日蓮宗やら頼山陽やら本居宣長の弟子やらいろんなとこに学んでいるのだな。
基本的には裕福な家庭の子ということか。
一瞬、石川啄木風かと見えたが、生活苦からくるものではない。
ある種の屈折した心理からきているのは確かだが、
別に苦労人というのではなく、
どちらかといえば軽率な感じもある。
渾然としてるわな。
有名な連作のあれとか、えびすの太刀は弱い剣とか、
工場の労働者の歌とかは、
あまり感心しないと思った。
妻とともに山に籠もって国学と詠歌の半農半学(?)の生活に移った辺りの歌がいちばんみずみずしくておもしろいようだ。
妻が山の家に蛇が出るとか嵐が怖いとか泥棒に入られたらいやだとかそういったことなどを歌に詠んでいるようなのが良い。
他はまあ普通。
国士風の歌は、ぱっとしない。
この歌人が明治時代に「近代短歌のさきがけ」などと持ち上げられていく過程がなんとなく想像できる。
> 夕けぶり今日はけふのみ立てておけ明日の薪はあす取りてこむ
これはひどい歌。口語調。
> まれに来てすがる小鳥のちからにもひしがれぬべく見ゆる若竹
おもしろい。
> たてがみをとらへまたがり裸馬を吾妻男のあらなづけする
ややおもしろい。五七調が多いよね。
> うつろひて南にかかる日のかげになまがわきする花の上の露
どうということはないが「なまがわき」というのが珍しい。
> すくすくと生ひたつ麦に腹すりて燕飛びくる春の山はた
> とくとくと垂りくる酒のなりひさごうれしき音をさするものかな
> 一人だに我とひとしき心なる人に遇ひ得でこの世すぐらむ
> 賤どちの夜もの語りのありさまを篁(たかむら)ごしに見するともし火
源義家朝臣
> 年を経し糸のみだれも君が手によりて治めしひむがしの国
少しおもしろい。
> すずり石きしろふ音を友にして歌かきつけて今日もひぐらし
少しおもしろい。
欲
> くれなゐに身の染まるまで血吸ふ蚊のはてはおのづと落ちて飛び得ず
ふーむ。
> 小山田や苗代青むうは水に風のまきたる花もまじれり
瓜
> うりばたけ一つ見いでしはやなりをよべとられけり守(も)るかひもなく
ひどい歌だなこりゃ。
どうやら山の中に麦やら瓜やらを育てて生計を立てたと思われるな。
苺
> 胸毛おひてむくつけからむをのこにはくはすべしとも思ほえぬかな
これもひどい。
愛
> 黄なる口あく限りあけて鳴く雛に心くるはす親燕かな
ふむ。