岩の井

某房総料理の店で千葉の地酒というので銘柄を聞いたら「岩の井」という、その酒を飲んだのだが、私が飲んだのはラインナップの中でも一番安い、山廃仕込辛口、一升瓶で2000円くらいのものであったと思う。

岩瀬酒造のサイトによれば

カルシウムやマグネシウムが多いと養分が多く発酵が旺盛します。硬度の高い水を使用し「山廃酛」で仕込みをすることで旨味のある、濃醇で酸味のしっかりしたお酒になります。

とのことで、確かに、熱燗にしても甘みをほとんど感じず、しかしきちんと味はあって、しかもなんだかピリピリ刺激がするのは酸味であったのかもしれない。

この酒はたぶん特に極端なのだろうが、この酒を飲んでしまうと菊正宗ですら甘く感じてしまう。もう少し高い酒を頼めばもっとまろやかなのだろう、と思った。

それで小林秀雄は毎晩、菊正宗の熱燗を二合しか飲まなかった、

家にいて、客のない日は、夕方六時からが晩酌である。一日二合と決めていて、その二合を李朝の刷目(はけめ)徳利や日本の桃山時代の備前徳利、李朝の井戸盃や桃山時代の黄瀬戸盃など、何百年にもわたって使いこまれてきた古い器でゆっくりと飲む。(小林先生の酒 著者: 池田雅延

というような話をいろんな人にしたのだが、いや、したかったのだが、誰も小林秀雄を知らない。それあなたの友達ですか、と言われた。だからそれ以上話が続かなかった。

小林秀雄って誰かということをどう説明して良いか迷ったのだが、彼は結局、それまで、ものを書くついでに文芸批評もしたというような作家はいたかもしれないが、日本で作品を書かずに批評だけで飯を食っていけた最初の人であり、昭和の終わりくらいまでは生きていた人だから、誰もが知っているものだと思っていたが、今の令和になってみれば、ほとんどの人が最初から知らないか、忘れてしまっているのだ。

岡田斗司夫やひろゆきなんか今の評論家などは元をたどればみんな小林秀雄にたどりつくと思うのだが、その大元の小林秀雄をみんな知らない。いや、ひろゆきはともかく岡田斗司夫を知っているのは一部の人だけだろうか。

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