或老人之歎歌一首並反歌四首

我が書きし ふみのかずかず 我が詠みし 歌のかずかず うつせみの うつし人にて あらむ間に 残しおかむとたくめども ときのまにまに いそとせは むなしくすぎて 身とともに 心も老いて あたらしき 思ひも出で来ず めづらしき ものも見出でず 名をのこす 人はさはにあれ かなしくも 我はさにあらで なにはえの うもれぎとなり 後の世の 人にわすられ いまさらに 何をか残さむ ことさらに 何をかうたはむ このうつし世に

反歌

うつし世に 見るべきものは すべて見つ 詠むべき歌も 詠みや果てつる

うつし世の 人はたのまじ ただ神と のちの人にぞ 歌は詠むべき

あきらけく をさまりし世の おほ君に 学びしならひ 忘るべしやは

しぬまでの よはひにかへて のこさまし わがかきしふみ わがよみしうた

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