heidi 1-2-3

»Wo du willst«, gab dieser zur Antwort.

「好きなところに寝な、」彼は答えた。

Das war dem Heidi eben recht. Nun fuhr es in alle Winkel hinein und schaute jedes Plätzchen aus, wo am schönsten zu schlafen wäre. In der Ecke vorüber des Großvaters Lagerstätte war eine kleine Leiter aufgerichtet; Heidi kletterte hinauf und langte auf dem Heuboden an. Da lag ein frischer, duftender Heuhaufen oben, und durch eine runde Luke sah man weit ins Tal hinab.

ハイディはその答えどおりに受け取り、自分が寝るのに一番良い場所を部屋中くまなく探した。おじいさんのベッドの先の部屋の隅に一本のハシゴが立っていた。ハイディはそのハシゴを登って干し草置き場を見つけた。そこには新しく香ばしい干し草が積んであり、丸い明かり窓を通してはるか谷を見下ろすことができた。

»Hier will ich schlafen«, rief Heidi hinunter, »hier ist’s schön! Komm und sieh einmal, wie schön es hier ist, Großvater!«

「私はここで寝たいわ!」ハイディは下の階に叫んだ、「ここはとてもすてき!こっちにきてどんなに素晴らしいか見てごらんよ、おじいさん!」

»Weiß schon«, tönte es von unten herauf.

「もう知ってるよ、」下から声が聞こえた。

»Ich mache jetzt das Bett!«, rief das Kind wieder, indem es oben geschäftig hin und her fuhr; »aber du musst heraufkommen und mir ein Leintuch mitbringen, denn auf ein Bett kommt auch ein Leintuch, und darauf liegt man.«

「さっそくベッドを作るわ!」その子はあちこち動き回りまた叫んだ、「でもベッドにはシーツをかぶせないと。おじいさん、私にシーツを持ってきてくれないかしら。」

heidi 1-2-2

Der Alte kehrte sich um und schaute durchdringend auf das Kind, dessen schwarze Augen glühten in Erwartung der Dinge, die da drinnen sein konnten. »Es kann ihm nicht an Verstand fehlen«, sagte er halblaut. »Warum brauchst du’s nicht mehr?«, setzte er laut hinzu.

老人は突き通すような目つきでその子を見つめた。その子の黒い瞳の奥にはものごとに対する興味が輝いていた。「ものの分別がつかぬわけではなさそうだ、」ため息をつきながら彼は言った。「どうしてもうその服が要らないのかね?」彼は大声で付け加えた。

»Ich will am liebsten gehen wie die Geißen, die haben ganz leichte Beinchen.«

「私は山羊のように、身軽に歩き回りたいの。」

»So, das kannst du, aber hol das Zeug«, befahl der Großvater, »es kommt in den Kasten.« Heidi gehorchte. Jetzt machte der Alte die Tür auf und Heidi trat hinter ihm her in einen ziemlich großen Raum ein, es war der Umfang der ganzen Hütte. Da stand ein Tisch und ein Stuhl daran; in einer Ecke war des Großvaters Schlaflager, in einer anderen hing der große Kessel über dem Herd; auf der anderen Seite war eine große Tür in der Wand, die machte der Großvater auf, es war der Schrank. Da hingen seine Kleider drin und auf einem Gestell lagen ein paar Hemden, Strümpfe und Tücher und auf einem anderen einige Teller und Tassen und Gläser und auf dem obersten ein rundes Brot und geräuchertes Fleisch und Käse, denn in dem Kasten war alles enthalten, was der Alm-Öhi besaß und zu seinem Lebensunterhalt gebrauchte. Wie er nun den Schrank aufgemacht hatte, kam das Heidi schnell heran und stieß sein Zeug hinein, so weit hinter des Großvaters Kleider als möglich, damit es nicht so leicht wieder zu finden sei. Nun sah es sich aufmerksam um in dem Raum und sagte dann: »Wo muss ich schlafen, Großvater?«

「そうしたければそうしなさい。だがあれは取っておいで、」おじいさんは命じた、「物置にしまっておこう。」ハイディは従った。それから老人は戸を開け、ハイディは後から、小屋の大部分を占めているやや広い部屋に入った。そこにはテーブルが一つあり、椅子が一つついていた。片隅におじいさんのベッドがあり、もう片隅にはかまどの上に大きな鍋がかけてあった。その向かいの壁には大きな扉がついていて、おじいさんがその扉を開けると中は物置になっていた。彼の服はその中にかけてあり、棚にはシャツやズボンやタオルが詰まれ、また皿やカップやグラス などがしまってあり、棚の一番上にはパンの固まりや、燻製した肉やチーズが置いてあった。そこにアルムおじさんが生きていくすべてのものが納められていた。彼が物置を開くと同時にハイディはすばやくやってきて、自分の服を、すぐに見つけやすいように、おじいさんの服の隣に押し込んだ。それからその子は部屋の中を注意深く見回して言った、「私はどこに寝れば良いの、おじいさん?」


Kasten は箱という意味もあるが引き出しという意味もある。ここでは物置と訳しておいた。

Schrank 戸棚、洋服ダンス。クローゼットと訳すことも可能だろう。ここでは無難に物置と訳しておいた。

Strümpfe ここでは男用のタイツ、あるいはレギンスのようなものだろう。おそらく靴下と一体化したズボン下のようなものではないか。無難にズボンと訳しておいた。

heidi 1-2-1

Beim Großvater

祖父の下で
Nachdem die Dete verschwunden war, hatte der Öhi sich wieder auf die Bank hingesetzt und blies nun große Wolken aus seiner Pfeife; dabei starrte er auf den Boden und sagte kein Wort. Derweilen schaute das Heidi vergnüglich um sich, entdeckte den Geißenstall, der an die Hütte angebaut war, und guckte hinein. Es war nichts drin. Das Kind setzte seine Untersuchungen fort und kam hinter die Hütte zu den alten Tannen. Da blies der Wind durch die Äste so stark, dass es sauste und brauste oben in den Wipfeln. Heidi blieb stehen und hörte zu. Als es ein wenig stiller wurde, ging das Kind um die kommende Ecke der Hütte herum und kam vorn wieder zum Großvater zurück. Als es diesen noch in derselben Stellung erblickte, wie es ihn verlassen hatte, stellte es sich vor ihn hin, legte die Hände auf den Rücken und betrachtete ihn. Der Großvater schaute auf. »Was willst du jetzt tun?«, fragte er, als das Kind immer noch unbeweglich vor ihm stand.

デーテがいなくなったあと、おじさんは再びベンチに座り、パイプから太い煙を吹き出し、地面をみつめたまま、一言もしゃべらなかった。一方ハイディは楽しげに当たりを見回し、小屋に取り付けられた山羊小屋をみつけて中をのぞきこんだ。中には何もいなかった。その子はさらにあたりを調べ続け、小屋の裏手の古いもみの木のところへ来た。枝の間を風が強く吹き抜け、梢は大きな音を立ててうなっていた。ハイディは立ち止まり耳をすました。やや音が静まるとその子は今度は小屋のもう一方の角へ回り、小屋の正面にいるおじいさんのところへ戻ってきた。彼が元通りの所にいるを見て、その子は彼の正面に立ち、手を後ろに組んで、彼を見た。おじいさんは目を上げた。「さて、おまえは何がしたいのかね?」じっと目の前に立っている子に彼は尋ねた。

»Ich will sehen, was du drinnen hast, in der Hütte«, sagte Heidi.

「私はあなたが小屋の中に何を持っているか見てみたいわ、」ハイディは言った。

»So komm!«, und der Großvater stand auf und ging voran in die Hütte hinein.

「じゃあ、おいで!」おじいさんは立ち上がり、小屋の中へ導いた。

»Nimm dort dein Bündel Kleider noch mit«, befahl er im Hereintreten.

「その服の束ももってきなさい、」中へ入るとき彼はそう命じた。

»Das brauch ich nicht mehr«, erklärte Heidi.

「私はもうそれが要らないの、」とハイディは答えた。

ハイディの成立

ハイディの舞台となったマイエンフェルトやラガーツ温泉などの町はヨハンナ・シュピリにとってほとんど土地勘の無いところだったはずだ。ヨハンナは生まれ育った Hirzel(Zurich郊外。『フローニの墓』などに出てくる)と、14才から住んだ Zurich、16才から寄宿舎暮らしをした Yverdon-les-Bains 以外はあまり知らなかったと思う。

Wikipediaなど見るとまっさきに、ヨハンナが子供の頃、何度か夏休みに Chur で過ごし、それがハイディを書くときの素材になったなどと書かれていて、アルムおじさんの故郷が Chur であるとされているからにはヨハンナは実際 Chur にかなり長い間滞在したことがあるのだと思われる。ただ、ヨハンナの父母や祖父母などを調べてみるに、彼らもみな Zurich の周辺に住んでいるので、Chur に親戚がいたというわけではなさそうで、おそらく彼の父は、スイスの医師として、グラウビュンデン州の州都クールへ、ときどき出張する必要があったのではないか。それで父についてヨハンナも Chur を訪れたことがあったのだと思う。

フランクフルトから Chur まで鉄道が開通したのが 1858年で、そのときにマイエンフェルト駅もできた。さらにチューリヒからマイエンフェルトまで鉄道が作られた。こうして1990年代にはラガーツ温泉が開発されて、保養所などができた。そうなって初めてシュピリ一家はラガーツ温泉に保養にくるようになった。ヨハンナの作家活動がすでに軌道に乗ったあとのことだ。彼女の処女作『フローニ』が発表されたのが 1871年、『ハイディ』の発表が1880年、彼女の夫と息子が死んだのが1885年。

ヨハンナがマイエンフェルト周辺の地理に詳しいのは彼女が小説を書くためラガーツ温泉に滞在している間に取材したからに違いなく、その取材相手はラガーツ温泉にいて、彼女の世話係になった、住み込み女中でお針子の女だったはずで、その女というのがデーテに他ならないと思っている。

ヨハンナはおそらく出版社から、ロッテンマイヤーさんがデーテに依頼したように、「地面に足も触れないような清らかなスイス娘」の話を書いてくれ、などと所望されていたと思う。ヨハンナはおそらくそういうニーズに応えて児童向けのおとぎ話のような小説もすでに2、3書いていた。だがヨハンナは、そういうリクエストに応えつつ、彼女自身がリアルなスイス娘だったから、敢えてどろんこまみれになって遊ぶような、あるいは困窮してぎりぎりの生活をしているようなスイス娘も描いてみたかったのだと思う。ヨハンナの根っこにあるのは明らかにそういったリアリズムであって、ファンタジーではない。ファンタジーを期待したのは出版社と読者だと思う。

『ヨハンナ・シュピリ初期作品集』の解説にも書いたが『ハイディ』は同時に『フローニ』の続編として書かれたのだと思う。つまりフローニはハイディの母で、アルムおじさんの妻なのだ。その子がトビアスで、トビアスとアーデルハイトが結婚して産んだ子がハイディ。ハイディを引き取ったアーデルハイトの妹がデーテ。そういう設定にしたのだと思う。なんでそんなややこしいことをしたかといえばやはりヨハンナは『フローニ』に愛着があったためではないか。

対訳ハイディについて

自分の中では『ハイディ』は単なる客寄せだと思っている。これだけ和訳もされ、アニメにもなっている作品を今更私が訳したところでそのこと自体にあまり意味はない。

ただ私としてはもう少しヨハンナ・シュピリの書いたものをきちんと読みたいと思っていて、そのためには訳が豊富な『ハイディ』で練習してから、それ以外のものを訳すほうが、遠回りだけど近道なのかなと思ってもいる。もちろん『ハイディ』そのものもきちんと読んでおかなきゃならない。自分ではこう訳したがほんとうはこう訳したほうがいいんだなとか、あーそういう訳し方があるのかでは似たような構文はそんなふうに訳そうとか、そもそもドイツ語を訳すこと自体それほどまだ私はうまくないから、やることはいくらでもある。

ただ今回『ハイディ』を訳していて思ったのは、他のシュピリの作品を訳すよりずっと面白いし楽しいし、はかどるってことだった。なにしろもうあらすじは知ってるし、もともと興味深い作品だしね。

翻訳にせよ、小説の『ハイディ』を読むほどのファンはよほどコアなマニアで、そういう人がはたしてどのくらい日本にいるのだろうか。それよりもむしろ、第二外国語でドイツ語をとっているような人が、楽しみながらドイツ語を勉強しようというときに、比較的親しみやすい『ハイディ』を読んでみようと思うことはあると思うんだよね。

今和訳されている『ハイディ』はどれも児童文学的に、子供や女性に読んでもらうようにアレンジして訳されていると思うんだよ。もちろんもともとシュピリも子供や女性向けの小説を書いているんだけど、そこからさらに和風に、女性向けにアレンジされていると思う。特に人生の辛さとか悲しみとか、病気や死とか、宗教による救済なんてあたりを、シュピリはほんとうは書きたいのだけど、そういう日本人から見て、あるいは現代人からみて、児童文学にあまりふさわしくない部分は薄めてぼかして訳されていると思うんだよ。そういう忖度した要素を削り落として、むしろ今まで忖度されてきた部分を強調して、極力原文の力強い、メリハリのある、はきはきとしたニュアンスが伝わるようにしたい。

ある意味こうした翻訳を新たに提示するってことは、今までの『ハイディ』ファンに嫌がらせをすることになるんじゃないかと思う。『ハイディ』をアニメで見て良い気分になっている人に冷や水を浴びせるようなことになると思う。それはそれで私に取っては面白いしモチベーションになることではあるのだが。私にとって『ハイディ』の中で一番リアルで面白いのはデーテで、だから『アルプスの少女デーテ』という小説を書いたりもしたのだが、私はシュピリが、情け容赦の無い現実を叩き付けてくるところが好きなんで、そういう側面を、ほんわかとしたハイディを愛好しているファンに叩き付けたい。というかそういう人たちからは嫌われるかもしれんが、ほんとうの、リアルなシュピリを知りたいと思う人もそれなりにいると思うんだよね。

たとえば『嵐が丘』なんかもそうだよね。あれほんとに作品も作者も救いようのない話なんだけど、そういう生々しくグロいあたりからは目をそらして、純粋にヒースクリフとキャサリンの恋物語として読んでる人が多いと思うんだよ。読むこともできなくはないしね。特に映画化されたものはそうだよね。そうやって原作は読者によってどんどん改変されて行き二次創作ができ、読者に取り込まれて行き、読者好みのテイストに仕立てられて、しだいに原作者はないがしろにされていく。私としては作者がなんであんな狂った話を書いたかってことのほうに興味があるね。山田五郎が、ミレーは最初歴史画家になろうとしたんだが農民画家として人気が出たので農民の絵ばかり描かされたって話をしてたけどある意味シュピリもそれに近いと思う。そんなこと言ったら藤原定家だって本居宣長だって富野由悠季だってみんな同じようなもんだ。

こういう作業には WordPress より MediaWiki のほうが向いていると思うが、私としてはこのブログを読んでもらうことも『ハイディ』を公開する目的の一つなんで、けっこうめんどくさいが wordpress でやる。で、ついでに他の記事も読んでもらいたいし、小説も読んでもらいたい。そう究極の目的はこのブログから kindle等の小説に誘導することにある。

heidi 1-1-20

Die Dete hatte kein recht gutes Gewissen bei der Sache, darum war sie so hitzig geworden und hatte mehr gesagt, als sie im Sinn gehabt hatte. Bei ihren letzten Worten war der Öhi aufgestanden; er schaute sie so an, dass sie einige Schritte zurückwich; dann streckte er den Arm aus und sagte befehlend: “Mach, dass du hinunterkommst, wo du heraufgekommen bist, und zeig dich nicht so bald wieder!” Das ließ sich die Dete nicht zweimal sagen. “So lebt wohl, und du auch, Heidi”, sagte sie schnell und lief den Berg hinunter in einem Trab bis ins Dörfli hinab, denn die innere Aufregung trieb sie vorwärts wie eine wirksame Dampfkraft. Im Dörfli wurde sie diesmal noch viel mehr angerufen, denn es wunderte die Leute, wo das Kind sei; sie kannten ja alle die Dete genau und wussten, wem das Kind gehörte und alles, was mit ihm vorgegangen war. Als es nun aus allen Türen und Fenstern tönte: “Wo ist das Kind? Dete, wo hast du das Kind gelassen?”, rief sie immer unwilliger zurück: “Droben beim Alm-Öhi! Nun, beim Alm-Öhi, ihr hört’s ja!”

デーテは言わなくても良いようなことまで言ってしまって気が咎めた。最後の言葉を聞いておじさんは立ち上がった。彼がにらみつけたので彼女は後ずさりした。そしてデーテを指さして命じた、「おまえが登ってきた道を辿って降りて行け。そしてもう二度とここに顔を出すな。」デーテは彼にそれ以上とやかく言われたくなかった。「お元気で、さよなら。そしてハイディ、あなたもね。」デーテはすばやくそう言い残すと、デルフリまで早足で山を駆け下りた。彼女は先にこの集落を通り過ぎた時よりも多く声を掛けられた。みんなあの子がどうなったか知りたかったから。みんなデーテのことはよく知っていたし、かつてデーテがあの子を引き取ることになったいきさつについて、何もかも熟知していた。あらゆる戸口や窓から「あの子はどこ。」「あの子をどこにおいてきたんだい、デーテ。」と次々に聞かれた。デーテはますます答えるのが面倒になった。「アルムおじさんのところよ!聞こえた?」

Sie wurde aber so maßleidig, weil die Frauen von allen Seiten ihr zuriefen: “Wie kannst du so etwas tun!”, und: “Das arme Tröpfli!”, und: “So ein kleines Hilfloses da droben lassen!”, und dann wieder und wieder: “Das arme Tröpfli!” Die Dete lief, so schnell sie konnte, weiter und war froh, als sie nichts mehr hörte, denn es war ihr nicht wohl bei der Sache; ihre Mutter hatte ihr beim Sterben das Kind noch übergeben. Aber sie sagte sich zur Beruhigung, sie könne dann ja eher wieder etwas für das Kind tun, wenn sie nun viel Geld verdiene, und so war sie sehr froh, dass sie bald weit von allen Leuten, die ihr dreinredeten, weg- und zu einem schönen Verdienst kommen konnte.

「なんてことをしたんだい、」「なんというおバカさん、」「あんな小さくてかわいそうな子をあんなところにおきざりにするなんて、」女たちが周り中から彼女にそう叫んだので、デーテはひどく気分を害した。みんなはますますデーテを責めた。「このおバカさん。」彼女らの声が届かなくなるところまでデーテはできるかぎり速く走った。彼女は自分のしたことにすっかりおちこんだ。彼女の母は死ぬ時彼女にあの子を託したというのに。だが彼女は静かにつぶやいた、もし自分がもっとお金を稼ぐようになったら、前よりもずっとあの子のために良いことをしてあげられると。そして、デーテに散々悪口を言った連中から遠く離れた新天地で、すばらしい仕事に就けるということに、大きな喜びを感じていた。


Das arme Tröpfli。arme は英語の poor で惨めとか愚かという意味。Tröpfli は Tropf (まぬけ。愚鈍) + li。

German language dialects

It is also common to use the diminutive suffix <-le> in this context: Spätzle, Grüßle, Peterle, Leckerle. The <-li> suffix is popular in Swiss German, as in Grüßli, Züri, and Müsli. While the word Müsli has been so rooted in our vocabulary that we sometimes use it without realizing it was once a dialect: a Swiss doctor came up with an alternative way for his patients to eat healthily, and thus the name muesli derives from the word Mus – mashed fruit – in the Swiss variant with our favorite suffix we get Müsli.

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%8C%87%E5%B0%8F%E8%BE%9E

diminutive suffix 指小辞には特別な意味はないが、小さなとか、親しみを込めるとか、元の意味どおりではないが少し別のものを派生させるときに使う接尾語のようなものを言うらしい。なのでここでは、あからさまに「バカ」というのではなく「おバカさん」のようにやや語意を弱めて表現してみた。

heidi 1-1-19

“Ich wünsche Euch guten Tag, Öhi”, sagte die Dete hinzutretend, “und hier bring ich Euch das Kind vom Tobias und der Adelheid. Ihr werdet es wohl nicht mehr kennen, denn seit es jährig war, habt Ihr es nie mehr gesehen.”

「ごきげんよう、おじさん、」デーテは歩み寄って言った、「トビアスとアーデルハイトの子をあなたのところへ連れてきました。この子をあなたはおわかりにならないでしょうね、なにしろこの子が1才の頃以来、あなたは会ってないのだから。」

“So, was muss das Kind bei mir?”, fragte der Alte kurz; “und du dort”, rief er dem Peter zu, “du kannst gehen mit deinen Geißen, du bist nicht zu früh; nimm meine mit!”

「で、ワシにこの子をどうしろと?」老人はそっけなく聞いた。「そしてそこのおまえ、」彼はペーターに叫んだ、「お前は早く山羊たちを連れていけ。ワシの山羊どもも一緒にな!」

Der Peter gehorchte sofort und verschwand, denn der Öhi hatte ihn angeschaut, dass er schon genug davon hatte.

ペーターはその言葉に従ってただちに立ち去った。彼に老人はもうこれ以上居てほしくなかったから。

“Es muss eben bei Euch bleiben, Öhi”, gab die Dete auf seine Frage zurück. “Ich habe, denk ich, das Meinige an ihm getan die vier Jahre durch, es wird jetzt wohl an Euch sein, das Eurige auch einmal zu tun.”

「あの子はあなたのところにいるべきなのよ、おじさん、」デーテは彼の質問に答えた。「私は四年間の間、もう十分にあの子のめんどうを見てあげたと思うわ。あの子はあなた次第なのよ。今度はあなたの番よ。」

“So”, sagte der Alte und warf einen blitzenden Blick auf die Dete. “Und wenn nun das Kind anfängt, dir nachzuflennen und zu winseln, wie kleine Unvernünftige tun, was muss ich dann mit ihm anfangen?”

「それで、」老人はデーテをチラリと見て言った。「もしその子が、聞き分けの無い小さな子がするように、ぐずったり、しくしく泣き始めたら、ワシはその子に何をすれば良い?」

“Das ist dann Eure Sache”, warf die Dete zurück, “ich meine fast, es habe mir auch kein Mensch gesagt, wie ich es mit dem Kleinen anzufangen habe, als es mir auf den Händen lag, ein einziges Jährchen alt, und ich schon für mich und die Mutter genug zu tun hatte. Jetzt muss ich meinem Verdienst nach, und Ihr seid der Nächste am Kind; wenn Ihr’s nicht haben könnt, so macht mit ihm, was Ihr wollt, dann habt Ihr’s zu verantworten, wenn’s verdirbt, und Ihr werdet wohl nicht nötig haben, noch etwas aufzuladen.”

「それはあなたの問題よ、」デーテは投げ返した、「たった一才の子を私が手渡されたとき、誰も私に何から始めたら良いか言ってくれる人はなかったわ。私と私の母はもう十分に役目を果たした。今、私には私自身の仕事をしなくちゃならない。そしてあなたはあの子の一番の身内なのよ。もしあなたがあの子の面倒を見れないというのなら、あなたなりにあの子にしてあげられることをして。あの子がどうなろうとその責任を負うのはあなた以外にいないのよ。あなたはこれまでそんなふうに重荷を背負ったことはなかったかもしれないけどね。」

heidi 1-1-18

An die Hütte festgemacht, der Talseite zu, hatte sich der Öhi eine Bank gezimmert. Hier saß er, eine Pfeife im Mund, beide Hände auf seine Knie gelegt, und schaute ruhig zu, wie die Kinder, die Geißen und die Base Dete herankletterten, denn die Letztere war nach und nach von den anderen überholt worden. Heidi war zuerst oben; es ging geradeaus auf den Alten zu, streckte ihm die Hand entgegen und sagte: “Guten Abend, Großvater!”

山小屋にはおじさんが自分で座るためのベンチが取り付けてあり、彼はパイプをくわえて、両手を膝の上にのせて、そこに座っていた。落ち着いた表情で、子供らや山羊やデーテおばさんが登ってくるのを見ていた。デーテは少し後からついてきた。ハイディはまっさきに老人のところへ登ってきて、手を差し伸べて、言った、「こんにちは、おじいさん。」

“So, so, wie ist das gemeint?”, fragte der Alte barsch, gab dem Kinde kurz die Hand und schaute es mit einem langen, durchdringenden Blick an, unter seinen buschigen Augenbrauen hervor. Heidi gab den langen Blick ausdauernd zurück, ohne nur einmal mit den Augen zu zwinkern, denn der Großvater mit dem langen Bart und den dichten, grauen Augenbrauen, die in der Mitte zusammengewachsen waren und aussahen wie eine Art Gesträuch, war so verwunderlich anzusehen, dass Heidi ihn recht betrachten musste. Unterdessen war auch die Base herangekommen samt dem Peter, der eine Weile stille stand und zusah, was sich da ereigne.

「おやおや、こりゃどういうわけかね、」老人は無愛想に答えて、分厚いの眉毛の下から突き通すようなまなざしで見つめながら、軽く女の子の手をとった。ハイディは瞬きすることもなく、じっと見つめ返した。ハイディはおじいさんのもじゃもじゃしたまゆげやひげにびっくりして、もっとよく見ようとした。そのうちにデーテとペーターが追いついて、いったい何がおきているのか、黙って立ったまま見ていた。

heidi 1-1-17

“Du stehst ja doch nur und reißest deine Augen auf und kommst, denk ich, nicht weit auf die Art!”, rief ihm die Base Dete zu. “Komm her, du musst etwas Schönes haben, siehst du?” Sie hielt ihm ein neues Fünferchen hin, das glänzte ihm in die Augen. Plötzlich sprang er auf und davon auf dem geradesten Weg die Alm hinunter und kam in ungeheuren Sätzen in kurzer Zeit bei dem Häuflein Kleider an, packte sie auf und erschien damit so schnell, dass ihn die Base rühmen musste und ihm sogleich sein Fünfrappenstück überreichte. Peter steckte es schnell tief in seine Tasche, und sein Gesicht glänzte und lachte in voller Breite, denn ein solcher Schatz wurde ihm nicht oft zuteil.

「ぼーっとつったってるんじゃないよ。どうやらタダじゃあ言うことをききそうもないね、」デーテはペーターに叫んだ。「さあどう、良い物をあげよう。みてごらん。」彼女は彼にピカピカ光る新しい5ペニヒ銅貨を差し出した。とたんに彼は飛び出して一直線にアルムを駆け下り、服が山と積まれた場所まで至り、すべて回収してすばやく短い時間でおばさんのところまで戻った。おばさんは彼を褒めて直ちに5ペニヒ銅貨を手渡した。ペーターはそれをすぐにポケットの底にしまい、満面の笑みを湛えた。そんなお宝はめったにもらうことがなかったのである。

“Du kannst mir das Zeug noch tragen bis zum Öhi hinauf, du gehst ja auch den Weg”, sagte die Base Dete jetzt, indem sie sich anschickte, den steilen Abhang zu erklimmen, der gleich hinter der Hütte des Geißenpeter emporragte. Willig übernahm dieser den Auftrag und folgte der Voranschreitenden auf dem Fuße nach, den linken Arm um sein Bündel geschlungen, in der Rechten die Geißenrute schwingend. Das Heidi und die Geißen hüpften und sprangen fröhlich neben ihm her. So gelangte der Zug nach drei Viertelstunden auf die Almhöhe, wo frei auf dem Vorsprung des Berges die Hütte des alten Öhi stand, allen Winden ausgesetzt, aber auch jedem Sonnenblick zugänglich und mit der vollen Aussicht weit ins Tal hinab. Hinter der Hütte standen drei alte Tannen mit dichten, langen, unbeschnittenen Ästen. Weiter hinten ging es nochmals bergan bis hoch hinauf in die alten, grauen Felsen, erst noch über schöne, kräuterreiche Höhen, dann in steiniges Gestrüpp und endlich zu den kahlen, steilen Felsen hinan.

「あんたにはその荷物をアルムおじさんのところまで運んでもらうよ、どうせあんたもいくんでしょ、」ペーターの小屋を後にして、デーテおばさんはそう言った。ペーターは左腕に荷物を抱え、右手で山羊飼いの鞭を振りながら、喜んで仕事を請け負った。ハイディと山羊たちは傍らで楽しげに飛んだり跳ねたりした。一時間近くで一行はアルムの高原についた。ふきっさらしで、日光がじかにふりそそぐ、谷底を見渡せる崖の上に、おじさんの小屋が建っていた。小屋の裏手には三本のもみの木が厚くて長い、選定されていない枝を伸ばして立っていた。登ってきた方を見渡すと、灰色の岩と美しい草地が続く高原、そしてその彼方には向き出しの険しい岩山が見えた。

heidi 1-1-16

Das Kind zeigte ruhig den Berg hinunter und sagte: “Dort!” Die Base folgte seinem Finger. Richtig, dort lag etwas und obenauf war ein roter Punkt, das musste das Halstuch sein.

女の子は落ち着いて山の下を指さして言った、「あそこ!」デーテおばさんはその指先を見た。たしかに、そこには何かがあって、その上に赤い点がある。それはきっとスカーフに違いない。

“Du Unglückstropf!”, rief die Base in großer Aufregung. “Was kommt dir denn in den Sinn, warum hast du alles ausgezogen? Was soll das sein?”

「おばかさんね、」デーテおばさんは癇癪を起こして叫んだ。「いったいどういう了見で、あんたは全部服を脱いでしまったの。」

“Ich brauch es nicht”, sagte das Kind und sah gar nicht reuevoll aus über seine Tat.

「私にはあれが要らないの、」女の子は自分のやったことをまったく反省することなくそう言った。

“Ach du unglückseliges, vernunftloses Heidi, hast du denn auch noch gar keine Begriffe?”, jammerte und schalt die Base weiter. “Wer sollte nun wieder da hinunter, es ist ja eine halbe Stunde! Komm, Peter, lauf du mir schnell zurück und hol das Zeug, komm schnell und steh nicht dort und glotze mich an, als wärst du am Boden festgenagelt.”

「ああ、ハイディ、あなたはなんて無分別な子なんでしょう。あなた自分が何をしでかしたかわからないの?」おばさんはさらに歎き、叱った。「誰かに降りて取ってきてもらわないと。半時間はかかるわね。さあ、ペーター。走ってあの荷物を取ってきて。突っ立って、私を眺めてないで、急いでちょうだい。」

“Ich bin schon zu spät”, sagte Peter langsam und blieb, ohne sich zu rühren, auf demselben Fleck stehen, von dem aus er, beide Hände in die Taschen gesteckt, dem Schreckensausbruch der Base zugehört hatte.

「僕はもうだいぶ遅れてしまった、」ペーターはゆっくりとそうしゃべり、ポケットに両手を突っ込んだまま、怒りにまかせたおばさんの言葉を聞きながら、その場から動こうとしなかった。