俺はまだ本気出してないだけ

引っ越しのときに紙の本はほとんど捨ててしまって「俺はまだ本気出してないだけ」もどこまで読んだかすら忘れていたが、
アマゾンのおすすめ商品で教えられて5巻目を買ってみたのだが、
まったく読んでなかったので、5巻目を買ってない上にIKKIの連載もまったく読んでないわけだった。
そりゃそうだな。最近は漫画雑誌を一切読まなくなったから。

それでアマゾンのカスタマレビューなんか読んでると、感動して泣いたというやつがいる一方、
5巻は今までと違ってまるでつまらなかったという人もいる。
別につまらなくもなかったが意外性も少なく地味な話だし、4巻までがおもしろかったというのは確かだと思う。

最初のもちこみの担当者が人生300年に感動してオカマになり、
次の担当者が女で一転作品を酷評して落ちこむ、あたりまでがおもしろかったといえばおもしろかった。

以前、[青野春秋の謎](/?p=45)
というものを書いたのだが、この作家は、単行本にかなり暗くてシュールな若者の葛藤みたいな短編をいくつも載せていた。
従って、5巻がそっちのほうに引っ張られて暗くて地味な話になったのは予測できなかったわけでもない。


で今は「五反田物語」などという、自伝なのか私小説なのかしらんが、さらに悩める若者的なものを書いているらしい、読んでないからしらんが。

でまあ青野春秋という人が男性か女性かは不明で年齢も不詳で、未だに極めて謎なひとなわけで、
新人賞を取った作品というのも入手困難なのでよくわからんわけだが、
どちらかといえば、少女漫画、というか女性作家が書くような純文学に近いものを書くひとなのだろうと思う。
で、編集からなんか軽いギャグ漫画でもかいてみるかと言われて書き始めたら異様に人気がでてしまったのだが、
この企画というかアイディアは本人というよりは編集の人のものではなかったろうか。
或いはシズオは編集の人が担当した誰かのことだったかもしれない(アシスタント時代の同僚とか、持ち込み仲間の一人かもしれんわな)。

でまあ、この本を買うとアマゾンのおすすめに「最強伝説 黒沢」とかが出てくるんだけど、
シズオは福本伸行や古谷実が描くような人物ではまったくないし、
苦役列車的な人物でもないし、
それらと比較してもしょうがないし(1巻のレビューにはそんなのが多かったが)、
そもそも作者はそんなものと比較されてもうれしくもなんともないと思う。

まあシズオを読んでたのは私も小説を書き始めて新人賞に応募してたころだったので、新人賞の仕組みとかよくわかりました。
ようは新人賞は若者しかとらない。
右も左もわからん未成熟な新人を出版社が都合の良いように育てて恩を売る仕組みになっている。
それは正社員という形で若者を搾取する日本の会社と同じだし、
政治の世界もそうだし、
ともかく新人は未完成でなくてはならない。
編集やライターは表にはでてこないで実を取る。
写真家とか絵本作家とかほとんど99%まではそう。
実力者を中途採用すれば本人にだけメリットがあり、会社や担当の旨味は少ない。
日本の社会は結局そんなふうにできている。
なんのことはない、夏目漱石の「坑夫」に出てくる飯場の搾取の構図と何も変わっちゃいない。
牢名主がいて、新入りがいる世界だ。

たまにほんとにすごいやつもいるが、それも本人の才能というよりは、偶然おもしろいネタに遭遇したというだけであって、
ま、ほとんどは運みたいなもんじゃないかな。
一万人とか百万人の人が地面掘り返してりゃ一人くらいは鉱脈にぶち当たる、そんなものであり、
一生懸命地面掘りゃいいって話ではない。

で、作者は、最後は編集にもらったネタは捨てて(そりゃそうだろう。これからもシズオみたいなマンガを死ぬまで描き続けるわけにはいかない)、本人が書きたいような漫画を書いて、本人の好きな終わらせ方をした。
事実は、作者と編集の合作だったわけだから、その編集の部分を切り捨てるとあの5巻のようなストーリーにならざるを得ない。
いつまでもヘタウマなわけでもなく、ずいぶん画力はついてきたのに、いつまでもヘタウマな絵でシズオを描き続けるのは苦痛だっただろうと思う。
そうすると4巻までの愛読者は引く。
逆にお涙ちょうだいな人情話が好きな連中には5巻だけ受けた。
そういうことではないかね。

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