土蜘蛛という能は安土桃山時代に初めて演目に現れたというから能楽の中でそんなに古いものではない。神楽や歌舞伎にもあるから、どうやら、安土桃山から江戸初期にかけて、民衆芸能として、つまり僧侶や公家とは関係のないところから、急に流行り出したもののように見える。
また、手から蜘蛛の糸を投げるという演出はもっと遅くて明治時代になって加わったものであるという。私たちが能楽としてありがたがっている土蜘蛛は、実は案外歴史の浅いものなのだ。そして多くの能楽とは違い、その見た目の派手さで人気があるのだろう。
しかしながら、土蜘蛛とは本来、大和朝廷にまつろわぬ、稲作も行わない山岳民族で、縄文人の子孫、サンカのようなものであるとも考えられていて、もしかするとそうした山伏の山岳信仰やサンカにおいて、伝承されてきたものであったかもしれない。
さらに想像を働かせるならば、もともとは、土蜘蛛が大和朝廷から派遣されてきた武士を返り討ちにする舞曲であったかもしれない。
しかしながら一方で、この土蜘蛛という話は、日本古来の説話というよりも、ギルガメッシュ叙事詩における都市神ギルガメッシュと山岳神フンババの戦いと、ほぼ同じ性格のものであるようにも見える。もっと言えば、土蜘蛛は遠く西アジアから日本に伝わったギルガメッシュ伝説なのかもしれない。桃太郎ももとはと言えば西アジアに由来する英雄流浪譚であるように。桃太郎もまた室町末期に成立したと言われているから、もしかすると日本に渡来したキリシタンから伝わった話なのかもしれない。
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