最初は切手と言わないで郵便印紙と名づけようかと思ったが、その頃は印紙などという文字は一般の人には新規であって、郵便という名すら既にわかりにくい上に、また印紙という新奇な名を加えた日には、所業創始のために不利益であると思って、多くの人の耳慣れている「切手」という名にしたのです。
もっとも、本省中には切手という名は余り俗で鰹節屋か何かのようだという非難もありましたが、私は賃銭という文字と好一対ではないかと答えたので、まず大笑いで済んだのです。その後、郵便賃を税と改称した時、切手を印紙と改めようかと思ったが、事に害のない以上は既に一般に知れ渡った事を変更するにも及ばないと思って、依然、切手の名を用いる事にしました。
私は郵便為替という名称は穏やかでないと思ったが、郵便切手と同じように最も当時の人の耳に慣れているのを適用したのだ。しかし「為換」の字がむしろ妥当であると言った人もあったが、「換」の字も俗眼にはやはり新奇の感があるだろうと思ったから俗向きのよい「替」の字を襲用したのです。
郵便創業談 : 郵便の父前島密遺稿集
著者 前島密
出版者 逓信協会
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