必死剣鳥刺し

『必死剣鳥刺し』を見たのだが、美しい映画だが、おそらくは脚色に問題がある。
原作がこんなに間抜けなはずはない、と思うのだ。

まず、お家騒動というものはこのように起こるものではない。
家老の帯屋が主君を隠居させて世嗣を立てようとしたとして、
いくら帯屋が剣客であろうが、一人で城に日本刀をひっさげて乗り込むはずがない。
死ぬ気で諫めるというのならともかく、本気で主君を斬ろうとしているようにしか見えない。
あり得ないことだ。

また、お家騒動というものは頻繁に起きたことで、家老レベルならともかく、
徒党も組まずに、主人公の兼見三左エ門が義憤で側室を殺害するなどというのはかなり苦しい筋書きだと思う。
たとえ妻を亡くして死に所を探していたとしてもだ。
側室連子の横暴ぶりが殺害動機のように演出しているのはどうかと思う。
いずれにしても、兼美はごくまじめな目立たない武士だという設定では違和感がある。
かなり奇矯な性格だった、とするならばまだわかる。

それから、やくざの出入りであっても槍や長刀は使う。
まともな考証をしたやくざ映画ならそうする。
武士だからといって全員が日本刀で斬り合うということはあり得ないし、
大名ならば鉄砲ぐらいもっているだろう。
乱心者が出るとわかっているのであれば、鉄砲と槍を用意しておけば足りる話であり、
これもまた、日本刀どうしで斬り合いを演出するための間違いだ。

藤沢周平の原作を読んだわけではないので推測するしかないのだが、原作はこんなではなかっただろう。
ああいう派手な殺陣のシーンで盛り上げるためにこんなふうになったのに違いない。
里尾という亡き妻の姪との交情というのも、たぶん後付けのものだろう(まあ別に入れたけりゃ入れてもいいが)。

たとえば吉良邸討ち入りだって、ほんとに討ちとろうとするならばああいうふうに用意周到にやるものだ。

テレビドラマならともかく、キルビルじゃあるまいし、
まっとうな映画なら、日本刀だけの殺陣のシーンなんてものは作らないものだ。

私ならば、帯屋は、少数の手勢をつれて深夜に屋敷に侵入しようとすることにするだろう。
帯屋は家老なのだから、一部の内通者が手引きして、主君の寝所まで帯剣のまま入り込めるかもしれない。
それを察した兼美と帯屋の間で斬り合いが起きる、という筋立てなら無理がない。

そういう、映画にするため付け足したと思われる部分が気になってしかたない作品だ。
たぶん、売れる映画を作るためにそうしたのではない。
どうみても売れる映画を作ったようには見えない。
おそらく役者と、役者のファンのためにこのようなことをしたのだろう。
どうも今の日本映画は、どれもこれもそんなふうに、
芸能プロダクションと一部のファンが牛耳っているようなな気がしてならない。

兼美が帯屋を殺すとわかっていて、兼美をいかしておいたという設定も、かなり苦しい。
都合がよすぎる。
兼美を用心棒として飼っておいて、たまたま帯屋が乗り込んできて、彼を討ち取らせたあと、
兼美の乱心だと見せかけるために、兼美を殺した、
という手を思いついたというならまだ良い。
お家騒動はかならず幕府の処分を受けるので、隠そうとするのはわかる。

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