筒井康隆の『短篇小説講義』だが、
私が最近読んだ「小説の書き方」の本の中では一番わかりやすくて面白かった。
小説の新人賞というのは最近ではみなだいたい短篇であって、
それはつまり応募者がたくさんいるから、
あんまり長いの書いてこられたら迷惑だというのもあるのだろう。
作家としての才能の有無を見るだけならば名刺代わりの短篇でも良いではないかということじゃないか。
文学部唯野教授も短篇を書いている。
それと平行してこの『短篇小説講義』を筒井康隆は書いたわけだ。
『文学部唯野教授』は岩波書店だし、『短篇小説講義』は岩波新書だし、
『短篇小説講義』に出てくる短篇のサンプルはみな岩波文庫だ。
そして筒井康隆が『短篇小説講義』を書いた直接のきっかけは岩波新書の『短篇小説礼讃』(阿部昭 1986)を読み、自らも短編小説についてエッセイを書いたからだという。
筒井康隆はいろんな批評家からの批評やら、
直木賞を逃したことやらに腹を立てて『大いなる助走』(1979)を書いて
『文学部唯野教授』はその続編みたいなもんだ。
そして自分でも文芸論や文芸批評論を書いてみたくなった、のだと思う。
でまあ、私はあまり小説を読まない人で(笑)、
日本文学もだが欧米文学は特に読まないので、
チェーホフとかトーマスマンとかゴーリキーとかの簡潔な紹介をしてもらったのはありがたかったし、
ディケンズ、ホフマン、ビアスはなかなか興味深く読んだ。
でまあいろんな古典的サンプルを紹介してその結論というのは、
良い小説とはまだ手垢の付いてないアイディアとか文体で書かれたものだというものであって、
そりゃそうなんだろうが、
たぶん新人賞を取るのにはあんまり役に立たない話だわな。
新人賞なんてものはとびきり有能で上質なライターの素質がある人、
つまり作家としての商品価値のある人が取るもんじゃないのか。
或いはなんらかの話題性(タレント性)がある人とか。
ほんとに novel なものを書く人(そういう人は往々にして商業的に成功するとは限らない)にほんとに出版社が新人賞を与えるなんて私には信じられない。