亦不知其所終 田中久三 aka 田中紀峰のサイト。

明治41年 (55才)

ちりがたになりにし梅のかたはらに今よりさかむ花もみえつつ

まつりごといとまある日にうれしくも窓のと近く鶯のなく

あしたのみ来てはなくなり鶯もとはむ所の多くやあるらむ

春さむみ雪はしば/\かゝれども咲くべき時と梅はさきけり

閨の戸をあけてもくらき春雨に夢のなごりのさめがたきかな

ぬばたまの夢にも花をみつるこそおもひなき世の春にはありけれ

浜殿の園にさくらをうゑそへつ内外あまたの人にみすべく

をさなくもまたぬ春なし桜花さかでやむべきものならなくに

咲く花をやどにのこしてしづのをは長き日ぐらし小田にたつらむ

をぐるまのすぐるまに/\花をみて今日行く道は遠しと思はず

春風の吹かぬあしたに散る花もこかげにのみはとまらざりけり

桜さく野みち山みちゆく旅はあそびにいでしこゝちこそすれ

ひとたびは見むよしもがな名ぐはしき吉野の山の花のさかりを

千年までおいせざるべき呉竹も生ひたつほどは時のまにして

ほとゝぎすおもひもかけぬ一声に月なきよはの空を見しかな

梅すもも実を結ぶらし夏蔭の庭いやましにくらくなりゆく

日にやけしみみずを見ればあらがねの土のしたまで照りとほるらむ

とのゐびとかたらふ声もたえはてゝふけゆくよはに水鶏なくなり

若竹の葉末にすがる露のまにすゞしき月の影ふけにけり

たかゞやの風にかたよるひま/\にひとすぢみゆる水のすゞしさ

身のたけにおよぶ夏草かきわけていちごとるなり里のうなゐこ

清水わくこかげにいでゝすゞむこそわがよの夏のいとまなりけれ

朝のまにもの学ばせよをさな子もひるは暑さにうみはてぬべし

あかねさす夕日のかげはきえはてぬすゞみの殿にいざうつりなむ

江の島にやどりさだめてわらはべも相模の海のしほやあむらむ

重荷ひく車のおとぞきこゆなるてる日の暑さたへがたき日に

乗る駒のあぶみまでこそぬれにけれあさ露ふかき野路のかや原

さよふかく心しづめてきく時ぞむしの鳴くねはあはれなりける

浪のおと遠ざかり行くひきしほにむしのねたかし浜の松原

かりあげむ日をかぞへつゝ千町田の八束たり穂をしづはもるらむ

はやくより出でゝこそ待て宵々におそくなりゆく月を忘れて

をちこちに尾花なみよる影みえて月すむ野辺に秋風ぞふく

舟うけて昔あそびしふるさとの池にや月のひとりすむらむ

むちうたば紅葉の枝にふれぬべし駒をひかへむ岡ごえの道

老人があゆみゆくこそ哀なれいまだ払はぬ雪のなかみち

つかさ人あまたつどへて賑しく暮れゆく年のうたげをぞする

かぎりなく見ゆる広尾のすすき原市にまぢかき所ともなし

照る月の光にいまかかかるらむまぢかくなりぬ雲のひとむら

あすもまた日和としるく柿の実のいろづく庭に夕日さすなり

ながむればしたしまれけりひさかたの天つみそらははるかなれども

けふもまた夕べになりぬ司人すすめし文もよみはてぬまに

見るまゝに数そふものは大空につらなる星の影にぞありける

ともすればうきたちやすき世の人の心の塵をいかでしづめむ

世を守る神のみたまをあふぐかな朝ぎよめせし殿にいでつゝ

今日もまたゆふべになりぬ司人すゝめし書もよみはてぬまに

ぬばたまのよるこそ書はよむべけれあだし事には心うつさで

万代の国のしづめと大空にあふぐは富士のたかねなりけり

かなぢゆく車のうちに見つるかな昔わたりし瀬田の長橋

さかづきをまづとらせけり外つ国のたびにいでたつ人をいはひて

しばしとて国にあそびしまれ人もかへるわかれはをしくぞありける

なれもまた春のこころになりぬらむ鶯の音をまねぶあふむは

世に広くかたらふ時となりにけり国のはたてをかかげかはして

老い人がむかしがたりに聞きにけりわれはおぼえぬをさなあそびを

言の葉も学びかはしてはらからとかたみにむつぶ四方のくに人

おもひいづることのみおほしさまざまにかはりたる世を経にし身なれば

われとわが心をりをりかへりみよしらずしらずもまよふことあり

おのがじし好めるかたにみちびきておほしたてなむ幼子のとも

まつりごといでて聞きぬとおもひしは夢なりけりなにはとりの鳴く

ことしあらばわが力ともたのむべき人のをしくも老いにけるかな

ふねにあるもいましばしなりふるさとにちかき島山みえそめにけり

ともしびのかげこそみゆれわがふねは和田のみさきにちかづきぬらむ

ものゝふの野辺のたむろを思ふかな草のかりほに一夜やどりて

まうでむとおもふ社をよそに見てすぐる旅路のをしくもあるかな

谷川のおなじ流の水くみて鄰へだてぬみやまべのさと

ともしびのたかき処にみゆるかなかの山辺にも人はすむらむ

松の葉はいつのひまにかかはるらむ今ちるといふ時はあらぬを

家すこしあるかと見れば山道はまた杉村になりにけるかな

我園にやしなふ鶴のひとつがひ年はふれどもおいせざりけり

まへになりうしろになりて雛まもるたづの心のあはれなるかな

世のさまはいかゞあらむとかたつぶりをり/\家をいでゝ見るらむ

家々にひめし書庫(ふぐら)も開くらむまなびの道をひろくせむとて

千万の民のことばを年毎にすゝめさせても見るぞたのしき

まごゝろをうたひあげたる言の葉はひとたびきけば忘れざりけり

幼児にうたはれてこそ言の葉のしらべいよ/\たかくきこゆれ

身にはよしはかずなるとも剣太刀とぎな忘れそ大和心を

われもまたさらにみがゝむ曇なき人の心をかゞみにはして

千万の民の力をあつめなばいかなる業も成らむとぞ思ふ

国のため高きほまれを得し人の身をあやまたむことなくもがな

たゝかひの為に力をつくしつるたみの心をやすめてしがな

さま/゛\のことにあひにし老人の昔がたりぞ身にはしみける

いはけなく遊ぶ子どものさま見ればわれもをさなくなるこゝちして

したしみのかさなるまゝに外国の人もこゝろをへだてざりけり

国のため力つくさむわらはべを教ふる道ににこゝろたゆむな

まなびやに入りにし日よりうなゐ子がものいひさへもかはりけるかな

学びえて道のはかせとなる人もをしへのおやの恵わするな

すなほなる人のこゝろにくれたけのまがれる癖はいつかつくらむ

村雲にあらぬものから世の中の風にうきたつひと心かな

のこしおきしふみとりいでゝいさをある人の昔をしのぶ今日かな

なほざりに思ひしことも年をへておもひかへせばこひしかりけり

思ひいづることぞ多かるさま/゛\にかはりゆく世をへにし身なれば

葦原のみづほの国の万代もみだれぬ道は神ぞひらきし

つはものゝ戦ふさまを見るほどは風の寒さもおぼえざりけり

はる/゛\と見わたす沖の波路までつらなりけりなわがいくさ船

ものごとにうつればかはる世の中を心せばくはおもはざらなむ

わが心われとをり/\かへりみよしらず/\も迷ふことあり

事しあらばわが力ともたのむべき人のをしくも老いにけるかな

くろがねの的いし人もあるものをつらぬきとほせ大和だましひ

国の為つくさむ力ありながらたゝれずなりし人をしぞおもふ

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