佐藤秀峰「漫画貧乏」はキンドル版ならば無料で読めるのだが、
例によって
[漫画 on Web](http://mangaonweb.com/)の広報的なものであり、漫画 on Webでも無料で読めるものである。
前半部分の漫画はすでにどこかで読んだことがあった。
後半の文章はかなり長いが一応読んでみた。
NHKのアナウンサーも最初はNHKというショバでNHKという看板を背負って、
認知度を上げていく。
売れっ子になればNHKを辞めてフリーランスになるわけだが、
そこには何らかの「仁義」「年季奉公」的な制度があるのだろう。
プロ野球選手もそうだ。
フリーになるのは何かやりかたがあるようでないようで、
興味がないので詳しく調べようとも思わないが、
何か円満退社するだんどりというものがあるのだろう。
私の知る限りアニメのプロダクションなどは、最初は正社員もしくは正社員に近い待遇だが、
正社員のままではいつまでも給料は上がらない。
契約社員になっていくつかのプロダクションを掛け持ちした方が儲かるということになり、
さらにはフリーランスになったり起業したりして、
人や金を使う側に回るとやっと飯を食い家を建て家族を養えるようになるそうだ。
デザイン事務所も個人経営の小さなところが多い。
アニメもデザインもだいたいは美大出の仕事であり、
美大出身の人間しかいない業界はこんなふうになりがちである。
佐藤秀峰も武蔵美の出だわな。
だが、新聞業界や出版業界は違う。
一流大学出のエリートが牛耳っている。
政治家になろうか実業家になろうかという同輩がうようよいるなかで、
たまたま文学が好きで、
出版業界に入ってくる。
だが漫画家はそうではない。たいてい学歴は無い。
漫画家はアイドルタレントに似ている。
本人に実力があるかどうかは大した問題ではない。
ある種の愛嬌と個性があればそれでいい。
業界に取り込まれて、がんじがらめにされて、
足抜けできなくされる。
同じクリエイティブな職種でも、
そこがアニメーターやデザイナーとは根本的に違うところだ。
アニメーターの劣悪な労働環境を考えるとどちらが良いとも言えない。
どちらも悪いとしかいいようがないが、
ともかく、
佐藤秀峰はそういう地雷をどんどん踏みつけていった。
彼は学閥エリートの社会と、
美大という自由な世界のちょうど中間点にいた。
でまあ、この漫画貧乏を読んでいると、
出版業には、出版業界にはやはり関わらぬ方がよいと思う。
他人に恩を売るのも売られるのもまっぴらごめんだ。
作品そのものより名前を売りたいとか名を残したいというのならともかく、
クリエイティブな仕事をしていればよいというだけなら、
どこかの小さなデザイン事務所でちらしや名刺のデザインしてたほうがましだろう。
漫画 on Webは偉大な試みだったがたぶんそんなには売れないだろう。
彼はいろんな新人漫画家の参加を期待していたようだが、
そんなに良い人材はうまく集まってこない。
けっきょく佐藤秀峰一人のウェブサイトになってしまい、
それ以上に広がらない。
[電脳マヴォ](http://mavo.takekuma.jp/)のほうがまだましかもしれない。
竹熊健太郎は佐藤秀峰のやり方を良く観察してあのようなサイトを立ち上げた。
良い新人が集まっているかどうかわからんが、
少なくとも多様性はある。
キンドルの良いところは個人作家の多様性があることだと思う。
誰でも小説を書いて出版することができる。
大半はつまらんが中には良いものが含まれる可能性がある。
出版社や編集者にいじられることなく。
意外性や偶発性がある。
もちろん胴元のアマゾンの意向には逆らえないが。
佐藤秀峰のデビュー前の作品は絵は下手くそだが、それなりにストーリーは面白い。
もしブラよろでブレイクしなければ、
ああいう地味でアシスタントも使えない下手な絵の面白い漫画をこつこつ書き続ける、
味のある貧乏漫画家になったのではなかろうか。
他人の力を借りようとすればたかられる。
他人とつるもうとすれば身動きとれなくなる。
そういうことはできるだけしないつもりでいる。