ヒストリエ難民

ヒストリエ新刊というものをこないだ書いたのだが、驚くべきことに『エウメネス』もまだ少しずつ売れ続けている。思うに、ヒストリエの新刊を待っていればいつかはイッソスの戦いやガウガメラの戦いまで著者が描いてくれるだろうと、漠然と思っていたが、どうやらそんなことはありそうもない、ということに多くの読者が気づいてしまった。そこでどうしても続きが知りたい(というより、ウィキペディアかなにかで調べるのではなく、なにか小説仕立てにされた作品の形で読みたい)という人が『エウメネス』を読んでいるのだろう。

『エウメネス』はもともと『エウメネス1』で完結する話だった。たぶんどこかの新人賞に応募したと思う。それきりのはずだったが、私が書いた小説の中ではなぜか『エウメネス』だけがよく売れ、また続編が読みたいというレビューもあったので、では書いてみようかという気になった。もちろん『ヒストリエ』の読者の一部が『エウメネス』を見つけて読んでいたのだった。

『エウメネス1』はマケドニアから最も遠ざかったインド遠征の話。『エウメネス2』は時間を遠征開始まで巻き戻してグラニコスの戦いまで。『エウメネス3』はイッソスの戦い。アレクサンドロスはなぜペルシャ王を追ってペルシャ奥地に行かず、エジプトに向かったのか、その謎解きを自分なりにやった。グラニコス、イッソスをつなげて書くという作業の過程でいろんな疑問が湧いてくる。できるだけ史実に沿うように書いたが、史実がない箇所はフィクションで補うしかない。フィクションを「つなぎ」代わりにしてボリュームを出し、小説として面白おかしく書かなきゃいけないんだってことに気づいた。

『エウメネス4』はカッサンドロスによるメガロポリスの戦いがメインで、たぶんこの話を小説にした人はこれまでに私くらいしかいないと思う。メガロポリスの戦いを指揮したのは当然アンティパトロスだが、実は彼の息子のカッサンドロスが大活躍したのだ、という筋書きだ。かつ、エウメネスがハルパロスの仕事を引き継いでオリュンピアスに会いに行く、という話も盛った。オリュンピアスは魔女とか極悪人として描かれることが多いのだが、そうはしたくなかった。

だんだんとフィクションを盛り込むようにした。『エウメネス5』では当然ガウガメラの戦いを描かなくてはならないのだが、私なりに極力、ペルシャ帝国の都にして、当時世界最大の街バビュロンを描写してみようと思った。これには当然めちゃめちゃ手間がかかった。そしてエウメネスはガウガメラの時はメガロポリスにいたので、直接ガウガメラは体験しておらず、ガウガメラが初陣のセレウコスに語らせる、という形をとった。

で、ガウガメラの後からインド遠征を書いた『エウメネス1』まではたぶん誰も面白がらないからざくっと省略し、当初の予定どおり、スーサ合同結婚式まででこの話を終わらせた。

普通なら、アレクサンドロスが暗殺されるところまで書くのではないかと思うが、そこはわざわざ私が書くまでもないと思い、余韻をもたせるために手前で終わらせた。アレクサンドロスがなぜ暗殺された、なぜディアドコイ戦争の勝者がセレウコスとプトレマイオスだったのかということを、スーサまでの出来事で示唆したつもりだ。

『エウメネス6』は時系列的に『エウメネス1』に続いている。時系列に並べると 2 → 3 → 4 → 5 → 1 → 6 となる。わかりにくいかとは思ったが、並べ替えずにいる。まず 1 を読んでみて、おもしろければ改めて 2 から順に読んでいくのが自然だろうとも思っている。6 は無理やりすべての伏線を回収し、フィクションで膨らませてあるのだが、とりあえず完結させてみたもののまだまだ説明的でディテイルの書き込みが足りてないと思う。スターウォーズも 4 → 5 → 6 → 1 → 2 → 3 → 7 → 8 → 9 の順だし、パルプフィクションだって時系列はバラバラだが特に何か説明されているわけではなくそのまんまつないであるだけだ。

エウメネスが主人公なのだから、ディアドコイ戦争でエウメネスが戦死するところまで書く、ということもできるはずだが、たぶんそんな面白くないし、アレクサンドロスだけでもたいへんなのにディアドコイ戦争まで書くのは個人の力では無理だろうと思う。ただ、セレウコスとチャンドラグプタの戦いは書いてみたかった(絶対ムリだが。それにたぶん誰も興味ない)。

アマストリーという王女は面白い人で、この人をサブキャラにしたててディアドコイ戦争を描こうという誘惑もあったが、やめておいた。ラオクシュナやバルシネも面白い人ではあるがアマストリーほどではないと思うが、アマストリーにはほとんど知名度が無い。クラテロスと結婚させられてすぐ離縁された人、みたいな扱いだ。

アルトニスもほとんど知られていないが、アルタバゾスの娘でエウメネスの妻となった人なのでかなり細かく設定して書いた。ある意味エウメネスはアルトニスによってああいう人になったともいえる。さらにこんなにアルトニスを深堀りして書いた人も私以外にはいるまいと思う。

2の冒頭はわざと異世界転生っぽく書いてある。5の冒頭はまだ見たことのないバビュロンの夢をバビュロンに行く前にあらかじめ見たという設定。2も5も予知夢というか、ストーリーをあらかじめうっすら暗示させ提示しておくために夢を使っている(一種の伏線ともいえる)。夢落ちは好きではないが、夢から覚めるところから始まるのは嫌いではない。

読まれると手直ししたくなるのだが、その時間も今はほとんどとれない。

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