岩波文庫版排蘆小船

岩波文庫版排蘆小船は底本が戦前岩波書店から出た宣長全集。
普通に普及しているのは戦後に大野信が編集した筑摩書房版の全集なのだが、
やはり同じ岩波から出すと言う関係で戦前のものを底本にしたのか。

カタカナがひらがなに改めてあり、読みやすい。
歴史的仮名遣いがかなり間違っていることに驚く。

> おひてのみ惜き物かは年の暮れわかきも同じ心なりけり

宣長満で20才の時の歌だが、仮名遣いが間違っている。「老ひて」ではなく「老いて」でなくてはらない。

> 年ころ此道に志ありてたえすよみをける言の葉も

満で22才、まだ仮名遣いに間違いがある。「よみをける」は「よみおける」が正しい。

> 八月十四日の夜くまなき月影に軒ちかう出侍てひとりしめやかになかめ侍るまゝいとゝさやけさまさり行心ちしてとみにもいりやらすいと久しうしつゝなをあかねは

満23才。「なを」は「なほ」の誤り。

> 桃のさかりを見にまかりていとかえりがてにして

満24才。「かえり」は「かへり」の誤り。

> 大かた花のころも過ぎぬる比高台寺にまいり侍りけれは

同じく24才。「まいり」は「まゐり」の間違い。

> 此里の名を句の上にすへて蚊遣火の烟の立を見てよめる

満29才。「すへて」は「すゑて」の誤り。
そうか、本居宣長ともあろう人が30才くらいまではきちんとした歴史的仮名遣いで書けてなかった、ということか。
そりゃあそうかもしれん。そういう教科書もないわけだから。
上田秋成などもかなりいい加減だ。

なので排蘆小船も30過ぎに書かれた可能性があるわけだな。

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