亦不知其所終 田中久三 aka 田中紀峰のサイト。

明治37年 (51才)

朝づく日とよさかのぼる大空にのどかなる世の年たちにけり

舟にみなしめかざりしてあまの子も波しづかなる年むかふらし

あたらしき年のうたげにうれしくもつらなる人のかずまさりけり

あたらしき年のほぎごといふやがて人は旅にもいでにけるかな

神風の伊勢の宮居の事をまづ今年も物の始にぞきく

あしはらの国のさかえを祈るかな神代ながらのとしをむかへて

梅かをり氷ながれて春風は谷のそこまで吹きはじめけり

冬がれしにはの芝生のそことなくあをみわたりて春雨ぞふる

山遠きみやこの春もさむき日にわがつはものは雪やわくらむ

九重の庭木のうめはさきたれどみるいとまなき春にもあるかな

朝霜のとけし雫にぬれわたる若菜のいろのうるはしきかな

ながしとはいまだ思はぬ春の日もくれがた遅くなりにけるかな

思ふこと多きことしも鶯の声はさすがにまたれぬるかな

春雨にぬれたる花を見る人もなしとやひとり鶯のなく

ことしげきことしの春もしかすがに花はいかにと思ふなりけり

いにしへの人にいはれて咲く花にむかへどうたふ言の葉ぞなき

おもふことしばしまぎれて庭ざくらにほふ梢をうちまもりつつ

春の日の長きさかりもさくら花かげふみて見るひまなかりけり

春を経ておもひやれどもみよしのの吉野の花はいまだわけみず

をしみても折りとらざりし桜花うてなながらに散りしきにけり

おりたちて見るいとまなき春としもしらでや梅のさき匂ふらむ

吹上の園生の梅や咲きぬらむついぢふきこす風かをるなり

さゞれ石敷きたる庭も若草のみどりになりぬ春たけぬらし

春雨のふるにつけても民草のうるほはむ世をまづ思ふかな

たたかひのにはまだしらぬ若駒も勇みまさりてみゆる春かな

子を思ふきゞすの声をあはれとは狩をたのしむ人もきくらむ

春雨のふりいでざらば花の上に月もさすべききよはならましを

こずゑのみ人に知られて桜花こがくれながら散りやはつらむ

戦のにはに立つ身をいかにぞと思へばはなもみるこゝちせず

春毎にうたげのにはにつらなりし人をぞおもふ花陰にして

老人もゑみさかえつゝ咲きにほふ花の木陰に遊ぶ春かな

雨晴れし庭の木陰にたゝずめばぬれたる花の袖にちりくる

大堰川いかだの過ぎし跡見えてちりうく花のたちわかれたる

吹上のそのふの花をいかにぞと問ふ日もなくて春のくれゆく

こと繁き世のまつりごと聴くほどに春の日影も傾きにけり

北の海のこほりの上をおもふかな都の春もゆきのふるころ

ことしげきことしの春はうめの花さかりになれどみる人もなし

はなとりの上もわすれてよろづ民くにに心をつくす春かな

ともしびもさしかへぬまに春の夜はよひすぎたりと人のいふなり

月影はかつみえながら春雨のしづくぞおつる花のしたみち

世の為にもの思ふ時は庭にさく花も心にとまらざりけり

花鳥のいろねは常にかはらねどこゝろにとむる人なかりけり

はなとりの上も思はでよろづ民くにゝ心をつくす春かな

山ざくら見つゝぞおもふものゝふの心の花もさかりなる世を

思ふ事たえぬ今年は春の夜もねざめがちにてあかしけるかな

この朝けひとむらさめや降りつらむ樅のわかばに露のたまれる

さみだれの風うちしめりさむければわたいれ衣けさも着にけり

ほとゝぎすおほかる里にあらねどもきかで過しゝ夏なかりけり

こがひするしづや聞くらむ短夜のふけゆく空になくほととぎす

ほととぎすきく人もなき山にしもかへりて声を惜まざりけり

たらちねのみおやの御代をしのぶかな花橘の陰をふみつゝ

うるはしき色に匂へどなにとなくさびしく見ゆるあぢさゐのはな

浜殿の庭に真砂路ふみならし波間すゞしき月をみるかな

おばしまは夜露にぬれて高殿の軒にさし入る月のすゞしさ

色々に咲きかはりけりおなじ種まきて育てし撫子の花

おく霜の寒さを知らぬ夏菊の花もうつろふ時はのがれず

事繁き世にも似たるか夏草は払ふあとよりおひ茂りつゝ

花さかむほど近からし池水のはちすの立ち葉たかくなりたる

あをによし奈良のうちはは都にてありにし時にやつくりそめけむ

山遠く旅せむこともかたければ庭の木かげにあつささけまし

夏草のことしげければのき近くせきし清水をくむひまもなし

わたの原沖のしほ路を吹く風はこのたかどのの窓にかよひぬ

園守がきりすかしたる生け垣のひまよりかよふ風のすずしさ

春がすみはれぬとおもひしふじのねに雲のあつまる夏はきにけり

中島のいしのともしびともさせて蓮さく池を夜もみるかな

日おほひとなりにけるかな月かげをへだつとおもひし葉広くまがし

つつとりていくさのにはにたつ人は秋たちぬともしらずやあるらむ

いたでおふ人のはだへにしみぬらむ寒くなりゆく秋の山風

あつさのみおもひやりつる戦ひのにはは寒くやならんとすらむ

秋風のさむき朝かないくさびとすすむ山路は霜やふるらむ

むらさきになりてふたたびにほひけり霜をかさねし白ぎくの花

もののふの野辺のかりふしいかにぞとおもひやらるる夜半のしもかな

たたかひのにはいかならむ山とほきみやこの空もこがらしぞふく

たちのぼる夜霧ははれて月かげの霜ぐもりするころとなりにき

初みゆきふりしあしたのうれしさにをさなごころもおもひいでつつ

ゆふづつの光もすごくみゆるかなゆきふりつみしにはの木の間に

わがためにはらひしならむをぐるまのかよふところは雪なかりけり

たかどののまどの日かげもくもるまでつもりし雪のしづれけるかな

まつりごといでてきくまにうづたかく降りつもりけりにはのしら雪

たちいでていざやまたましつかさ人ゆきふみわけていままゐるらむ

風寒みゆきふりしきる空をみておもひやることおほきころかな

うづみ火もなにかもとめむいくさ人穴に寒さをふせぐおもへば

まつりごといよいよしげくなりにけり年の終はりの近づきしより

ただならず寒しとおもへば雪ふりしあがたおほしと告げて来にけり

ひさかたのあまつ空にも浮き雲のまよはぬ日こそすくなかりけれ

白雲のたちわかれたる山のはにかがやきそめし朝づく日かな

大空にみちたる星のかげあかし霞も雲もはれし夜ならむ

つねにみぬ雲こそおこれ青海原なみ風いまか荒れむとすらむ

あかねさす夕日は波にいりはてて沖にひとむらかかるしら雲

春雨ははれそめぬらしくらかりし机の上に夕日さすなり

よるの雨の窓うつおとにさめにけりいくさのにはにたつとみし夢

雨ふりてけふはと思ひし老い人の時もたがへずたづねきにけり

くにたみのかまどのけぶりほそくともながく久しくたてつづけなむ

つもりては払ふ方なくなりぬべし塵ばかりなることとおもへど

起きいでて思ふ事なきあしたこそをさな心にひとしかりけれ

鶯のこゑよりさきにおきいでぬ朝まつりごとはやくきかむと

入相のかねの音ききし後にこそなかなか物ははかどりにけれ

産みなさぬものなしといふあらがねのつちはこの世の母にぞありける

こともなくはせのぼりたる荒駒もくだる坂路はしづかなりけり

しきしまの大和ごころをさきだてて道ある国とひとにいはれむ

くみたみがかかげてあゆむともしびは濠の水にやかげ映るらむ

ちはやぶる神の御代よりうけつぎし国をおろそかに守るべしやは

むかしわがみやこうつしし時よりも家数おほくなれる市かな

池水に小舟うかべてあそびつる昔こひしきふるさとの庭

ふるさとのむかしの夢をみし夜はをさなごころも思ひいでつつ

すみなれし宮居こひしく思ふかなこのにひむろもうれしけれども

わが園にしげりあひけり外つ国の草木の苗もおほしたつれば

旅ごろもあけぬにかどをいでたれど道には人のつどひけるかな

ふる雨にぬかりけるかなわがためにしづがつくりしたびのなかみち

ことそぎし旅のやかたにひと夜ねて道ゆく人の声をきくかな

蚕飼ひするさと近からし右ひだりくはのはたなり野辺の中道

年をへてみやまにこもるあらたかもいくさのにはにたつとこそきけ

もろこしにすむてふとらもこのごろはわがつはものに野辺やゆづれる

おくらせし人よりさきに人の家にやりたる犬はかへりきにけり

いかならむ薬すすめて国のためいたでおひたる身をすくふらむ

言の葉のみちにこころのすすむ日はひとりありてもたのしかりけり

庭の面に清水の音はきこゆれどむすぶいとまもなき今年かな

おほぞらの星をかぞへて夏の夜は月なき宵もはしゐをぞする

年々におもひやれども山水を汲みて遊ばむ夏なかりけり

たちつゞく市の家居は暑からむ風の吹入る窓せばくして

吹く風もたえず通ひて夏はたゞ高き所ぞすみよかりける

ゆふ日影かげろふ待ちて鞍おかむ駒もあつさに弱りもぞする

百日さく花まばゆくもみゆるかな今や暑さのさかりなるらむ

夏しらぬこほり水をばいくさ人つどへるにはにわかちてしがな

水無月の照る日ざかりにいづくにか家づくりするおとのたえせぬ

扇をもならす心ぞなかりけるいくさのにはにたつ人おもへば

まつりごといでてきくまはかくばかりあつき日なりと思はざりしを

わせおくて残るかたなくうゑはてゝしづは田中の神まつるらし

早苗とるしづが菅笠いにしへの手ぶりおぼえてなつかしきかな

暑しともいはれざりけえりにえかへる水田にたてるしづを思へば

二日三日雨ふらぬまにあらがねの土さへ裂けて照る日かげかな

たへがたき暑さにつけていたでおふ人のうへこそ思ひやらるれ

千万のあたをおそれぬますらをもこの暑さには堪へずやあるらむ

ときのまに硯の水のかわくにもけふのあつさのしられけるかな

ものゝふの野辺のたむろやあつからむ宮の内にも風をまつ日は

いくさ人いかにあつさをしのぐらむ照る日にやけしいはねふみつつ

いくさ人いかなるのべにあかすらむ蚊の声しげくなれる夜ごろを

せみのこゑきこえそめたりをちかたにまだ鳴る神の音はすれども

夏もまだなかばならぬに市人の虫うりありくこゑきこゆなり

つはものはいかに暑さを凌ぐらむ水にともしといふところにて

夕月の影にかぞへし莟より多く咲きけり朝がほの花

薄霧のなびくかきねに朝顔の花見えそめて夜はあけにけり

ゆく人を妨げざらばたちとまり見てましものを野辺の秋萩

秋の野のちぐさの花にくらぶれば染めなす色は限りありけり

園守やひとりみるらむ昔わが集めし庭の秋草の花

あきの野のちぐさの花の色々を声にうつして虫ぞなくなる

ふじの嶺に初雪みえてうちひさす都も寒き秋風ぞ吹く

深からぬあきだに物のさびしきは雨に暮行くゆふべなりけり

守る人の住むばかりなる故郷のあきのゆふべやさびしかるらむ

いにしへの人の功をかたりいでぬもの静かなる秋の長夜に

八束穂のたりほのはつほ新嘗にさゝげまつると刈りはじむらむ

たゝかひのにはに心をやりながらむかひふかしつ秋のよの月

秋はぎのさきかくしたる遣水の末こそみゆれ月の光に

殿守やひとり見るらむ玉くしげ箱根の海の秋の夜のつき

あたの船うちしりぞけていくさびと大海原の月やみるらむ

綿の実も露にしめりて山畑のあぜ道寒し秋のよの月

もろこしの荒野の末のありさまを思ひやりても月をみるかな

都にておもひしよりもおもしろしあがたの里の秋の夜の月

たびねする宿の軒端のあさければ枕の上に月のさし来る

霧たちてさだかに見えず道のべにわれを迎ふるひとのおもわも

九重の庭の白梅たをらせて宴にもれし人におくらむ

こき薄き色をまじへてもみぢ葉はそめはてぬ間ぞ盛なりける

大堰川ゐせきの波にうつろひてちらぬ紅葉の影ぞたゞよふ

西山は緑に晴れて桂川すみたる水に秋風ぞ吹く

てる月の桂の里のなり所秋こそゆきて見まくほしけれ

園のうちにうゑたる稲も色づきぬ里人いまか山田刈るらむ

あがたもる人に問ひみむ民くさにかゝる恵の露はいかにと

神垣に使をたてゝ豊年の秋の初穂を捧げつるかな

すめ神にはつほさゝげて国民と共に年ある秋を祝はむ

はりまがた舞子の浜に旅寐して見し夜こひしき月の影かな

ものゝふの野辺のかりふしいかにぞと思ひやらるゝよはの霜かな

朝日さす堤にいでゝ水鳥は霜にぬれたる翅ほすらし

ふる雨は霙になりて暮渡る入江に寒き水鳥の声

ふりつもる雪のあしたも司人まゐ来る時はたがへざりけり

まつり事いよ/\しげくなりにけり年の終のちかづきしより

ちはやぶる神のおましをはじめにて今年の塵を払はせてけり

いたでおふ人のみとりに心せよにはかに風のさむくなりぬる

いたでおふ人いかならむさらぬだにさみだれどきはいぶせきものを

おほづゝをうちはなちつつ進むらむ焼くがごとくも照りわたる日に

時雨ふる頃ともなりぬいくさ人暑さいかにと思ひやるまに

しぐれして寒き朝かな軍人すゝむ山路は雪やふるらむ

寐覚してまづこそ思へつはもののたむろの寒さいかゞあらむと

はしゐしてはからずときをうつしけりやり水きよきおばしまのもとに

おもふこと多きことしも大ぞらの月にむかへばなぐさまれけり

たたかひのにはに心をやりながらむかひふかしぬ秋の夜の月

月かげもしづごころなくみゆるかな雲にあらはれくもにかくれて

あたなみをうちしりぞけていくさびと大海原の月やみるらむ

月夜にはかげをかくしていくさびと仇の立ちどをさがしみるらむ

ひとめみし野山のけしきうかぶかなすみまさりゆく月の光に

おもふことなき秋ならばさやかなる月の遊びもなすべきものを

照る月にほりべをさしてとぶ雁のかげもうつれり庭のまさごぢ

九重の庭の白菊たをらせて宴にもれし人におくらむ

おきわたすあしたの霜やとけぬらむおもりてみゆる菊の下露

ともしびをまがきにかけてまれびとに夜もみせけり菊のさかりを

山畑の綿の実しろくみゆるかな黄菊の花のにほふかたへに

戦ひのにはにたつ身もわが庭の菊さくころとおもひいづらむ

神垣に使ひをたてて豊年の秋の初穂をささげつるかな

豊年の初穂ささげてあまてらす神のみたまを祭るけふかな

ものみなのかわく日よりの秋風にのきばの萩のおとさやかなり

住みすてしやどの築土のあれまより茂る薄のあらはれにけり

そのもりやひとりみるらむ昔わがあつめし庭の秋草のはな

宵のまはことしげくしてきかざりき庭にあまりてなく虫のねを

池のうちにみちてみえにしはちす葉もなかばやぶれて秋風ぞふく

いくさびとぬるまもなくてあかすらむさむくなりゆく秋の夜長を

いにしへの人のいさををかたりいでぬものしづかなる秋の夜長に

あしひきの山田のいねの露のうへにきらめきわたる宵のいなづま

こまひきし昔がたりをとしどしにききし翁もなくなりにけり

あさみどり澄みわたりたる大空の広きをおのが心ともがな

久方のあまつ空にも浮雲のまよはぬ日こそすくなかりけれ

ゆふやけの雲うすらぎてたゞひとつあらはれそめし星の影かな

事有るにつけていよ/\思ふかな民のかまどの煙いかにと

つもりなば払ふ方なくなりぬべし塵ばかりなる事とおもへど

ねざめせしこの暁のこゝろもてしづかにものを思ひ定めむ

起き出でゝ思ふ事なきあしたこそをさな心にひとしかりけれ

産みなさぬものなしといふあらがねのつちはこの世の母にぞありけれ

おほぞらにそびえて見ゆろたかねにも登ればのぼる道はありける

花紅葉なほうゑそへよ里人の遊び処と野はなりにけり

遠くとも人のゆくべき道ゆかば危き事はあらじとぞ思ふ

ひらくれば開くるまゝに思ふかなあらぬ道にや人のいらむと

いはがねのこゞしき山をてる日にもたゆまずこゆるわが軍人

今もなほふみわけがたき深山路を開きし人の昔をぞ思ふ

天地のなしのまゝなるいはがねの姿はことににおもしろきかな

岩がねにせかれざりせば滝つ瀬の水のひゞきも世にはきこえじ

さゞれさへゆくこゝちして山川のあさせの水の早くもあるかな

仇波のしづまりはてゝ四方のうみのどかにならむ世をいのるかな

つかさどる人の力によりてこそかさご島もひらけゆきけれ

岩が根によせて砕くる荒波のしぶきにくもるいそのまつ原

ちはやぶる神の御代よりうけつげる国をおろそかに守るべしやは

山城のみやこいかにと春秋の花に紅葉におもひやりつゝ

さくらさく春なほ寒しみよし野の吉野の宮の昔おもへば

故郷の庭の老松たらちねのみおやの御代の昔かたらへ

たらちねのみおやのましゝ故郷の都はことにこひしかりけり

をさなくて住みし昔のありさまを折にふれては思いでつゝ

しづがすむわらやのさまを見てぞ思ふ雨風あらき時はいかにと

なか/\にみやびすくなしあまりにも作りすぎたる庭のけしきは

我園にしげりあひけり外国の草木の苗もおほしたつれば

くむ人もたえし野中のふるゐにはかへりて清き水やわくらむ

あとさきに人をともなふ旅ながらくれゆく道はさびしかりけり

故郷を遠くはなれてゆく人はともなふひとや力なるらむ

しづのをが声をまぢかくきゝてけり畑つゞきなる野べにやどりて

あがた人かはる/゛\もつどひ来て旅のやかたは賑ひにけり

里人も花火うちあげて旅寐するわがつれ/゛\を慰めにけり

あしひきの山下庵はしづかにてかはぬ小鳥も庭になれつゝ

おのづからおひたる竹をへだてにて垣根もゆはぬ小山田のさと

子らは皆いくさのにはにいではてゝ翁やひとり山田もるらむ

いぶせしと思ふなかにもえらびなばくすりとならむ草もあるべし

むらぎもの心むなしき呉竹はしらず/\や千年へぬらむ

やしなひてなほも齢をたもたせむ庭にちよふる松のひともと

苔むせるいはねの松の万代もうごきなき世は神ぞもるらむ

ふる里の老木の松はをさなくてみし世ながらの緑なりけり

籠のうちにさへづる鳥の声きけば放たまほしく思ひなりぬる

ひなづるは親とひとしくなりにけり巣だちし年は遠からねども

足なみのかはるをみればのる人のこゝろを早くこまはしるらむ

あしひきの山田のすゑのなはて道ひきつゞきても牛のゆくみゆ

身にあまる重荷車をひきながらいそがぬ牛はつまづかずして

つはもののかてもまぐさも運ぶらむ牛も軍の道につかへて

わたなかに潜めるたつも大空の雲をおこさむ時はあるものを

国のためながゝれと思ふ老人にしなぬ薬をさづけてしがな

いかならむ薬あたへて国のためいたでおひたる人をすくはむ

心ある人のいさめのことのはは病なき身の薬なりけり

筆とりてをしへし人の昔まで思ひうかぶる水茎のあと

文字をのみよみならひつゝ読む書の心をえたる人ぞすくなき

いまの世におもひくらべていそのかみふりにしふみを読むぞたのしき

わがためにいひつることも思ひいでぬ昔の人のふみをよみつゝ

しばらくはをさなごころにかへりけりよみならひにしふみをひらきて

まのあたりきくことおほくなれる身は昔のふみをよむひまぞなき

ともしびをかかげさせてはさらにまた昼みしふみをよみかへしつつ

ともしびをとくかかげてよつかさびとおこせしふみをよみあまりけり

天地もうごかすばかり言の葉のまことの道をきはめてしがな

思ふことありのまに/\つらぬるがいとまなき世のなぐさめにして

ときにつけ折にふれつゝ思ふことのぶればやがて歌とこそなれ

世の中にことあるときはみな人もまことの歌をよみいでにけり

世の人のおなじおもひもしきしまの歌にてきけばあはれまされり

もののふのいさむ心はいくさうたうたふ声にもきゝしられけり

もののふのこゑさはやかにかちいくさことほぐうたをうたひけるかな

ますらをに旗をさづけていのるかな日の本の名をかゞやかすべく

くにのためふるひし筆の命毛のあとこそのこれ万代までに

ひとひらの地図ひらきみてつはものゝすゝむ山路を思ひやるかな

しきしまの大和心をみがゝずば剣おぶともかひなからまし

あらはさむときはきにけりますらをがとぎし剣の清き光を

打ちさしてまもりながらにほどふるはいかなる手をか思ひめぐらす

石上ふるきてぶりぞなつかしきしらぶる琴のこゑをきくにも

あしはらの国とまさむとおもふにも青人草ぞたからなりける

つたへきて国のたからとなりにけり聖のみよのみことのりぶみ

つたへ来し八咫のかがみにあまてらす神のみたまはうつりますらむ

国といふくにのかゞみとなるばかりみがけますらを大和だましひ

くもりなく世をたもてとて千早ぶる神のさづけし鏡なるらむ

榊葉にかくる鏡をかゞみにて人もこゝろをみがけとぞ思ふ

しづかにも世のをさまりてよろこびの盃あげむ時ぞまたるゝ

あらがねの土にうもれし古瓦あらはるる世もあればありけり

あけぬればまづ着がへけりまつりごときくべきにはにたたむころもを

うちいでむかたをはかりてとほめがねとりてみるらむわがいくさ人

いまここに人のゐるかとおもふまでこめたるこゑのさやかなるかな

ともしびのかげにうつしてみつるかな千さとのほかの山も海べも

末とほくかゝげさせてむ国のため命をすてし人のすがたを

はりがねのたよりののみこそまたれけれ軍のにはを思ひやるにも

大づつをのせし車やはこぶらむかちゆくだにもたへぬ山路を

笛の音の聞こえもあへずまがなみちいでし車はとほざかりけり

たか波をけたてゝはしるいくさぶねいかなる仇かくだかざるべき

なみ遠くてらすともし火かゝげつゝ仇まもるらむわがいくさぶね

あきつしまくにのかためと富士浅間名におふふねのつらなりにけり

高殿のまどのうちくらくなりにけり富士のたかねをうちまもるまに

里人のかへる野川のわたし船こまをものせて漕ぎいでにけり

浦ちかくこぎかへりきぬ鳥よりもちひさくみえし沖のつりふね

品川の沖にむかひていくさぶね進む波路を思ひやるかな

家なしと思ふかたにもともし火の影みえそめて日はくれにけり

よもの海みなはらからと思ふ世になど波風はたちさわぐらむ

かみつよの聖のみよのあとゝめてわが葦原の国はをさめむ

まつりごとたゞしき国といはれなむもゝのつかさよちから尽して

山のおく島のはてまで尋ねみむ世にしられざる人もありやと

照るにつけくもるにつけて思ふかなわが民草のうへはいかにと

民草のうへやすかれといのる世に思はぬことのおこりけるかな

よの中はたかきいやしきほど/\に身を尽すこそつとめなりけれ

たゝかひの道にはたゝぬ国民もちゞに心をくだくころかな

国をおもふみちにふたつはなかりけり軍の場にたつもたゝぬも

おほづゝの響きはたえて四方のうみよろこびの声いつかきこえむ

うらやすき世にもおもひはあるものをくに民いかに身をつくすらむ

あたの城をうちまもりつついねざらむ人をぞおもふ長き夜すがら

夏の夜もねざめがちにてあかしけるよのためおもふことおほくして

をしへ草おひしげらせよ新高の山のふもともひらけゆく世に

むらぎものこころをたねのをしへ草おひしげらせよ大和しまねに

みがきえむことぞかたかるあらたまの光いづべきものとしれども

くにのため身をつくしたる老い人が心をやすくするよしもがな

をちこちとたづねさせても百年のよはひをこえし人ぞすくなき

たたかひのにはにはたたぬ老い人もつくす心はひとつなりけり

老い人が昔がたりにうれしきはみおやのことをきくにぞありける

民草のうへに心をそゝぐかな雨しづかなるよはの寝覚に

白雲のよそに求むな世の人のまことの道ぞしきしまの道

なにごとに思ひ入るとも人はたゞまことの道をふむべかりけり

かりそめの言の葉草もともすればものの根ざしとなる世なりけり

きずなきはすくなかりけり世の中にもてはやさるゝ玉といへども

かくばかりことしげき世にたへぬべき人を得たるがうれしかりけり

世の中の事ある時にあひてこそひとの力はあらはれにけれ

ほど/\にたつべき道もあるものを老いにけりとて身をなかこちそ

世の中のつとめをさくる老い人も国のためにはもの思ふらむ

くりかへす昔がたりにおのづからいさめことばのまじる老い人

ひとりたつ身になりぬともおほしたてし親の恵をわすれざらなむ

国の為たふれし人を惜しむにも思ふはおやのこゝろなりけり

みどり子は人みしるまでなりにけりうまれいでしはきのふと思ふに

おもふことつくろふこともまだしらぬをさな心のうつくしきかな

たびねしてしばしみぬまにをさな子はものいふばかりなりにけるかな

竹馬の昔の友は老いの坂こえてののちもむつまじげなり

いたでおふ人もほどなくいゆときくくすしのわざのひらけゆく世は

家の風ふきそはむ世もみゆるかなつらなる枝の茂りあひつゝ

戦ひのいとまある日はますらをも都の友のうへやいふらむ

ほど/\にこゝろをつくす国民のちからぞやがてわが力なる

山田もるしづが心はやすからじ種おろすより刈りあぐるまで

むらぎもの心のたねのをしへ草おひしげらせよ大和しまねに

事しげき世にたゝぬまに人は皆まなびの道に励めとぞ思ふ

いくさ人すすみ行くらむあかつきとおもへば早くめをさましけり

ものまなぶ窓をはなれていまよりは国のつとめにたゝむとすらむ

今はとて学のみちにおこたるなゆるしの文をえたるわらはべ

いさみたつ心のこまもひかへけりあとよりつゞく老人のため

ことしあらば軍のみちにたゝむ身は野をも山をもふみならさなむ

ちかひたるおのが心をしをりにて誠の道をわけつくしてむ

しきしまの大和心のをゝしさはことある時ぞあらはれにける

山をぬく人のちからも敷島の大和心ぞもとゐなるべき

かざらむと思はざりせばなか/\にうるはしからむ人のこゝろは

わがこゝろ千里の道をいつこえて軍の場をゆめにみつらむ

いくさ人すゝむ山路をまのあたり見しは仮寐のゆめにぞありける

おもふこと多かる頃のならひとて常にはみざる夢をみしかな

今も世にあらばと思ふ人をしもこの暁の夢に見しかな

たたかひのにはのおとづれ聞きたるはわが思ひ寝のゆめにぞありける

山を抜くみいくさ人のありさまもわがおもひねの夢にみえつつ

いくさ人まもるところに行きたりとみしは夢にてありけるものを

さ夜ふかくゆめをさましてさらにまたいくさのうへをおもひつづけぬ

をさなごが遊ぶをみてもわれをかくおほしたてたる人をしぞおもふ

ゆめとのみすぎし昔をかたらへばはかなきこともこひしかりけり

天つかみくにつやしろをまつるかなをさまらむ世をまもりませとて

守るらむ神の力のあらはれてかたきあたをもうちくだきけり

くにのため身をかへりみぬますらをに神も力をそへざらめやは

うけつぎし国の柱のうごきなく栄えゆく世をなほいのるかな

年々に民の力のまさる世をみるがわがよのたのしみにして

ちはやぶる神のひらきしわがくにのみちはいよいよただしかりけり

かれいひにむかはむころも忘れけりいくさがたりに時をうつして

のこしおく書をしみればいにしへの人の声をもきくこゝちして

たらちねのみおやの御代の昔をもことある毎に語りいでつゝ

あらたまる世をいかにぞと思ひしはをさなかりつる昔なりけり

いにしへの人のいひてしかねごとをおもひぞいづるをりにふれては

たらちねのみおやの御代につかへにし人も大かたなくなりにけり

思ふことつらぬかむ世はいつならむ射る矢のごとくすぐる月日に

神垣に朝まゐりしていのるかな国と民とのやすからむ世を

国民はひとつ心にまもりけり遠つみおやの神のをしへを

かみかぜの伊勢の内外のみやばしら動かぬ国のしづめにぞたつ

ちはやぶる神の御代よりひとすぢの道をふむこそうれしかりけれ

かしの実のひとつ心に万民まもるがうれし蘆原のくに

橿原の宮のおきてにもとづきてわが日本の国をたもたむ

国のためあたなす仇はくだくともいつくしむべき事な忘れそ

ことのはにあまる誠はおのづから人のおもわにあらはれにけり

世の中の人の司となる人の身のおこなひよたゞしからなむ

思ふこと貫かむ世をまつほどの月日は長きものにぞありける

国のため身をも心もくだきぬる人のいさををたづねもらすな

うつせみの世のためすゝむ軍には神も力をそへざらめやは

いかならむ事にあひてもたわまぬはわがしきしまの大和だましひ

戦ひのにはにもたゝであた波に沈みし人の惜しくもあるかな

くにの為身をかへりみぬますらをゝあまたえにけりこの時にしも

夢さめてまづこそ思へ軍人むかひしかたのたよりいかにと

いくさ人つくす力のあらはれてけふもすゝみしたよりをぞきく

おのが身にいたでおへるもしらずしてすゝみも行くかわが軍びと

たゝかひのにはゝいかにと思ふかないなゝく駒の声をきくにも

仇まもる船をいかにとおもふかな青海原を見るにつけても

戦ひのにはのおとづれいかにぞとねやにも入らずまちにこそまて

つばらにもしらするふみにつはものゝ勇む姿も見るこゝちして

とる筆はかぎりありけり使してとはせてを見むたゝかひのには

つかひせし人のかへるをまちつけていくさのにはのことをこそ問へ

いくさ人ちからつくしゝかひありて仇もなかばゝまつろひにけり

石だゝみかたきとりでもいくさ人身を捨てゝこそうち砕きけれ

ひさしくもいくさのにはにたつひとは家なる親をさぞ思ふらむ

国の為いくさのにはにたつ人に仇なすやまひ防ぎてしがな

国のためいくさのにはにたつひとのやまひのあたをふせぎてしがな

くにのためたふれし人をきくたびにおやの心ぞおもひやらるる

ひさかたのそらには雲もまよはぬになどみえざらむ富士のとほ山

年へなば国のちからとなりぬべき人をおほくも失ひにけり

たゝかひに身をすつる人多きかな老いたる親を家にのこして

はからずも夜をふかしけりくにのため命をすてし人をかぞへて

港江に万代よばふ声すなりいさをゝつみし船やいりくる

いにしへの御代の教へにもとづきてひらけゆく世にたたむとぞ思ふ

かぎりなき世にのこさむと国の為たふれし人の名をぞとゞむる

世の中に事あるときは聞きなれし昔がたりもことに身にしむ

ますらをにはたてさづけておもふかな日の本の名をかがやかすべく

たたかひのにははいかにとおもふかないななく駒の声をきくにも

くにのためたふれし人をおもひつつねたるよの夜のゆめにみしかな

いくさびと力つくししかひありてあたもなかばはまつろひにけり

老いぬればふでのはこびもはかどらじものかきとめむ年たけぬまに

すすみゆくいくさのにはのたよりのみ寝るがうちにも待たれけるかな

戦ひのにはにたふれしますらをの魂はいくさをなほ守るらむ

すすむべき時をはかりて進まずば危うき道にいりもこそすれ

よとゝもに語りつたへよ国のため命をすてし人のいさをを

くにのため心も身をもくだきつる人のいさををたづねもらすな

思ふことつらぬきはてゝ国民の心やすめむときぞ待たるゝ

いかにぞとおもひしことはさもあらで思はぬことをきく世なりけり

野も山もさびしかるらむ花紅葉みつゝ遊ばむ年にしあらねば

ちはやぶる神の心にかなふらむわが国民のつくすまことは

なりはひはよしかはるとも国民の同じこゝろに世を守らなむ

国民のひとつごゝろにつかふるもみおやの神のみめぐみにして

身をまもる道はひとすぢ位山たかきいやしきしなはあれども

ぬけいでしふしを見せなむいやましに竹のそのふのしげりあひつゝ

あらたまる事の始めにあひましゝみおやのみよを思ひやるかな

いちはやく進まむよりも怠るなまなびの道にたてるわらはべ

家富みてあかぬことなき身なりとも人のつとめにおこたるなゆめ

いそのかみ古きためしをたづねつゝ新しき世のこともさだめむ

いにしへの御代の教にもとづきてひらけゆく世にたゝむとぞ思ふ

さわがしき風につけても外国にいでゝ世渡る民をこそおもへ

あがたみにやりてし人のものがたり今日こそきかめいとままちえて

をちこちの県守る人つどひけり民のなりはひとはせてを見む

さま/゛\のうきふしをへて呉竹のよにすぐれたる人とこそなれ

ことしげき世にはあれども国民を教ふる道に心たゆむな

使してとはせてをみむ山里にすめる老人さびしからむを

わけばやと思ひ入りぬる道にしも高きしをりのみえそめにけり

しほどきになりにけらしも浜どのゝかきね近くも波のおとする

万代のこゑさわやかにかちいくさことほぐ民のこゑきこゆなり

ここちよく空うちはれて海原も山もさやかにみゆるけふかな

かねの網はりしかきをもうちやぶり速くもすすむわがいくさ人

いさましくいでたちぬらむいくさ人みおくるこゑのとほくきこゆる

いくさびとつくす力のあらはれてけふもすすみしたよりをぞきく

寝覚めしてまづこそ思へつはもののたむろの寒さいかがあらむと

ますらをがやたけこごろをさきだてて山もあら野もすすみゆくらむ

まつりごといでてきかましつかさびとまゐらむ時にはやなりにけり

いさましく進みすすみてくにのためたふれし人のおほくもあるかな

かなぢ行く車のおとぞひびくなるつはものいまか乗りていづらむ

ことありし昔の御代につかへける人のいさをもおもひやりつつ

ことしげき世にもありけり言の葉のまことの道をわくるいとまは

いささかのゆきちがひより人ごころへだつるなかとなる世なりけり

青山のひろ野にいでていくさびと進むけしきをまのあたりみる

たたかひによものくにたみいとまなきをいかで今年はゆたかならなむ

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