ちくま文庫の「中島敦全集」全三冊,これは本物の全集である.
書簡や日記までありとあらゆる著作が収められている.
これの二冊目の解説を群ようこが書いているのだが,これが笑える.
どうしてこの人は子供のときに考えたことや感じたことをこんな詳しく覚えているのだろうか.
この人の著作の大半は,子供の頃の思いでばなしだ.
そういう意味では西原理恵子に似ていなくもない.
というか,よく雑誌で対談してるなこの二人は.
>・・・だから私たちの間では,中島敦という作家は「とっても難しい中国の話を書いて,若くして亡くなった,眼鏡をかけた人」で終わってしまったのである.
・・・これではいかんと,私は昨年,ちくま日本文学全集に収録されている,中島敦の本を読んだ.
そこで初めて,彼が「マリヤン」「鶏」といった,南の島の物語を書いているのを知った.
「山月記」の印象が強かった私は,その内容の違いにびっくりした.
ほのぼのとしていて,ユーモラスで,これが「山月記」を書いたのと,同じ人が書いたとは思えなかったからだ.
いやはや,まったく率直で的確なご意見.
国語の教科書はなぜか中島敦といえば「李陵」「山月記」「弟子」「名人伝」のどれかしか採らない.
また,中島敦の文庫本で,「マリアン」などの南国譚を併せて載せてるものは少ない.
従ってわれわれは子供の頃「中嶋敦 == 漢文調の難しい小説」という先入観を植え付けられてしまうのだ.
> やっと私も「山月記」を読んで,じーんとできるような歳になったのかと,しみじみとした.
彼は私の想像以上に,いろいろな種類の作品を書いている.
先入観は恐ろしい.
それは読書するチャンスを奪う.
私は四十歳近くになって,やっと中島敦を読む機会を得たわけだけれど,今まで読んでいなかったことを後悔し,そしてこれから新参者として,彼の作品を読むのが,とても楽しみになってきたのである.
ぎゃははは.そのとおり.さあみんなも中島敦を読もう!
「牛人」というのは,同じネタで宮城沢昌光も書いている.読み比べると面白いかも.