安永四年

宣長

> もののふのたけき心も咲く花の色にやはらぐ春の木のもと

武士の猛き心と桜の花は違うと言っている。

> 春の日の長きを花の心にて散ること知らぬ桜ともがな

> 待ちえても心にまかす花ならで見る日すくなき山桜かな

花は心のままにならないと言っている。

> 春の日を長きものとは山桜花見ぬ人の言ひやそめけむ

> 我が背子は来ても見てしか花ぐはし庭の桜は今盛りなり

> 桜咲く片山岸のとこ岩のつねにもがもな花の盛りは

> みよし野のこれもうきよの色ながらえもいとはれぬ山桜かな

> 憂しつらし雨よ嵐よいくほどもあらぬさくらの花の盛りに

> 白雪のふりぬる身にも春の来て心は花に若返りつつ

> 日暮らしに折りてかざして遊べども飽かぬは花の色香なりけり

> 世の人はあだなりとこそ思ふらめ花に染めたる我が心をも

> 咲きしより日ごとにかれず見てもなほ花には飽かぬ我が心かな

> さくら花めづる心の色はなほ盛り過ぎてもさかりなりけり

> いかにせむ花にうかるるこの頃の心のはてよ嵐吹きなば

> 山桜花はあだなる色ながらめづる心ぞいつもかはらぬ

> 吹く風もしづかなる世に思ふことなくて花見る春のもろ人

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