新葉和歌集に吉野宮を偲ぶ

> 都だに寂しかりしを雲はれぬ吉野の奥のさみだれの頃 後醍醐天皇

梅雨時ですね。なんかじめじめしてて暑苦しそうです。
後醍醐天皇はやはり怒っています。

> 茂るとも夏の庭草よしさらばかくてや秋の花を待たまし 後醍醐天皇

庭の雑草を手入れしてくれないので、かなり自暴自棄になってます。

> 幾秋を送り迎へていたづらに老いとなるまで月を見つらむ 後醍醐天皇

いらいらしているようです。

> 音に立てて虫も鳴くなり身ひとつのうき世を月にかこつと思へば 後醍醐天皇

ぼやいています。

> 風にたぐふ花の匂ひは山かくす春の霞もへだてざりけり 聖尊法親王

> 吉野川たぎつみなはの色そへて音せぬ浪と散る桜かな 聖尊法親王

> 卯の花の咲きての後にみゆるかなこころありける賤が垣ほは 貞子内親王

> 待ち侘ぶる心は花になりぬれど梢に遅き山桜かな 貞子内親王

> 鳴く虫の声を尋ねて分け行けば草むらごとに露ぞ乱るる 深勝法親王

> 吉野山嶺の岩かど踏みならし花のためにも身をば惜しまず 仁譽法親王

> 山深きかぎりと思ふみ吉野を猶奥ありと月は入りけり 仁譽法親王

> 埋もれし苔の下水音たてて岩根を越ゆる五月雨の頃 守永親王

> 木のもとに散りしく花を吹きたててふたたび匂ふ春の山風 師成親王

> 夜もすがら吹きつる風やたゆむらむ群雲かかる有明の月 惟成親王

ものすごく山が深そうです。

> 立ちかへりわたるもつらし七夕の今朝はうきせの天の川浪 幸子内親王

吉野に居ると天の川も激流に見えるのでしょうか。

> 山あらしにうき行く雲の一とほり日かげさながら時雨ふるなり 儀子内親王

> 山松はみるみる雲にきえはててさびしさのみの夕暮の雨 儀子内親王

> 吹きしをる千草の花は庭にふして風にみだるる初雁の声 儀子内親王

> うすぐもりをりをり寒く散る雪に出づるともなき月もすさまじ 儀子内親王

京都の雅な感じがまるでない。

> 咲く花のちる別れにはあはじとてまだしきほどを尋ねてぞみる 祥子内親王

> はるかなる麓をこめて立つ霧の上より出づる山の端の月 祥子内親王

祥子内親王は歌がうまい。

> 風はやみしぐるる雲もたえだえに乱れて渡る雁のひとつら 長慶天皇

> 秋風に迷ふ群雲もりかねてつらき所やおほ空の月 宗良親王

> 夏草の茂みが下の埋もれ水ありと知らせて行く蛍かな 後村上天皇

この自然観察はすごいと思う。
特に最後の蛍が飛ぶので夏草の下に埋もれ水があることがわかったという歌。
夏休みにいきいきと田舎暮らししてる少年のようだ。
山の中を実際に歩き回らないとこんな歌は詠めない。
つまり、都の公家には絶対詠めない歌。

> この里は山沢ゑぐを摘みそめて野辺の雪まも待たぬなりけり 後村上天皇

後村上天皇はけっこう吉野の生活に適応していたんじゃないかと思う。

> 一木まづ霧の絶え間に見えそめて風に数そふ浦の松原 後村上天皇

この歌はすばらしい。霧の中にまず一本の松の木立が見えて、
風が吹くうちに、だんだんと霧がはらわれて、浦の松原の全景が見えていく。
いわば水墨画のアニメーション。

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