大学三年生の夏。22才。青春だなあ。車と中免の同時教習だった。
> ふかきよりふかき思ひに入りにけり今ひとたびと求むるにより
> いねし間に町に夕立はふりにけりよひの祭りを清むるごとく
> 花も実もあらで畑におふる木をつくづく見れば桜なりけり
> 思ふさまに林檎は育ち鳥は鳴き川には土地の子らさへ遊ぶ
> ひさしぶりにつくづく熱き湯に入りてあがればビールふと飲ままほし
> 柿の種買はむと来つる夜の店になんとラムネは五十円なり
> さすがプロ全然こぼさなかったねとおせじを言ってくれるおばさん
> アメリカやオーストラリアに行かずとも空の広さは日本にもある
> 国つ神に我が来しことを告ぐるなりひとりつとめての外山に登り
> けふひと日雨は降りけりゆく川の流れは満ちてささにごりたり
> おみくじを結びおくためひとむらのあをささだけぞまうけられたる
> こぞの夏買ひし麦わら帽もがなけふしも日差し強くなりけり
> ゆふさればおほかたのせみはしづまりてみやゐの杜にひぐらしぞ鳴く
> やうやくにみづかさは減り子らもまた来むと見しまに雨はふりけり
> たかさごの尾根をつたひてゆく雲のいづこにけふはつどはむとする
> えも言はず夏の光にみがかれて指に乱るるみづの流れを
> 暗幕で外は見えねどひぐらしの鳴く声きこゆゆふさればにや
> いくにちかそるもうたてとありしひげも思ふともなくけふはそりけり
> あたたかき部屋に戻りてかけおきし作業着におのが匂いをかぎぬ
> 思ひみなしづめむとして湯に入りて伊東静雄の歌くちずさむ
> おもいきりバイクの第二段階の急制動でこけてしまった
> この分じゃ帰るころにはばらばらになるんじゃないかおれのからだは
> 汗をかいてそのあと風呂に入るのもビールをうまく飲むだけのため
> けふよりは残しし仕事はじめむと思ひしことのほかにもあるかな
> 卒検にこさめ降らなむふらふらと道に出で来る人もこそ減れ
> とみに雨降り始めける部屋にありてこころあてなき日を過ぐすかな
> わが宿のかたへに川の水は満ちかたへに稲の穂ぞ実りける
> かの車とくも行かなむかのおうなな出でそ我は検定中ぞ
> たれかこの川わたるらむこことかの岸辺に続く道はあれども
> 卒検を受けてののちにくらぶれば昔はものを思はざりけり
> 卒検はおはりにけりないたづらに歩道をわたるおうなを知らで
> あめやむはありがたかれどしかすがにおきなおうなら道に出づらめ
> 温泉に栄ゆる町にゐやあつく神はとやまにまつらるるなり
> 故郷でも今日より盆にいりにけむ祖父の初盆なれどあらぬかも
> 初盆にみかんはいまだ青からむとぶらふ人もまたおほからむ
> こぼすなよ、心配無用、ゆっくりと半クラッチでコルク抜くから
> 夜さりて窓のあかりにはむしらはあまた来れども我は帰るも
> とをあまりやうかのあひだこの町にあれどもあした我はいぬめり
> 始発ではないのでつばさもやまびこも最悪の場合たちどほしだな
> かへるさに小室直樹の新刊を買へばつれづれなぐさまれけり
> 立ったまま食う幕の内のんびりと釜飯なんか食ってられるか
> 立ちぼうけ弁当売りの姉ちゃんがとほれるくらいの混み具合にて
> 時間割吹き流してる扇風機夏休みあと幾日もなし
> 一枚にふたつきごとのカレンダーながつきなればあらためにけり