり

をさまれる世の中にしも海原の舟のそなへを教へおきける

きのふけふ長き春日にわれと臣と昔のふみのものがたりして

こぞよりも今年はいとど国の内にひらくる道をいはふ春かな

かくばかり治まれる世のうれしさに民もさちあるとき祝ふなり

くれなゐの梅のひと枝たをりきて白きもともにみせにけるかな

やまととはことかはりたる西洋のものも物にはよるべかりけり

むかしべは弓と刀をもちひしが代もかはりたるつつの音かな

あきのよの長きにあかずともし火をかゝげて文字をかきすさびつゝ

あたらしき年のほぎごといふ人におくれぬけさの鶯のこゑ

日にそひてけしきやはらぐ春の風よもの草木にいよよふかせむ

まさかりの梅の林にさす月のかげさへかをる春のゆふぐれ

白妙のうめもかがりにてらされて薄紅ににほふよはかな

呉竹のふしおもしろき言の葉にならす扇の風ぞすずしき

波のうへに見るより涼し須磨のうらの松のこのまの夏のよの月

もののふのたけきいさをはかほばせにあらはれ出づるいたりやの王

秋の野のちぐさの花をとりどりにかざして虫のいづちゆくらむ

秋山のふもとも見えぬ夕霧にこゑのみわたる鴈のひとつら

わが国のためにつくせるひとびとの名も武蔵野にとむる玉垣

ふけゆけばいよいよ寒し浅茅生の霜にきらめく冬のよの月

人もわれも道を守りてかはらずばこの敷島の国はうごかじ

まつろはぬ熊襲たけるのたけきをもうち平げしいさを雄々しも

ふるさとの木々の落葉のたき物を袖にとむるも嬉しかりけり

明治12年 (26才)

本尊をかけたかと問へば鶯がほうほけ経とこたへてぞ鳴く

植ゑわたすしづが門田の若苗のなびく緑のかぎり知られず

山の端をはなれもあへずひさかたの空にみちぬる月のかげかな

秋の夜のふけゆくままにさす月の光くまなき庭のまさごぢ

のる駒の手綱かいくりかへるさにかへりみすれば月ぞいでたる

乗る駒をはやめて帰る夕暮れに鳴きこそ渡れ天つかりがね

限りなくかけつらねたるともしびの照らすもすずし庭の池水

あらたまの年もかはりぬ今日よりは民のこゝろやいとゞひらけむ

山の端をはなれもあへず久方の空にみちぬる月のかげかな

湊船あさびらきする波の上にうつるもうすき在明の月

常磐なる松の木のまの初紅葉いろめづらしと折りてけるかな

いにしへの由井のはまての跡おひて弓矢とる身の勇ましきかな

明治13年 (27才)

うつるなよしもはおくともわがみつつたのしむ庭のしらぎくの花

冬ふかみ霜にかれゆく花すすきほのかにのこる武蔵野の原

ゆたかにもくれてゆくなる都べの年をうれしとおもふわれかな

むかし誰がかけし板橋いまもなほ朽ち残りてぞ人わたりける

むら雲のたえまたえまに夕月夜さすかとみればかつかくれつゝ

萩の戸の露にやどれる月影はしづが垣根もへだてざるらむ

一枝はもみぢしにけりむら時雨いそぎてそめよあとのこずゑも

なれなれてへだて心もなかりけりわが九重のにはにすむ鶴

明治14年 (28才)

あたらしき年のはじめの寒き夜に榊葉うたふそのの内かな

竜のふす丘の白雪ふみわけて草の庵をとふ人やたれ

霧はれて風しづかなる秋のよの月にすみゆく虫の声かな

埋火をかきおこしつつつくづくと世のありさまを思ふよはかな

うゑおきし庭のくれ竹よよをへてかはらぬ色のたのもしきかな

明治15年 (29才)

照る月の光ににほふ白菊は昼見るよりもさけかりけり

朝まだき葦毛栗毛の駒なべてはせ行く道にかり鳴きわたる

いく秋もかはらぬものは白露の玉しく庭をてらす月かげ

風かよふみはしにいでてながむれば月もうつれる庭のまさごぢ

くもりなく照りこそわたれ伊勢の海の清きなぎさの秋の夜の月

わたつみの波の千尋の底までもてりとほるらむ秋の夜の月

黒駒にひとむち入れて武蔵野のまはぎのさかりいざや見てこむ

住みなれしわがふるさとは夏草の深きところとなりにけるかな

うゑおきし庭の白萩花さきてみるもたのしき夏の夕ぐれ

駒なべて大森の海見に来ればけふこそ花のさかりなりけれ

夏草の茂れるかげも川水にうつるを見ればすずしかりけり

たかまやま空にとゞろくいかづちの声にきほひて夕立ぞふる

村雲のおほふと見しは夕立のみねより嶺にかかるなりけり

かきくもり降るゆふだちに荒磯の波もしばしは音なかりけり

いつのまに秋は来にけむあまの原夕日のかげもすずしかりけり

ふるさとゝなりし都は萩の戸の花のさかりもさびしかるらむ

久方の空ゆく月も海原の波間にかげはうきしづみつつ

沖つ波なるとの海のはやしほにやどり定めぬ月の影かな

山もなき青海原の波の上に待てどもおそし秋のよの月

窓のうちにさし入る月のかげふけて軒端しづかに松風ぞ吹く

昔よりながれたえせぬ五十鈴川なほ万代もすまむとぞ思ふ

明治16年 (30才)

このごろはかきねの柳のきの梅みな鶯のやどゝなりぬる

黒こまのたづなひきしめここかしこ梅をたづねていでしけふかな

さきみちし梅の梢にふれつらむけさふく風のかぐはしきかな

さかりなる庭のうめがえたをらせて人と共にもかざす今日かな

春ながら吹く風寒み桜ばないつ咲くべくも見えぬ年かな

駒なべて見にこしものを小金井のさくらのはなの散りかかるらむ

春風のふきのまにまに雪とちる桜の花のおもしろきかな

いろいろの袖ふりはへて宮人がすみれつむなり武蔵野のはら

ふる雨にを笠とりどりしづのをがみなくちまもる小田の苗代

水無月の照る日ざかりの草の原風のわけたるあとだにもなし

庭のおもに刈りのこしたる夏くさも露おくけさはすずしかりけり

乗りてゆく駒の黒髪うちなびき今かふり来む夕立のあめ

夏あさき山下水をきてみればきのふの春の花ぞながるゝ

薄くこくみどりかさなる夏山の若葉のいろのなつかしきかな

てすさびにさしゝ垣根の卯花もこの夏よりぞ咲きそめにける

夏草のしげりしげりて岡のべの小松もわかずなりにけるかな

雲は晴れ風はのこりてゆふだちの過ぎしあとこそ涼しかりけれ

庭のおもは若葉しげりてすずかけの花咲く頃となりにけるかな

ときのまに千里かけらむ駒もがな糺の森にすゞみてをこむ

水の上に咲きなびきたり萩が花うつれる影も見えぬばかりに

くれわたる庭の芝生におく露のひかり見えゆく夕月のかげ

ふかゝらぬ庭の草にも虫のねのきこゆる秋となりにけるかな

隅田川ゆふべすずしき波のうへにふきくる風は夏としもなし

朝づく日つゆにかがやく草村にのこりてもなく虫のこゑかな

をぐるまのうちよりきけば虫の声をわけゆくここちこそすれ

むらさめの雫もいまだおちやまぬ松のひまより月ぞさしくる

白波のよせてはかへる長浜のまさごぢとほく照らす月かな

なきわたる鴈のつばさにかかりけり月まつ山のゆふぐれのくも

ふじのねも見えずなりけりいづくまでたちのぼるらむ秋の夕ぎり

子日せし小松が原も夕霧のたなびく秋はさびしかりけり

もろ人と共にかざさむいく秋もまがきに匂へしら菊の花

松が枝にまじるもみぢの色ふかみ山べおぼゆる庭のおもかな

いさみたつ駒にくらおけ飛鳥山そめはじめたる紅葉みてこむ

いさみたつ駒にうちのり玉川の鮎とるわざもみつるけふかな

庭のおもの芝生に水をそそがせてすずしくなりぬ夏の夕ぐれ

風のおとにたちいでてみればのこりなく若葉となりし庭のおもかな

嵐ふくやまぢをゆけば松の葉も紅葉と共にみだれてぞちる

みな人のちからあはせて庭のおもにきづきあげたる雪のしら山

いさみたつ駒にうちのり吹上のにはの雪見にいでしけさかな

つくづくとむかしの秋もおもひいでてひとりながむる夜半の月かな

さ夜ふけてゆききもたえし橋のうへに月ばかりこそ照りわたりけれ

さやかなるこよひの月にすみなれし都の秋を思ひ出でつつ

しげりあふすすきが中にまじりつつ咲く花おほし武蔵野の原

長月のこよひの月はしらぎくの花にのみ照るここちこそすれ

むらさめの雲ふきはらふ秋風にをりをりみゆる星のかげかな

そのもりのいたはりしるく菊のはなさかりひさしくにほひけるかな

ふるさとの庭のさくらも橘もうづもれぬらむけふのみ雪に

雪つもる庭のけしきをもろともに見ばやと人をまつゆふべかな

たかどのにのぼりて見れば白雪の光まばゆき富士の遠山

朝戸あけて富士のたかねを見わたせば神代の雪に日かげさすなり

いざけふは手なれの駒にうちのりて野山の雪のけしきみて来む

かりそめにつくりし庭の雪ぼとけ近きまもりにたちならびけり

みなびとの手ごとにもたる網のめをのがれかぬらむあはれ水鳥

おきつ波よりくる舟のとしどしに数そふ世こそたのしかりけれ

きのふけふ庭に放ちし犬の子の人なれゆくもあはれなりけり

明治17年 (31才)

筑波嶺もゆき消えぬらし隅田川かはかみ遠く霞たなびく

我が庭のうめの林のひろければよそにうつらぬ鶯のこゑ

あかねさす入り日の丘を越えくれば濃ぞめの梅もひらきそめけり

ふるさとのあれし垣根ももえいづる草のふたばのめづらしきかな

春の野の雪間に得たる初若菜はつかなれどもうれしかりけり

はるふかき山の林にきこゆなり今日をまちけむ鶯の声

いつのまに生ひしげるらむとのもりが刈らぬ日もなき庭の夏草

わが庭の流れにかけし板橋をわたりてもみる夏の夜の月

くもはれて清きこよひの月かげに池の蛙も声たてにけり

雲はれしこよひの月は玉だれのうちよりみるも涼しかりけり

あまつかぜこの村雲をふきはらへ涼しき月のかげもみるべく

たかどのゝ軒にさしいる月みれば風なき夜半はも涼しかりけり

はしゐして風をまてどもくれたけの枝もうごかぬ夏のよはかな

旅衣あさたつ袖をふきかへす松風すずし浮島が原

芝の海夕霧はれて照る月にくまなく見ゆる安房のとほ山

雪もなく霧もかゝらぬ月かげを芝生の露にやどしてぞみる

ゆふされば庭の草葉も露おきてはなたぬむしの声ぞきこゆる

むさし野の千ぐさの花はちりすぎてすすきにのこる秋の風かな

白川の関うちこえて見しかげもおもひぞいづるあきの夜の月

あまつ風ふきのまにまに雲はれて照りこそまされ秋の夜のつき

いはまよりおちくる滝の音すみて山かぜ寒しあきのよのつき

ひさかたの空にありながらわたつみの底まで照らす秋の夜の月

秋の夜の月の光はかぎりなき海のうへにもみちわたりつつ

秋の夜の月の光にしら雲のあはも上総もみえわたるかな

しづのをが門田の稲葉かりあげて月にはこぶもたのしかるらむ

駒ならす庭さやかなる月影にまがきの菊の花もみえつゝ

朝日かげのぼるきしきはみえながらなほ霧ふかしをちの山のは

信濃なる河中島のあさ霧に昔の秋のおもかげぞたつ

秋ごとに匂ふしら菊もろ人と共にみるこそたのしかりけれ

みる人のかげと共にも池水の底にうつれる岸のもみぢ葉

いつしかと待たれし菊は咲きにけり花のむしろもいまやひらかむ

九重のひろき庭にもしらぎくの花の匂ひはみちあまりけり

おく霜にうつろひそめし白菊をもとの色にもかへす月かな

風ふけばおつるこのはに朝なあさなはらふ庭ともみえぬころかな

すみなれて誰かみるらむ伊豆の海のおきの小島の冬のよの月

空はれて照りたる月に遠山の雪のひかりも見ゆるよはかな

富士のねもはるかに見えてあしたづのたちまふ空ぞのどけかりける

冬ふかき山のすがたもあらはれて風のまにまに散る木の葉かな

こがらしの音のみ冴えてここのへの庭のながれもこほる夜半かな

諏訪の海の氷の上に照りわたる光も寒し冬の夜の月

黒駒のたてがみ白く見ゆるまで狩り場の小野にみぞれふるなり

をしめども今年はくれぬあたらしき初日のかげにいざやむかはむ

雪のうへに朝日かがやく富士のねを見れば心もはれわたりつつ

もののふの撃つつつゆみのけぶりにもまぎれぬものは富士のしらゆき

ふる雨にかざしの花もぬるるまでみまへにうたふもろ人のこゑ

明治18年 (32才)

武蔵野は雪とけそめてあらこまのいななく声も春めきにけり

おのづから春の光はあらはれてかすみたなびく多摩の横山

わがやどのかきねの梅の花ざかりともにみるべき人をこそまて

咲き匂ふ濃ぞめの梅にふりかかる雪おもしろし寒くはあれども

こぎいでて船よりみれば横浜の港もかすむ春のあけぼの

にはのおものひと木のさくらひとりのみ見むはさびしき春の夕ぐれ

花さかばいづこの山の奥までも駒にまかせてゆかむぞと思ふ

ひとむらの雲だに見えぬ大空にみちてすずしき夏の夜の月

しばしだにまぢかく見むと露ながらかめにさしたる朝がほの花

まどあけて見るとしらずや呉竹のしげみがなかに鶯のなく

春風もよきてふくかと思ふまでさかりのどけき花のかげかな

おぼろよの月も梢にさしいでてにほひ加はる花桜かな

春霞たなびく山はとほけれど雲ともみえぬ花の色かな

墨染のゆふべをぐらき池水になほ影みゆる山吹のはな

ゆふだちのはれゆく空にたつ虹をたちいでて見ぬ人なかりけり

しばがきにまとひあまりて萩の葉の末にもさけり朝顔の花

紅葉よりあかく見ゆるはふねのうちにつらなる臣のこゝろなりけり

ひとしきりさそひし風はしづまりておのがまにまにちる紅葉かな

あらしふく庭のもみじ葉あさ霜のうへにちりたる色のさやけさ

厚氷とじたる池の底までもてりとほるかとみゆる月かな

ゆきかひの道をぞ思ふわが園の草木もうづむけさのみゆきに

ふりつもる梢の雪をはらはせて今朝こそ見つれ梅のはつ花

ふるさとの木々の落ち葉のたき物を袖にとむるもうれしかりけり

冬ふかき池のなかにもほとばしる水ひとすぢはこほらざりけり

高殿にのぼればすゞし品川のおきもまぢかく月に見えつゝ

明治19年 (33才)

年のたつあしたに見ればふじのねの雪の光もあたらしきかな

わがそのゝ梅の花見むこの春もこぞにかはらぬ人をつどへて

折りてさすこぞめの梅の花がめに白きひと枝たがまじへけむ

すがのねの長き日ぐらしをとめ子がとれどもつきぬつくづくしかな

けさよりもまた咲きそひて春の日のながさしらるる糸桜かな

ともしびの光をかりて窓の外の花もてあそぶよはの楽しさ

さよふけて吹く松風のおとたかしこのまの桜いまかちるらむ

しづかなる池のこころも動くらむみぎはの花に風わたるなり

高殿にのぼりて見ればをちこちの花も今日こそ盛なりけれ

春雨のはれまになりぬいでて散りのこりたる庭の花みむ

おしなべて若葉になりぬ桜ばな咲きし梢はいづれなるらむ

しげりあふかきねの草の露の上に光もあをくとぶ蛍かな

はるかぜにいなゝく駒の声すなり花の下道たれかゆくらむ

玉だれのをがめの内にむさし野の千ぐさ八千草さしてみるかな

若竹のしげみもりくる月かげはくまなきよりも涼しかりけり

故郷のかきねのすゝきまねきてもかへらぬものは昔なりけり

いづくにて鳴くともしらぬ虫のねの枕はなれぬ秋のよはかな

粟田山くもふきはらふ松風のうへにいでたるあきの夜の月つき

みな人もまちわたるらむ我園にうゑたる菊の花のさかりを

つかさびとわたりけらしも霜の上に駒のあとある門の板橋

雪のうちに鈴の音きこゆ狩人がしらふの鷹をいま放つらむ

ふけぬるか神のみかきに霜みえて澄みこそのぼれあかぼしの声

冬がれのにはのしばふは朝霜のおくも消ゆるもわかれざりけり

千代ふべきみぎりの松はおくしもを寒きものとも思はざるらむ

したさゆる冬のよどこにねざめして衾かさねぬ人をこそおもへ

九重のうてなの竹のふかみどりかはらぬかげぞ久しかりける

こゝのへのみぎりに馴れてすむたづの千代よぶ声をきかぬ日ぞなき

不明

世を治め人をめぐまば天地のともに久しくあるべかりける

見わたせば波の花よる隅田川ふゆのけしきもこころありけり

いつみてもあかぬけしきは隅田川なみぢの花は冬もさきつつ

みわたせばつらなる桜さきみちて朝日に匂ふ春野のたのしさ

池水にかげをうつせる藤波の花の盛のおもしろきかな

うちかすむ梢がくれをかよふなりこの船いかにのどけかるらむ

言の葉もともにしげりし夏草の露と消えても名はのこりけり

豊浦がた千船もゝふねいりみだれ波にしづみし昔をぞ思ふ

をやみなく降りつづきたるさみだれのながめもけふは晴れむとすらむ

九重の雲ゐに匂ふたきものゝかをりにきみが心をぞしる

ここのへのうてなの竹の千代かけてさかえむ世こそたのしかりけれ

おくりにし若木のまつのしげりあひて老の千歳の友とならなむ

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