宣長が和歌を詠み始めた頃に習った師が法螺で、その添削した歌が『宗安寺法螺添削詠草』
として残っている。
宣長が最初期に詠んだ和歌として非常に興味深い。
寛延二年というから宣長二十歳。
> たづね入る山のかひあれほととぎすただひと声はほのかなりとも
法螺も褒めているが、なかなか良い歌。
> ほととぎす夜半の一声なかなかに聞かずはやすく寝なましものを
珍重、と評されている。まあまあ。
> 宇治川の瀬々の網代木み隠れて白波高し五月雨の頃
なんか、こんな古歌があってもおかしくない。
ある意味陳腐でもある。
> 須磨の海人の焚く藻の煙たたねども袖しほたるる五月雨の頃
うーん。
これはどうかな。
作りすぎって感じ。
> 待ち出でて見るかとすれば夏の夜は惜しむまもなくかすむ月かげ
よくできてるが陳腐だよなあ。
> うたたねをねざめてみれば涼しくも枕にやどる夏の夜の月
うたたねをねざめて、というあたりがくどいし、陳腐だわな。
まあ、歌会なんかの社交には適したレベル。
> 鵜飼ひ船さすやかがりの大井川をぐらの山も名のみなるらむ
かがり火をたいているので「をぐら」(小暗い)の名前に似つかわしくないほど明るい、と言いたいのだろう。
> 松高き梢に秋や通ふらむ鳴くひぐらしの声ぞ涼しき
まあまあ。
> 夕立ちの晴れゆく雲の絶え間より入り日に磨く露の玉ざさ
まあまあ。
> 春雨はふりしきれども鴬の啼く音のいろはうつろひもせず
これはなかなか良い。
> 春の夜の闇にぞまどふ梅の花そことも知らぬ深き匂ひに
これもまあ良い。
> 影うつる水のかがみを竜田川やなぎの髪をけずる春風
なかなか良い。ちょっときどってるけど。
> 咲きそむる花を見捨てて行く雁はなほ古里の春や恋しき
うーん。まあまあかな。
> もろともに花もさびしと思ふらむ我よりほかに見る人もなし
こういう歌は多いよね。最初からこんな歌詠んでたんだなという。
香川景樹の
> 世の中はかくぞかなしき山ざくら散りしかげには寄る人もなし
に似てなくもない。まあ含むところは全然違うのだが。
> 散りまがふ花に心のあくがれて分け入る山のほども覚えず
これは良い。
> 散るとても桜はよしや吉野川今を盛りの山吹の花
桜が散ってしまったが、まあいいや、代わりに山吹の花を見ようという話。うーん。
法螺という人、だいたい、珍重、とかいって褒めている。
実際そんな悪くはない。