関心の無い時代

南北朝や室町時代が面白くて料理の仕方によればとても良いものができるのは間違いないが、
現代日本人がこの時代に興味を失って実に久しい。
室町音痴になってしまっている。
北条氏はせいぜい時宗までであり、足利氏は尊氏、義満、義政、あと関心が高いのは義昭くらいだろう。
一度そういう状態になってしまうと、人の関心を呼び覚ますまでの労力が半端ないことになる。
剣豪将軍として義輝を掘り起こした人がいてその努力は敬服するに値する。

で、北条氏末期の状態だけど、必ずしも、足利氏宗家支族が北条氏得宗家および支族よりも優勢になったからだとか、
足利氏の方が新田氏よりも優勢だったとか、両統分立がどうしたこうしたとか、
なんかいろいろ理屈は付けられるけど、
やはりどれが決定的というのではない。
そうやって疑い出すと承久の乱で北条氏が圧勝したのもわからんような気になってくる。

やはり、北条氏の治世が長くなって、北条氏や足利氏などが大きく育ちすぎて、人間関係が複雑になりすぎて、
宗家と分家の関係がぎくしゃくしはじめて、
宗家による独裁体制がうまく機能しなくなってきた。
そこへ皇統分立というのが口実になって内乱に発展した、ということだろう。
承久の乱にしても、固定化した身分や社会というものがうざくなったから起こったことではあるまいか。
後鳥羽院と北条氏の力関係というよりも。
権威と権力が未分化な社会から、軍事行政統治機構というものだけで存続しえるようになった画期的な事件だわな。
社会が少し進歩した証拠だ。

たとえば、鎌倉攻めでは最初に新田義貞が稲村ヶ崎の切り通しを破ったことになっている。
龍神が助けたはずがない。
たまたま新田に内通した北条方の武将がいて、切り通しを通してやったか、由比ヶ浜を守備するはずの艦船が無抵抗だったか、
とか、そんな事情だったのではなかろうか。

鎌倉と福原は良く似ていたが、それは、比較的狭小な天然の要害になっていたからだと思う。
それ以前に日本には城らしき城はなかった。
福原遷都は日宋貿易の都合というよりは、保元・平治の乱の反省に基づくものだ。
鎌倉に幕府を開いた理由もまた同じだろう。
中国式に町全体を城壁で囲うような労働力もなければ技術もないので、
比較的それに近い地形の場所を城塞都市にしようと思ったのではなかろうか。

鎌倉と福原はしかし同じような弱点があった。
町全体を守備するのは広すぎて、たとえ守りが堅くても「内通者が出たとき」「政治的に弱みがあるとき」対処できないのだ。
ある程度、守備側の人間関係が良好でないと守り切れない。
しかし、戦争中に人間関係に頼るのは不確定要素が大きすぎる。
基本的には中国の春秋戦国時代の城塞の攻防戦に近いものであろう。
城が落ちるのは、単に城の土木建築上の問題ではない。

だから、次第に山城や、もっと労働集約的で機能的な平城などになっていったのではなかろうか。
一ノ谷の合戦や鎌倉攻めで防御が破られたのはおそらくそんな理由だと思うのだ。

足利氏内部でのまとまりもなかったし足利氏がとびぬけて優勢だったわけでもなく、新田もすごく大したことあるわけではなく、
北条氏の残党も全然力を持っていた、義満による南北朝統一とか日明貿易というのも、
なんかすごいことのように言われているが多少調整能力があった程度だったようにも思われる。

たとえて言えば、室町時代というのは、主従関係がどろどろに解けてしまって、古代天皇制の中央集権から、
地方分権に完全に移行した時代だと言える。
天皇がいなければ国家のていをなさなかっただろう。
政治が乱れたようにみえるのはそのせいで、実は単なる無政府状態だった。特に関東など地方では。
天皇(と公家)が居たから国とか都というものが、政治的な実体は伴わないが、存在したのではないか。
そうしてみると、室町幕府を手本に作られた徳川幕府というものも、実質的には、どろどろにとけた地方分権状態だった、
と言った方がより実体を言い得ているかもしれん。
国とか都などといった中央政府が存在しなくてもすんだ幸せな時代だったとも言える。

それから、皇国史観というものが消滅したあとで、天皇家をまともに主役として描ける作家や脚本家が絶滅してしまったと思う。
まして親王を主役で描ける人はいるまい。
以仁王や護良親王などはけっこう良いキャラなのに。
他にもサブキャラで内親王などに面白い人はいるが、では内親王をヒロインにドラマ作るかということはしない(せいぜい和宮くらいか)。
武士や民間人しか主人公で描けない体質になってしまった。
だもんだから、その反動で、韓国の疑似歴史ドラマが流行るのではなかろうか、とすらかんぐられる。
さらに、世の中は歴史蘊蓄ばかりが発達して、ますますフィクション仕立ての歴史というものが描きにくくなっているように思う。

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