著作」カテゴリーアーカイブ

文字無き時代の淘汰圧

土屋文明も柳宗悦も、万葉集は歌人ではなく名も無い庶民が歌を詠んでいたのが良い、古代の詠み人知らずの歌のほうが後世の名のある歌人の歌より良いなどという。柳宗悦はまた沖縄の和歌のようにやはり無名の民謡のような歌のほうがよいという。しかし文字が無かった古代に残った歌というものは相当な淘汰圧がかかったはずであり、人から人へ口から口に伝えられるうちに最初に詠んだ人の歌とは似ても似つかぬほどに改変されてしまったはずだ。古代の詠み人知らずの歌というものはそうした淘汰改変の結果わずかに残った、つまり、選りに選って選抜され推敲された歌なのだから、良いのは当然なのである。ただの素人の歌がそのまんま残ったものではない。梁塵秘抄や平家物語のように自然発生的に生まれた文芸作品においても同様のことがいえるだろう。 だが現代の新聞歌壇のようなものは、素人が詠んで投稿し選者がきまぐれで選んだだけだから、だれが詠もうとそのまま文字になって残り、駄作は永遠に駄作のままなのである。 素人が自由に思ったことをそのまま歌に詠めば良いなどいうのが自然主義とか万葉調とかアララギとかいうのかしらんが、そんなのはまったく嘘だ。今の歌壇に一番近いのは万葉の詠み人知らずの時代ではなく、現代歌人が嫌っている、淘汰圧というものがほとんどかかっていなかった室町中期の続新古今集時代だろう。しかし続新古今集とても、素人がただ勝手に詠み散らかした… 続きを読む »

もっと削らなくてはならない

『関白戦記』辺りはまああれはあれで良いと思うのだが、『エウメネス』はもっと削らなくてはならない。kindleの悪いところは書こうと思えばいくらでも書けてしまうことで、そうすると私の場合なんでもかんでも書けるものは書いちゃおうとするから読みにくくなる。 まず読みやすさを優先して削るところは削るし、読みやすさを優先して冗長にすべきところはくどくど書くべきなのだ。削るところというのはつまり単なる説明をしているところだ。何とかという人の名前とか要するに単なるキャラクター設定の紹介なんかは削らなきゃ駄目だ。どういうキャラクターかということはストーリーを追っていくうちに自然とわかるようにしなきゃダメだ。街の説明、部族の説明。みんなそう。歴史小説ではとにかく固有名詞が多くなりすぎる。そこをなんとかしなきゃダメだ。 冗長に書くべきところというのは逆で、デタラメでも嘘でもいいから想像で街の雰囲気とか、ただ道を歩いているだけの場面とか、なにかの経験を使ってもいいから、だらだらと書く。こういうのをなんというのだろうか。埋め草とでもいおうか。筋に関係ない、日常のとりとめもないことを適当に挟むと物語っぽくなる。説明っぽさが薄まる。

ブログに戻る その2

ブログに戻るの続きなのだが、最近は本を書いてたりとか(出版はされるだろうがいつになるかはわからない)、給料をもらっている方の仕事が忙しかったりとか、そもそもブログを書くことに意味を見いだせてなかったからずっと放置していた。レンタルサーバーも解約し、ここのサイトもハテナブログ辺りに置きっぱなしにしていたと思う。 レンタルサーバーは入金が無いといきなりこの世から消滅してしまう。死んだ後にも何か書き残しておきたいという目的にはまったくむいていない。だから個人で借りているレンタルサーバーよりかはハテナブログにでも書いておいたほうがまだ後まで残る可能性が高い。ハテナが将来つぶれても、archive.org あたりが断片でも残してくれている可能性がある。 archive.org aug 2009 などみると、このサイトは当時「亦不知其所終」というタイトルだったってことがわかる。うん。「はかもなきこと」はもっと昔から書いてた「ウェブ日記」のタイトルだったはずだ。はてなブログのほうは「不確定申告」というタイトルだった。こちらも一応残しておこう。 kindleに書いたのものも残ってくれるだろう。amazonがたとえ潰れたとしてもあれだけのコンテンツが無に帰するということはないはずだ。にしても、後世に書いたものを遺したいという希望はなんと曖昧で不確かなものだろうか。たぶんこういう考えを私が早くからもっ… 続きを読む »

heidi 1-3-3

Nun ging es lustig die Alm hinan. Der Wind hatte in der Nacht das letzte Wölkchen weggeblasen; dunkelblau schaute der Himmel von allen Seiten hernieder, und mittendrauf stand die leuchtende Sonne und schimmerte auf die grüne Alp, und alle die blauen und gelben Blümchen darauf machten ihre Kelche auf und schauten ihr fröhlich entgegen. Heidi sprang hierhin und dorthin und jauchzte vor Freude, denn da waren ganze Trüppchen feiner, roter Himmelsschlüsselchen beieinander, und dort schimmerte es ganz blau von den schönen Enzianen, und überall lachten und nickten die zartblätterigen, goldenen Cystus… 続きを読む »

heidi 1-3-4

»Wo bist du schon wieder, Heidi?«, rief er jetzt mit ziemlich grimmiger Stimme. 「またしても君はどこへいっちまったんだ、ハイディ?」彼はちょっと腹を立てたような声で叫んだ。 »Da«, tönte es von irgendwoher zurück. Sehen konnte Peter niemand, denn Heidi saß am Boden hinter einem Hügelchen, das dicht mit duftenden Prünellen besät war; da war die ganze Luft umher so mit Wohlgeruch erfüllt, dass Heidi noch nie so Liebliches eingeatmet hatte. Es setzte sich in die Blumen hinein und zog den Duft in vollen Zügen ein. 「ここよ、」どこかからそんな声がした。ペーターには誰も見えなかった。ハイディは香りの高いスモモが茂る小高い丘の裏側に座っていたのだ。そこはまだハイディが嗅いだこともないようなかぐわしい空気に満ちていた。その子は花々の中に座って思い切り匂いを吸い込んでいた。 »Ko… 続きを読む »

heidi 1-3-5

»Jetzt hast genug«, sagte dieser, als sie wieder zusammen weiterkletterten; »sonst bleibst du immer stecken, und wenn du alle nimmst, hat’s morgen keine mehr.« Der letzte Grund leuchtete Heidi ein, und dann hatte es die Schürze schon so angefüllt, dass da wenig Platz mehr gewesen wäre, und morgen mussten auch noch da sein. So zog es nun mit dem Peter weiter, und die Geißen gingen nun alle geregelter, denn sie rochen die guten Kräuter von dem hohen Weideplatz schon von fern und strebten nun ohne Aufenthalt dahin. Der Weideplatz, wo Peter gewöhnlich Halt machte mit seinen Geißen und sein Q… 続きを読む »

heidi 1-3-6

Heidi hatte unterdessen sein Schürzchen losgemacht und schön fest zusammengerollt mit den Blumen darin zum Proviantsack in die Vertiefung hineingelegt, und nun setzte es sich neben den ausgestreckten Peter hin und schaute um sich. Das Tal lag weit unten im vollen Morgenglanz; vor sich sah Heidi ein großes, weites Schneefeld sich erheben, hoch in den dunkelblauen Himmel hinauf, und links davon stand eine ungeheure Felsenmasse, und zu jeder Seite derselben ragte ein hoher Felsenturm kahl und zackig in die Bläue hinauf und schaute von dort oben ganz ernsthaft auf das Heidi nieder. Das Kind saß mä… 続きを読む »

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»Willst mit auf die Weide?«, fragte der Großvater. Das war dem Heidi eben recht, es hüpfte hoch auf vor Freude. 「おまえも上の牧場まで行きたいか?」おじいさんは尋ねた。もちろんそれはハイディの望むところだった。その子は喜びのあまり飛び上がった。 »Aber erst waschen und sauber sein, sonst lacht einen die Sonne aus, wenn sie so schön glänzt da droben und sieht, dass du schwarz bist; sieh, dort ist’s für dich gerichtet.« Der Großvater zeigte auf einen großen Zuber voll Wasser, der vor der Tür in der Sonne stand. Heidi sprang hin und patschte und rieb, bis es ganz glänzend war. Unterdessen ging der Großvater in die Hütte hinein und rief dem Peter zu: »Komm h… 続きを読む »

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Auf der Weide 牧場で Heidi erwachte am frühen Morgen an einem lauten Pfiff, und als es die Augen aufschlug, kam ein goldener Schein durch das runde Loch hereingeflossen auf sein Lager und auf das Heu daneben, dass alles golden leuchtete ringsherum. Heidi schaute erstaunt um sich und wusste durchaus nicht, wo es war. Aber nun hörte es draußen des Großvaters tiefe Stimme, und jetzt kam ihm alles in den Sinn: Woher es gekommen war und dass es nun auf der Alm beim Großvater sei, nicht mehr bei der alten Ursel, die fast nichts mehr hörte und meistens fror, so dass sie immer am Küchenfenster oder am St… 続きを読む »

デーテ 15. 姪の出戻り

 ある日いきなり朝早くゼーゼマンさんから呼び出しがあって、これはハイディが何事かしでかしたかと、お叱りがあるのかと思い、あわてて訪ねて行ったら、「ハイディが山が恋しくてホームシックのあまり夢遊病になってしまった」と言われたのよ。ハイディも姉のアーデルハイトと同じ夢遊病の気があったということなのかしら。  最初は、フランクフルトで白パンを買って一日で山に帰るなんて駄々をこねていたけど、案外ハイディもクララと一緒に町の暮らしに慣れて楽しんでいるとばかり思っていたわ。そりゃあ、よそ様のおうちで、ロッテンマイヤー女史に監督されて、厳しくしつけられたりして、多少は窮屈だったかもしれないけど、まさかそんなくよくよと思い悩んで、ほんとうの病気にまでなってしまうなんて。なんて手間のかかる子なのでしょう。  ゼーゼマンさんは、ものすごい剣幕で、「今日すぐにも引き取って山に返して欲しい」というのだけど、あまりに急な話で私はどうしていいのかわからなかったわ。だって私は毎日シュミットさんの事務所でニューギニア植民地に最近開設した出張所と連絡をとりあって、東アジアや太平洋の島々の物産を仕入れるのに忙しくって、一日たりとも職場を離れることはできなかったし。それに、いったんハイディをアルムおじさんに押しつけて、それを無理矢理連れ出しておいて、親戚づきあいもこれきりだからもう二度とくるなと言われて、もののはずみと… 続きを読む »