濹東綺譚

わりとひまだったので『濹東綺譚』を一気読みしてみた。
なんとも読後感の悪い話。
永井荷風のエリート意識が鼻につく。

> 何言ってやんでい、溝っ蚊女郎。

の辺りの溝臭い暑苦しい蚊のうるさそうな感じとか、

> 「ええ。それはおきまりの御規則通りだわ。」と笑いながら出した手の平を引っ込まさず、そのまま差し出している。

などは面白いのだが、

> 紙入れには・・・三四百円の現金が入れてあった。巡査は驚いたらしく、俄にわたくしの事を資産家とよび、「こんな所は君みたような資産家が来るところじゃない。早く帰りたまえ・・・」

などといったあたりを読まされるとがっかりする。
お雪と別れる理由なども、どうもいらいらする。
と思う人はいないのだろうか。

そうか、226事件のあった年なのだな。

* 1月30日 下女政江失踪。「つれづれ余が帰朝以来馴染を重ねた女を列挙する」として 16人の名と概略を記す。
* 2月26日 2.26事件勃発。
* 4月10日 「日本人は自分の気に入らぬことがあれば、直に凶器を持って人を殺しおのれも死することを名誉となせるが如し」
* 5月16日「玉の井見物の記」
* 7月3日 浅草公園散歩。 
* 9月7日 夜墨田公園を歩く。『濹東綺譚』の主人公お雪に逢う。年は 24,5、上州なまり(茨城県下館の芸妓らしき)があり丸顔で器量よし。こんなところで稼がずともと思われる。女は小窓に寄りかかり客を呼び入れる。「窓の女」の家の内部略図。 
* 9月19日 向島から徒歩で玉の井にゆく。長火鉢囲みて身の上話を聞いて帰る。何回も玉の井に通う。この日墨東奇譚起稿す。 
* 10月1日 玉の井のいつもの家に行く。 
* 10月4日 玉の井の家に行く。 
* 10月7日 終日執筆、題名『濹東綺譚』となす。 
* 10月20日 玉の井のいつもの家に行く。 
* 10月25日『濹東綺譚』脱稿。

ふーん。わずか一ヶ月余りか。
下女が居なくなり、かつなじみを重ねた女を列挙、その後、というのがなんかそれっぽい。
下女も妾も持ちたくない、懲りた、というわけなのだろうけど。
作中お雪は栃木県宇都宮の出ということになっているから茨城の下館とはちと違う。

思うに、なぜこの『濹東綺譚』がもてはやされるかといえば、やはり226事件の世相と退廃的な雰囲気が好対照だからなのではなかろうか。
小説単体を取り出してみて、そんなに傑作だと言えようか。

作者贅言をのぞけば、およそ原稿用紙換算200枚くらいの長さだろうか。ふーむ。

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